第4話 伝説の再来?
「すいません。俺達ギルド登録をしたいのですが、やり方がわからないんですけど」
俺はカウンターに座っていた女性(受付嬢というには年季が入っている)に聞いてみた。
「はい、大丈夫ですよ。そのような方は多いのでこちらで教えています」
と言って、正面の椅子に俺とシャルを座るように言った。
「こちらにお名前と年齢、種族をお書きください。名前の下の欄にある『職業』は後ほど調べますので書かないでください」
そう言われて記入をしていく。
記入が終わると、女性がその紙を受け取り、奥の部屋へと案内された。
その部屋には大きな水晶があり、その前まで案内された。
「この水晶に両手で触れて、水晶の中心に意識を集中してください」
そう言われたので俺からやってみることにした。
手を触れて集中すること30秒、目の前の水晶が光り始めた。
職業……忍者・剣聖・武神・聖騎士・大魔導師・大賢者・暗殺者・料理人などなど、色々なものが水晶に浮き出ていた。その8個以外は小さく表示されており、小さく表示された職業の中には賞金稼ぎなどが書いてあった。
「少々お待ちください!上の者を呼んできます!」
受付のお姉さん(社交辞令)は部屋の外に飛び出して行った。
それにしてもいろいろと凄そうなものが表示されているが……一番最初のこれはあまり見たくなかった。
なぜなら家は、『神崎流忍術』なるものを掲げる由緒正しき?忍者の末裔なのだ。
しかしながら、何故そんな流派があるかというと、さる昔、初代は才能あふれる忍者だったそうだが、あまりにも優秀すぎたため、使えていた主君に殺されそうになったそうだ。
しかし、難を逃れた初代は、各地を放浪している時に、ある兵法家に出会いその門下に入ったそうだ。その兵法家は何を隠そう、あの有名な塚原卜伝なのだ!……というのが酔っ払った時の、親父やじいちゃんの決まり文句だった。
俺は話半分に聞いていたため、塚原卜伝云々は信じていないが、歴史の古い流派(全く知られてはいないが)であることは間違いがない(家の蔵から古い資料が見つかったため)、と思う。
そんなこんなで、俺は幼少の頃より、色々な技術や格闘技を叩き込まれた。
意外にも俺には才能があったらしく、高校に入る頃には親父よりも強くなっていた。
そんな事を考えていると、
「ギルド長!ここです、ここ!この部屋に忍者が現れたんですよ!」
そんなに忍者が珍しいのか……珍しいな、うん!
部屋の外から慌てたお姉さんが、ギルド長と呼んでいた男性を引きずりながらやって来た。
「え~っと……忍者の職業が出たのは君かい?」
一見して若そうに見える男性だが、その目は老獪さも伺える。
「ええ、言われた通りに水晶に触れてみると、なんか出ちゃいました(てへっ)」
……いかんな、俺がやっても全然萌えない……むしろ、萎える!今後気をつけよう……
「まぁ、それはともかくとして……忍者って珍しいのですか?」
その質問に、ギルド長と呼ばれた男は目を細め、俺を値踏みするように見つめてきた。
「……惚けている様には見えないね……本当に知らないのかい?」
ギルド長の質問に俺とシャルは頷いた。
「あの~ギルド長さん……私の種族は森の奥に代々住んでいて、シノブ様も遠い東の方から来たばかりなのだそうで、あまりこの国の事に詳しくないのです……」
遠慮がちにシャルがフォローを入れる。
「それだったら知らないという事もあり得るか……忍者というのは伝説の職業とされていて、過去に10人程の男達にその職業が現れただけで、それ以降は正式な職業として水晶に表示された者はいないんだよ」
モグリは何人も現れたけどね、と付け加えながら教えてくれた。
なんでも、この国では物語になるくらいに有名な話で、かなり有名な職業であるらしい。
その物語では、およそ2000年前、この国が建国される前の時代のある王が戦場へ出陣した時の事、王は自分の権力を狙う大臣の奸計にはまり、敵陣で孤立し囲まれてしまうという、絶体絶命のピンチの陥ってしまう。
