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第5話 天の声

馬の名前は 、 takasiさんより頂きました。

takasiさん、ありがとうございました。

「名前……馬の名前……牝馬……ウオ〇カ、スカーレット、ブエナ〇スタ、ジェンテ〇ルドンナ」


「あの~……シノブ様。もう少し可愛い名前で……」


 俺の呟きに、シャルが馬の様子を気にしながら提案してくる。


「スカーレットとか可愛いと思うけど?」 


 俺の言葉を聞いて、シャルが馬に話しかけると、馬はシャルを見て首を横に振っていた。


「シノブ様、その名前は何だか波乱万丈の上、最終的に没落しそうで嫌だそうです」


 スカーレット・オ〇ラかよ!と言うツッコミは心のうちに秘めて、再度考えることにした。


「可愛い名前ね……ユキチ〇ン……ハル〇ララ……」


「今度は、もう少し強そうなのがいいみたいです」


 馬のくせに、なんて注文が多いんだ。何だか段々と面倒臭くなって来た。


「いっその事、『ウマ子』か『どさん子』にでも……何でもないです。真面目に考えさせていただきます、はい。」


 適当な名前を呟いたら、今度は馬に睨まれてしまった……しかし、こいつはなんて目をするんだ……まるで、親の仇としてGを憎んでいる、火星探査船の幹部のような目で俺を睨んでいた。

 反射的に謝ってしまったが、どさん子は結構可愛い響きだと思うんだけどな。

 

 一向にいい名前が出ないまま時は過ぎ、いつの間にかもう少しで村に入るという所まで来ていた。


「いい名前が思い浮かばないね~」


 俺のやる気のない態度に対し、馬は怒り気味のようであったが、思い浮かばないものは仕方がないのだ!

 そんな態度を取っていると、ふと頭にある言葉がよぎった。


『カエデはどうですか~』

『ですか~』

『すか~』


 俺は咄嗟に辺りを見回したが、俺の近くにはシャルと馬を除いて誰もいない。

 そのまま何気なくあたりを探っていると、村の入口の近くに一本の木が見えた。

 その木を見た瞬間、ふと閃いた。これならいけるんじゃないかと。

 

 俺は早速、馬の轡を2、3回引いて注意を引くとその木を指さした。


「お前の名前はあれだ!」


 俺の言葉にシャルと馬は、同時に木の方向を向いた。

 俺は今回こそは満足するだろうと思っていた。しかし、シャルと馬からは何の言葉も発せられず、寧ろプルプルと馬の体が震えだした。


 どうしたのだろうかと思い馬を見ると、何故か突然に、馬と馬車を繋いでいた金具が外れた。


「ぶるるるぅ!」


 馬は体から湯気が昇りそうなほど興奮し始め、俺を今から殺すような目で睨み始めた。


「お、おいっ!ちょっとどうしたんだ、急に!」


 俺は興奮する馬をなだめようと、馬車を降りて馬の近くに寄ろうとしたが、

 バクンッ

 と近づけた腕を噛まれてしまった。


「いってぇーー!何するんだ!」


 俺は咄嗟に腕を払って距離を取ったが、馬は噛んだだけに飽き足らず、俺に向かって突進をしてきた。

 馬の血走った目を見た俺は命の危険を感じ、馬車の周りを走るように逃げ始めたが、馬は見事なフットワークで俺を追いかけた。


「シャル!助けてくれ!何故か知らないが、馬が急に襲いかかってきた!」


 俺は先程から何故だかは分からないが、馬とコミュニケーションを取ることの出来ていたシャルに助けを求めたが、シャルはその場から動こうとはせずに、口元に手でメガホンのような形を作り、大きな声でしゃべりだした。


「流石に今のはシノブ様が悪いですよ~~!いくら馬とは言え、女の子にあんな名前を付けようだなんて、最低です~~~!」


 そう言ってシャルが指差したのは、俺が指差していた木……の下にある、動物の糞だった。


「う、う〇子だなんて、何を考えているんですか~~~!」


 シャルの照れた顔は可愛かったが、じっくりと観察をしている暇はない。

 なぜなら俺の背後からは、勘違いをしたまま俺を殺さんと追いかけている『馬の形をした死神』が追いかけて来ているのだ。

 もし、一瞬でも気を抜いてしまったら、間違いなく殺される!そんな恐怖に急き立てられて、俺は反撃する事も忘れ、ただただ逃げ回るしかできなかった。



 シャルと馬が見ていた物と俺が見ていた物が違うという誤解が解けたのは、(死に物狂いの)追いかけっこが始まってから1時間は経とうかという頃であった。


 もし、ジジイの手違いによって、俺の身体能力が上がるチートがもたらされていなかったのならば、俺の命はここで潰えていただろう。

 俺は初めてあの酔っ払いジジイに感謝した(一瞬だけ)。


「誤解が解けて何よりだ……この木は楓の仲間だと思う。俺の国では楓は女性に付ける事もある名前で、季節によっては葉っぱの色が赤や黄色などに変わって、とても綺麗で人気のある木の名前なんだけど……名前は『カエデ』でどうだろうか?」


 俺の説明を聞いて、シャルが馬にお伺いを立てる。

 馬はしばらく考えた(ように見える)後、大きく首を縦に振った。


「気に入ったようです。とても綺麗で人気のある、と言うのが良かったみたいです!」


 なんとか気に入ってもらえたようだ……ところで、なんで俺が馬の名前でこんなに苦労をしないといけないのだろうか?

