第2話 盗賊退治の報酬
川沿いに進んだのはいいが余計なものによく出会っていた、
「おっ、またいた」
そう言うと本日数回目となるゴブリン達目掛けて、石を投げつける。
「くらえ、トルネード投法!」
そう言いながら二センチほどの小石を数個拾い、いっぺんに投げつける。
弾丸とも言えるスピードで小石がゴブリン達に襲いかかる。五匹いたゴブリンのうち四匹が息絶える。残る一匹も虫の息だ。もう一個小石を投げつけると頭を吹き飛ばされゴブリンは倒れた。
「こいつら絶対食えるところはないだろうな…あっても食わないけど」
そう言いながらゴブリンの持っていたモノのうち、何かに使えそうなナイフなどの金属をバッグに入れていく。
川沿いにはゴブリンが多いのか、今のところ一キロに数匹の割合で見つける。常にあたりの気配を探り自身の気配は消していたのがいいのか、今のところは奇襲や先手を取られるといった事は起こっていない。
「村か何かあればいいけど」
歩き続けて5時間つい愚痴をこぼしてしまう。空を見ると日がだいぶ傾いていた。そろそろ野営を考えたほうがいいだろうと思い始めたところで、ようやく森を向けることができた。
「おっ、やっと抜けたか」
抜けた先は草原が広がっていた、どうしようか辺りを見回したところ、100メートル以上先の森の境目の所で一台の馬車が止まっているのに気がついた。
「第一現地人発見か!」
おれは少しだけワクワクしながら近づいていく、気配を探ってみると十人くらいの気配がする。馬車の大きさの割に多いなと思ったので、気配を消して森の中に隠れる。
ゆっくり近づいてみると小汚い格好をした男が7人と縛られた老人と女性が二人いた。
気に隠れながら男達の声が聞こえる位置まで忍び寄る。
「しけてんなぁ、馬車にはほとんど積荷がなかったぜ」
「まあそう言うな、女が手に入ったんだから良しとしようぜ!」
「そうだな、でもこっちの若い方はいいが、もうひとりの方はだいぶ年がいってるぜ」
「誰かもの好きなやつはいねえか」
と下卑た声を出しながら笑っている。どう見ても盗賊だろう。
どうしようか、と考えていたら男の一人が若い方の女性を捕まえて、森の奥に連れ去ろうとしている。
「今日は俺が一番だったな、覗くんじゃねえぞ」
と嫌がる女性を肩に担いだ、
「それとじじいは俺が戻ってくる前に始末しとけよ」
と言い残し森へ入る男、俺は素早く男に近づいた。
「なんだてめ、ぐふっ」
男が大声を出す前に首を切り落とす、固まっている女性に静かにしているようにゼスチャーをして、彼女を縛っていた縄を切り、切り落とした男の頭を他の男たちの方へと投げ入れる。
ひとりの男が老人を殺そうと立ち上がったところだったが、投げ入れられた仲間の頭を見て固まっていた。
「お、親分!」
どうやらこの男はこいつらの親玉だったらしい、俺はその隙を逃さずに5人の男を瞬く間に切り捨てる、そして残った男に刃を突きつけた。
「動くな、動いたら殺すぞ」
男は突きつけられる刃と切り捨てられた男達を交互に見て静かに頷いた。
それを見た俺は先ほどの彼女を呼びゴブリンのナイフを渡し、老人ともうひとりの女性を解放するように言った。その間に俺は男を縛っておく。
「危ないところを助けていただき、ありがとうございました」
「助けていただきありがとうございます」
「本当にありがとうございます」
老人達が次々に礼を言ってくる。
「いえいえ、どういたしまして。それよりも聞きたいことがあるのですが」
「なんでしょうか」
俺の質問に老人が返事をする。
「見たところこいつらは盗賊のようですが、殺したからといって罪にはなりませんよね?」
と聞いてみた。
「ハハ、大丈夫ですよ。こいつらはここいらでも有名な盗賊で、指名手配もされていたはずです。それに盗賊は殺しても罪にならない決まりになっています。首をギルドなどに持っていけば報奨金がもらえます。もっとも審議の魔法で調べられた後にですが」
その言葉にホッと胸をなで下ろしたが、聞きなれない『審議の魔法』とやらについて聞いてみたところ、老人は快く教えてくれた。
説明によると審議の魔法とは一種の鑑定魔法が使える装置のことらしい、まず本当に盗賊又は重罪の犯罪者なのかを鑑定する、ここで盗賊だったりした場合はそのまま報奨金が出るが、もし殺された者が盗賊を語っていただけの者だった場合は、殺した者を鑑定し殺したことに正当性があったかどうかを調べることができる。