自分の周りのは近衛を含む200の兵、一方で王を包囲する敵国の兵は1000、その数に囲まれ援軍も遠くで戦闘を開始しており王の救援に向かえない状況だった。
死を覚悟した王の目の前に、突如としてまばゆい光が溢れ、その光の中から10人の黒尽くめの男達が現れた。王は、「これぞ天の助け!」と思い、男達に自分達を助けてくれるように懇願した。
王は見事この場を切り抜ける事が出来たなら、男達の望む褒美を取らす、と条件を出して男達を味方につけた。
男達は承諾すると、目にも止まらぬ速さで敵軍に切り込み、あっという間に包囲していた敵兵達の将軍を討ち取った。そしてその勢いのままに男達は戦場を駆け回り、いくつもの敵軍の重要人物の首を持ち帰ってきた。
それにより王はその戦争に勝ち、国を大きくした。そして、戦争がある度に男達を使って国を勝利に導いたのだが、次第に王は男達が疎ましくなっていった。
そこで王は褒美を取らせると言って、男達を呼び出して殺害することにした。
不意を突かれ瞬く間に仲間が死んでいく中で、4人の男がその場を脱出することに成功した。
王は取り逃がした男達に大罪人として懸賞金かけると共に、何十回と捜索隊を繰り出したが、男達の髪の毛一本すら見つからなかった。
やがて王は、男達は自らの手で処刑した、と公表して捜索を打ち切るが、打ち切った直後から王国の要人達の不可解な死が続いた。
それはやがて王族にまで被害が出るようになり、民衆は男達の祟りとして恐れた。
次第にノイローゼになっていく王、やがて王は男達の祟りに恐怖していった。
そんな中、次代の王である皇太子が死に、その次の王子、そのまた次の王子と次々に死んでいく。
やがて王妃や側室までもが死んでいく中で、遂に王は壊れてしまった。
壊れる間際の王が見たものは、4人の男達であったという。
その王国は王が壊れると同時に、何者かの手引きによって国内に潜伏していた敵国の者達によって滅ぼされる事となってしまった。
その後も男達の行方は知られないままであったという。
というのが忍者の物語だそうだ。この作品には『忍者』とは出てこないが、他の場面を描いた物語には、王城で男達が水晶に触れるシーンが書かれており、その表示される職業に忍者という言葉が書かれているそうだ。
ちなみに、生き残った4人の名前だけは残っているそうで、その名前は、モモチ、ハットリ、フジバヤシ、モチヅキ、と、どこかで聞いたことのあるような名前だった。
そして、物語のタイトルは『忍者伝説』と言うそうだ。
「そんな訳で、この国の者なら忍者という職業は有名で、子供達……特に男の子は、小さい頃に一度は忍者に憧れるものなのさ」
なのさ、と言われてもどんな反応をしていいのか分からない……分かりたくもない!……だって、恥ずかしいんだもん!……キモッ
只今脳内が混乱しており、お見苦しい描写がありましたことをこの場にて謝罪致します。大変申し訳ございませんでした……じゃなくてっ!
「これが他の人に知られたらどうなります?」
「間違いなく面倒くさい事になります!貴族なんかに知られると、更に厄介です!」
言い切った!ギルド長、言い切ちゃったよ!
その場で俺は脳内会議をフル稼働させて……出した答えがこれだ!
「お願いします!この事は黙っていてください!」
いわゆる、DO・GE・ZAを臆面もなく敢行した!なんなら土下寝してもいい!分かったと言ってくれ、ギルド長!
ギルド長がなかなか、うんっ、と言ってくれないので、土下寝に移行しようとした時、
「わ、分かりましたから立ってください!お願いします!」
俺の頭上から慌てたようなギルド長の声が聞こえて来た。
顔を上げるてみると、ギルド長と受付のおねーさんは顔を真っ青にして慌てていた……はて、何があったのだろうか?
そんな疑問と共に立ち上がると、ギルド長達は怯えたように少し後ずさった。
「誰にも言いませんから、祟るのだけはやめてください!」
何だか、今度はギルド長達の方が土下座でもしそうな勢いである。しかし、人を祟神みたいに言うのはやめてくれ!