 馬改め、カエデに馬車を繋ぎ直しながらそんな事を考えていた。

 しかし、この留め具もタイミングよく外れたもんだ。確かにしっかりと繋いだはずなのに、この金具には壊れたところが見当たらない。

 不思議な事もあるもんだ……これが神の悪戯だと言うのならば、俺は神を恨むけどな!


 馬車をカエデに繋ぎ直して、俺達は村の中に入っていった。

 目的地はギルドで、依頼の薬草を届けるためだ。


 ほどなくしてギルドに到着した俺達は、カエデを専用スペースに繋ぎ、建物の中に入った。


「あれ?もう戻ってきたんですか?早いですけど何かありましたか?」


 俺達を見て声をかけてきたのは、出発前に俺達に依頼の説明をしてくれた受付嬢だった。

 受付嬢の反応を見るに、今回の俺達の帰りは早い方みたいだ。

 馬車もあったし薬草も簡単に見つかったので、薬草採集の依頼はあれくらいの時間で終わるものだと思っていたが、どうやら違うようである。


「いえ、薬草がだいぶ集まったので、早めに帰ってきたんです。馬車もありましたから、移動にそこまでの時間はかからなかったですし」


 俺の言葉に納得して、受付嬢は依頼の薬草の提出を求めてきたので、5kgに分けた薬草の入った篭をカウンターの上に置いた。


「すごいですねっ!初めての依頼で、薬草をこんなに集めた人はいませんでしたよ!しかもこんな短い時間で!」


 驚いている受付嬢を尻目に、俺は依頼達成の用紙に薬草の受け渡しのサインをした。


「そう言えば、ゴブリンも狩ったんですけど……これはどうしたらいいですか?」


 俺は受付嬢に、ゴブリンの歯の入った布袋を渡すと、受付嬢は驚いていた。


「薬草採集の合間に、ゴブリン退治までしていたんですか!」


 驚く受付嬢は、袋の中身を見てさらに驚いていた。


「これは、ハイゴブリン!少しお待ちください!ギルド長に報告してきます!」


 受付嬢は慌てて奥に引っ込んでいった。

 そんなに慌てることなのか?と疑問が湧いたが、とりあえずは待つことにした。


「ハイゴブリンを退治したって本当かい!」 


 それからすぐにギルド長はやって来て、早々に質問を始めた。


「ええ、名前は初めて聞きましたけど……何なんですか、こいつは?」


 俺の質問にギルド長は、一冊の本を俺の前に広げた。


「倒したゴブリンはこいつで間違いないんだね!」


 ギルド長が指差したところには、俺が先程倒したゴブリンに似たもの(・・・・)が載っていた。


「少し違います……色はもっと黒っぽかったような気がする」


「なんてこった……そこまでの規模になっているのか……」


 俺の言葉を聞いたギルド長は頭を抱えた。


「あの~……黒っぽいと何がいけないんですか?」


 頭を抱えているギルド長に、シャルが遠慮がちに聞いた。


「ああ、その説明はちょっと待ってて……誰か!近くの村や街に救援を求めてくれ!内容は、『ゴブリンの大繁殖の兆し有り、規模は特大の可能性高し、至急救援を求む』だ!」


 それを聞いたギルド職員達は慌て出し、受付を閉ざして一斉に動き出した。


「ごめんよ、ほったらかしにして……黒いゴブリンの話だったね。本来、ゴブリンと言う魔物は体の色が緑色をしているんだよ……これはハイゴブリンと呼ばれる上位種も同じだ」


 そう言って、先程の本に載っているゴブリンの絵を指した。


「しかし、群れが大きくなるほどに、ゴブリンの中で上の地位に居る個体の体が黒ずんで行くんだ。普通の個体に比べて黒ずんだ個体は、例外なく普通のものより強い……黒化は群れの長から始まり、次の階級に属するゴブリン、そのまた次の階級のゴブリン、といった具合に……そしてハイゴブリンは下から2番目の階級なんだ……過去の傾向から言って、ハイゴブリンが黒ずんだ時には、その群れの規模が二千から三千を超えているんだよ」


 ギルド長の説明を聞きながら、本に書いてあったゴブリンの説明文を読むと、そこにはこう書かれてあった。


『ゴブリンとは魔物の中で最弱の部類の魔物ではあるが、その一つ上のハイゴブリンは一般男性と比べて少し弱いくらいであり、そのまた上のゴブリン達に至っては一般男性の強さを凌駕するものばかりである』