とりあえず俺の職業は秘密、という事で決定した。
職業はメインに一個、サブに一個が普通らしいが、人によってはサブを複数付ける事が出来る者もおり、俺もそれに該当するようだ……ちなみに、メインもサブも適性がある職業ならば、ギルドに来ればいつでも入れ替える事が可能だそうだ。
なので考えた末、メインに料理人、サブに剣聖・武神・聖騎士・大魔導師・大賢者を付ける事にした(サブが5個もあるのは異常らしいが、忍者ならそんな事もあるか、と納得された)……のだが、
「え~っと……登録されません……」
何故かカードに職業が浮かび上がらなかった。
カードとは、通称『ギルドカード』と呼ばれる物で(正式には、ギルド登録者専用証明カード、と言うらしいのだが、誰も呼ばないので半分忘れられているそうだ)、マジックアイテムの一種であり、使用者のプロフィールが自動で更新される優れものである。
職業の組み合わせが悪いのかと思い、メインとサブを入れ替えたり、その他の職業を組み入れたりしてみたが、一向に浮かび上がる気配がない。
嫌な予感がしつつも、忍者の職業をメインに入れると……
「なんでやねん……」
職業は無事に登録された……どうやら俺の場合、(メイン)職業の選択の自由はなかったようだ……
打ち拉がれながらも、なんとか気持ちを持ち直し、サブを決めた。
名前…シノブ・カンザキ
ランク…E
メイン職業…忍者
サブ職業…剣聖・武神・聖騎士・大魔導師・大賢者
となった。剣聖・武神・聖騎士は剣士・武闘家・騎士の上位職で、本来ならばそれぞれの下位の職業を経てなれるものらしいのだが、俺にはなぜか最初からあった。
大魔導師・大賢者は魔法使い系の最上位職であり、それぞれ魔法使い・僧侶がランクアップして魔道士・賢者になった後、更にその上にある職業だそうだ。
大した違いは無いのだが、一般的に攻撃が得意だと大魔導師に、回復魔法などが得意だと大賢者になりやすいとかなんとか……
しかし、ややこしい事に、回復系のスペシャリストに、聖者、なる職業もあり、その辺の違いがあまり分かっていない。
まあ、俺の事はその辺にしておいて、次はシャルの番になった。
シャルが水晶に手を触れて、浮かび上がったのは……巫女・魔法使い・僧侶・愛の奴隷と出た……ちょっと待て、最後おかしくないか……いや、おかしい!
シャルはサブが2個あったので、サブには魔法使いと僧侶を入れて、メインには……
「ちょっと待て、シャル!それはダメだ!」
よりにもよって、愛の奴隷を入れようとした……
不思議なモノを見るような目で、なんで、と首をかしげるシャル……ものすごく可愛いが、それは承諾はできんぞ……
その後、俺とシャルの話し合いの末、なんとかメインを諦めさせたのだが、
名前…シャル
ランク…E
メイン職業…魔法使い
サブ職業…僧侶・愛の奴隷
シャルの必死の抵抗にあい、強引にサブ職業に入れられた……少しだけだが、嬉しい気持ちがあるのは気のせいではない。
なんにせよ、職業は他人に見せる義務はないので、気をつけていれば職業を知られないままでいられるらしい。
「ところで、職業に何か意味でもあるんですか?」
俺の質問にギルド長は珍しい物でも見るような顔をした。
「ええっと、例えば職業を入れる前と後では、力が違ったりとかは……」
「そんなのある訳無いじゃないか……おかしな事を聞くね」
ギルド長は呆れた顔をしながらも、職業の意味を教えてくれた。
「ギルドにおいて、職業と言うのは一種の目安だよ。人によっては、ジョブとかクラスとか呼ぶ人もいるね。これは水晶がその人の適性を表しているんだ。例えば、魔法の適性が高くて、剣など適性が低かったら、特訓する時にわかりやすいだろ。それと同じで、ギルドで仕事を受ける時の目安になる。最も、適性が無くても、訓練次第では強くなる人もいるけどね」
なんともいい加減なものだ。ゲームのように能力補正でも付くのかと期待していたのに……
そんなオタク的な発想をする俺を尻目に、ギルド長は職員に俺達のギルドカードの作成を急がせた。
どうやらギルド長としては、ギルドカードの発行の遅れで俺の印象を悪くしたくないようだ。
「はい、これがあなた方のギルドカードです。初回分は料金は発生しませんが、失くした場合は再発行に料金がかかります。もしよろしかったら、簡単な依頼でも受けてみて見てください。依頼主がギルドになっているものは、ほとんどが常時受付しているものですので、時間制限も失敗もありません。初めての以来にはもってこいです」
ギルド長はカードを手渡しながら、簡単な説明とおすすめの依頼を教えてくれたので、時間のかからない依頼を受けてみることにした。