 その説明を見て、俺はギルド長に質問をしてみた。


「このハイゴブリンより上の種類とは何ですか?」


「ゴブリンはね、希に人に似た社会制度を作る事があるんだよ。下から、ゴブリン、ハイゴブリン、次に、ゴブリンウォリアー、ゴブリンナイト、ゴブリンメイジなどの名で呼ばれる、ゴブリンロード、さらにその上のゴブリンジャネラル、そしてそれらの頂点に立つ、ゴブリンキング、またはゴブリンクイーン」


「そうなると、ハイゴブリンが黒ずんでいたという事は……」


「ああ、その上の階級のゴブリン達は、その全てが黒化していると見ていいだろう」


 確かにそれは大変だ。どのくらいの規模で、ハイゴブリン以上のゴブリンがどれくらい存在するのか分からないが、仮に群れの規模が二千で、その内のほとんどが最弱のゴブリンだとしても、この村の人間だけでは到底捌ける数ではない。


「このゴブリンを発見したのはどこですか!」


 ギルド長の質問に、俺はここの職員から教わった場所だと言うと、更に慌てだした。


「そんな近くにですか!」


 ギルド長は大声を上げた後、俺の手を掴んで頭を台に叩きつける勢いで懇願してきた。


「どうかお願いします!力を貸してください!少しでも戦力が必要なんです!」


 正直、俺としてはこの村からシャルを連れてさっさと逃げたい。誰が好き好んで危険な目に合わないといけないのか。


 そんな考えがギルド長に伝わったのだろう。ギルド長は俺の手を握る力を強めてきた。


「ゴブリンの大群に襲われて負けた村は悲惨な事になるんです!男はおもちゃ代わりに遊びながら殺され、女は死ぬまで子供を産ませ続けられるんです……しかも、奴らの性欲と繁殖力は魔物の中で最も強く、妊娠中でも奴らは構わずに女性を陵辱し続けるんです!もし、あなたの知り合いが襲われでもしたらどうするんですか!」


 ギルド長は最後に泣き落しを使ってきた。いつもの俺であったら、そうなる前に逃げる、と言うところだが、今回はそういう前に、シャルがゴブリン共に襲われているところを想像してしまった。

 そうなるともう駄目だ!想像の中であったが、ゴブリン共を許せそうにない!


「はぁ……分かりました……」


「本当ですか!ありがとうございます!」


 ギルド長はものすごく感謝をしている様であったが、俺はそんな事に構わずに言葉を続けた。


「ただし!どうにもならないと判断したら、俺は彼女を連れて逃げます。その条件が飲めるなら協力しましょう」


 ギルド長は俺の言葉を聞いて随分と考え込んでいたが、最後には了承した。


「では、詳しい事は職員が戻ってきてからにしましょう。そうですね……準備が整いましたら、村の中央にある鐘を鳴らします。それを合図にギルドに来てください」


 そういう事になったので、とりあえず宿に戻りことにした。


 シャルと共にカエデの所まで行くと、自然と今後の話になった。


「今日の感じだと、あのハイゴブリンと同じかそれより少し強いくらいだったら、百や二百来たところで問題なく逃げ切ることは出来ると思う」


 俺はカエデを見ながらそう言った。カエデも俺の言葉に意味を理解したようで、当然だ!と言わんばかりに一鳴きした。

 こいつの脚なら、例え凱旋門だろうがドバイだろうが敵無しだろう!……品種が違うけど……


「でも、本当にいざとなったら逃げるんですか?」 


「ああ、逃げるよ。出来るなら宿屋の人達も連れて」


 俺はハッキリと言いった。中途半端に言うよりは、シャルも分かり易いと思ったからだ。

 

「他の人達は見捨てるんですか?」


 シャルは少し失望したのかもしれない。だが、今の俺にはこの村に対してそれほどの思い入れもないし、心中してまで助ける義務もない。

 その事を話した上で、シャルに俺が一番優先しないといけない事を告げた。


「俺が一番大事なのはシャルだよ。だから、俺の命を賭けたくないし、もちろんシャルの命も賭けたくない……もちろんカエデもな!」 


 危うくカエデの事を忘れるところであった。


「それに宿屋の人達にも世話になっているから、なるべくなら助けたい……でも絶対ではない。それだけシャル達の方が大切なんだ!」


「シノブ様……」


 シャルは俺の言葉を聞いて、頬を薄らと赤く染め、目には涙を浮かべていた。


「だから分かってくれ。いざとなったら、俺はシャルを優先させると言う事を……」


「そんな事を言われたら、私には反対することなんて無理です……ずるいです、シノブ様……」


 シャルはそう呟くと俺の胸に体を預けてきた。

 俺はシャルの身体の柔らかさをずっと堪能していたかったが、今はその時では無い。

 少しの間だけシャルの髪を撫でながら落ち着かせると、俺達は宿に戻る事にした……今後の対策を宿屋の人達と話し合うために……

2015/05/31が日本ダービーの日、ということで、競馬ネタが含まれております。

次の投稿にも、もしもの話で競馬に因んだ話となっております。

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