「シャル、最初はこれを受けてみよう」
そう言って見せたのは、この村の近くで採取することのできる、薬草集めの依頼にすることにした。
シャルも賛成したのでカウンターに聞きに行くと、常設の依頼に関しては特に事前に登録する必要はなく、依頼の物をカウンターに持って来ればいいそうだ。
薬草採りのついでにゴブリンを見つけたら、退治して牙を持って来れば別に報酬が出るということなので、頭の隅にでも覚えておくことにした。
「それじゃあ行ってみよう。ところで、シャルの武器はどうしようか?」
「それならいい物がありますよ」
俺はシャルに聞いたつもりだったが、すぐ近くにいた受付嬢が返事を返してきた。
「ギルドには、壊れた武器なんかが置いてある場合が多いんです。そのほとんどが他の冒険者の処分品ですが、近くのゴブリン相手なら十分な物ばかりです。貸出は無料ですが、できれば使用後にギルドまで返却してくださるとありがたいです」
との事なので、遠慮なく貸してもらうことにした。
ギルドの外にある物置に武器は放置されているとの事なので、受付嬢に案内してもらうと、確かに壊れてはいるが、まだまだ使えそうな武器が無造作に樽に突っ込まれて埃をかぶっていた。
「この中からお好きな物をお選びください」
と言うので、適当に樽を選んで外に出してみた。
外に出した樽には、折れた剣が5本、先の刃がかけている槍が3本、手斧が1本、鉈が4本入っていた。
シャルはそれらを見比べていたが、しっくりくる物が無いようだ。
他の樽もいくつか出してみたが、使いやすそうな物は見当たらず、適当な物で妥協しようとした時、小屋の奥に一際汚れた槍が立てかけてあった。
とりあえずシャルに渡してみると、シャルはこれまでとは違い、何度か振り回してみたり、突く真似をしてみている。
「シノブ様、これに決めます」
シャルは気に入ったようだが、その槍は穂先はサビつき、柄の部分はかなり汚れており、持っただけで手のひらが汚れる有様だ。
「そんな汚れたのでいいのか?」
「問題ありません。これが一番使いやすいです」
シャルがそう言うなら俺に文句はない。
案内してくれた受付嬢に礼を言って、この槍を貸してもらうことにした。
俺が外に出した樽を片付けている間に、シャルはボロ切れをもらい、槍の柄を拭いていた。
片付け終わる頃には槍の方も幾分綺麗になっていたが、それでも完全に汚れは取れずに黒ずんでいる。
「とりあえず受付で聞いた場所に向かってみよう。村から出て歩いて一時間ほどの距離らしいから、そんなに遠くではないみたいだし」
ギルドを出て、一度宿に戻ってから薬草採取に向かうことにした。今からだったら順調に行けば昼過ぎには帰ってくることができるはずだ。
薬草の見本はギルドで見せてもらっている。形はヨモギに似ていて、匂いはハッカのようだったし、その付近には似たような形の草はないそうなので、そうそう間違えることはないそうだ。
一応ギルドの方でも確認はしてくれるそうなので、初心者でも安心とのことであった。
宿で依頼に行くことを告げて、馬車を準備して村を出発した。
流石に馬車だと目的地に着くのも早く、20分ほどで着くことができた。
目的の場所は森のすぐ近くの川沿いで、目的の薬草は風通しの良い日陰に生えるそうで、俺達は木の根元を中心に探して回った。
「ここにもあったぞ!」
「こっちにはかなりまとまって生えています!」
開始早々に、俺とシャルは次々と薬草を発見していき、ものの一時間ほどで5kgほどの薬草が集まった。
「そろそろ休憩にしよう。その後で場所を変えて、また薬草を探してみよう」
「はーい」
シャルは尻尾を振りながら俺の下に駆け寄ってきた。その様子は、狐というよりは犬で、それもかなりの甘えん坊の子犬のようだ。
俺のそばまで来たシャルは体をくっつけるようにして横に座り、腕に抱きついてきた。
かなり密着しているので、シャルの胸が俺の腕に当たって形を変えている。
そんな幸福な時を過ごしていると、無粋にも俺の邪魔をする奴らが現れた。
そいつらは背は1mほどで、黒ずんだ緑色の体に腰布と木の棒を装備しており、全部で10匹ほどで森の中から現れた。
ゲームなどでは雑魚キャラとしてお馴染みの、いわゆるゴブリンだ。
ゴブリン達は俺達を囲むようにして近づいてきて、シャルを見てニヤついている。
その股間はテントを張っており、何を考えているか分かってしまった……分かってしまった為、ゴブリン達を俺は速やかに排除する事にした。
俺の正面には1.5mほどの体格のゴブリンが立っており、この群れのリーダーと思われる。
そいつが合図を出す前に、俺はそのゴブリンに向かって石を思いっきり投げつけてやった。
ズドン!
そんな音を立てて、俺の投げつけた野球のボール程の大きさの石が、そのゴブリンの胸に命中し、そのままゴブリンの胴体を突き抜け、後ろにあった岩にぶつかって砕けた。
胸に穴の空いたゴブリンは、ゆっくりと自分の胸を触って穴を確認すると、そのまま前のめりに倒れて動かなくなった。
その音を合図と勘違いしたらしいゴブリン達が、俺達を目掛けて走り出した。
「シノブ様!半分は私が倒してみます!」
シャルは俺にいい所を見せようと張り切って槍を繰り出している。
俺の受け持ちとなったゴブリン達は距離を半分も詰めることなく、俺の投石によって全てが胸に穴を空けて倒れている。
俺はシャルが張り切っていたので、危ない時は俺が倒すぞ、とだけ言って様子を見る事にした。
傍から見ていて、シャルの槍捌きは拙かった。
槍を振るうと言うよりは、槍に振り回されているといった感じであったが、ゴブリン相手ではそれでも十分であった。
そして意外な事に、槍は錆びている割には難なくゴブリンを切り裂いていた。
開始から10分もしない内に、ゴブリンの群れは全滅した。
シャルも肩で息をしているが怪我一つなく、無事に4匹のゴブリンを仕留めていた。
「お疲れ様、シャル」
「シノブ様、なんとかなりました~」
気が抜けたシャルはその場に座り込み、大きく息を吐いている。
シャルが休んでいる間に、俺はゴブリンの牙を切り取っていく。
最初に倒した個体は他のゴブリンと違い、歯も大きく鋭かった。ゴブリンを倒す時に、頭では無く胴体を狙って投石したおかげで、全てのゴブリンから証明部位の牙を剥ぐ事ができた。
ゴブリンから牙を剥ぎ終わった後、休憩時間を伸ばしてから当初の予定通りに薬草集めを再開した。
その頃にはシャルも回復しており、一回目と同程度の量の薬草を見つける事ができた。
「これくらいで帰ろうか、今からだったら村に付くのは昼過ぎだから、宿で食事を出してもらおうか」
「はい、分かりました」
俺達は木に繋がれている馬の所に行って、馬車と繋いでから村に帰ることにした。
「そう言えば、この子に名前を付けていませんでしたね」
帰りの道中で、シャルが突然思い出したように呟いた。
「そう言えばそうだったな……最初は自分のものになるか分からなかったから意識しなかったけど、もう所有者は俺と正式に決まったわけだし、何か考えてやらないとな」
俺達の馬車を引っ張ているこの馬は、サラブレットよりは大きいが、村にいた馬よりは少し小さいが、骨太で頑丈そうだ。
毛色は黒鹿毛であり、汗をかくと黒光りする美しい毛並みをしている。
「何か強そうな名前がいいな……コクオウかマツカゼがいいかな」
そんな筋骨隆々の男達の愛馬の名前にしようかと考えていると、急に馬が暴れだした。
「ど、どうしたんだ!何かあったのか!」
なんとか静まらせた後も、馬は鼻息を荒くしている。
「あの……シノブ様。この子、女の子です……」
「マジで……」
「はい、大マジです」
そんなシャルとのやり取りの後、改めて馬を見ると、ブルッ、と馬が睨んでいた。
どうやらこの馬は、俺の思っている以上に賢いようだ。俺の出した候補が、男馬の名前だと気づいていたようである。
「ごめんごめん……女の子らしい名前を考えるから」
俺の言葉を理解したようで、馬は改めて歩き始めた。
この様子だと、もしこの馬の気に入らない名前を付したら、俺は蹴られてしまうかもしれない。
俺は帰りの道中、この馬為に頭をフル回転させて名前を考える事になった。