不思議なことにこの装置は、主な罪状と殺された時の経緯、もしくは正当性の有無まで表示されるらしい。
ここまで話した老人はそんなことも知らないのかという表情をしていたが、俺が名もないような小さな集落の出身だと嘘をつくと納得していた。そういった者もたまに居るようだ。
「では急いでここを離れましょう」
と老人が言うので訳を聞くと、こいつらは30人程の盗賊団を作っているとのことだった。
俺は少し考え生き残りの男に優しく訪ねてみた…男の身体に…
男は手の子指が一本失くなったところで、なんでも素直に話してくれた。
盗賊団の塒はここから5キロ程森に入った所にある洞窟で、これまで奪った財宝等が隠してあり、今の時間なら残りの団員22名が戻っているはずだと言った。
俺は始末しに行きたがったが、老人達をどうするかと考えていると頭の中に一つの魔法が浮かんだ。
それは『結界』という魔法で防御や隠蔽効果のある種類が存在するそうだ。
その魔法を老人達に説明し了承を得てから魔法を使う。
馬車を中心に半径5メートルの球体をイメージして結界を発動させる。この結界には防御と隠蔽効果を持たせたから2~3時間は余裕だろう。
俺は盗賊の死体と武器などをバッグに入れ、道案内のための男を掴んで走り出した。
10分ほど走ると盗賊団の塒が見えた、そこで俺は男を始末してバッグへ放り込んだ。
塒の入口には見張りが二人立っていた、俺は武器をデュランダルに変え気配を消して隙を伺う。
ここから塒の入口まで50メートルといったところで途中に身を隠す場所はない。
しばらく様子を伺っていると後ろの方から十人程の気配を察知した。どうやら盗賊らしい、急いで近づき首をはねていく、ろくな抵抗もできずに5秒ほどで十人の盗賊は全滅した。
死体を回収しながら俺はデュランダルの切れ味に驚いていた。
「切れ味凄すぎだろこれ、熱したナイフでバターをどころじゃないぞ。カミソリで豆腐を切ったくらいに抵抗がなかったぞ」
回収し終わった俺は再び塒の様子を伺っていた。
その時見張りの一人が中に入っていった、もう一人も中を覗き込んでいる。
俺は足に力を込めて走り出した、が思っていた以上に速い3秒もかからずに盗賊が目の前に迫っていた、俺は慌てて止まろうとしながら剣を振るう。
スッと盗賊の体が肩から腰にかけて滑り落ちていく。滑り落ちながらも盗賊は顔を動かして俺を見る。
口を開きかけたところで盗賊は絶命したみたいだった。
俺は走り出した位置を見てみたがやはり50メートルは離れている、
「この距離を3秒以下って…ボルトも真っ青だな」
などと考えながら中の様子を伺う、幸い誰も気づいていないようだ。俺は安堵しながら作戦を考える残りは11人のはずだ。10秒ほどで考えた作戦は、簡単に言えば少しづつおびき出して始末することだった。
俺は小石を中に投げ入れた、カラン、と音を立てた小石に反応した一人が表に出てくる。
顔を出したところで首を落とす。スッ、ポロ、ブシャといった感じだ。
だがさすがに二度目からは怪しんだ盗賊達が全員で出てくる。そっちの方が好都合だったが…
それからは一方的な虐殺だった。俺TUEEEだった。簡単に言うと、
盗賊出てくる、俺切り捨てる。
盗賊逃げる、俺追いかけて切り捨てる。
盗賊命乞い、俺無視して切り捨てる。
で全滅させた。あっけなさ過ぎた、気を取り直して塒に入っていくと、奥の部屋にはかなりの量の貴金属に宝石類、金に食料に武器などが山積みにされていた。
俺は喜々としてバッグの中に放り込んでいく、全部放り込んだ後にふと部屋の隅を見るともう一つ奥に部屋があるのに気がついた。
気配を探ってみると何かの気配がする、こっそりと覗いてみると部屋の真ん中には檻があり中に何か居た。
「女の子?」
俺の呟きが聞こえたのか女の子らしき影がビクっと動いた。
近寄ってみるとその正体は可愛らしい少女だった。ただし頭には獣耳があり、おしりの位置には尻尾が生えていた。獣人だおそらくはネコ科の…
不用意に近づいたせいか少女は怯えて縮こまっていた。俺は膝をついて視線を合わせるように低くして、
「大丈夫だよ、盗賊達は全部やっつけたからね」
と語りかけた。少女はまだ怯えていたのでデュランダルを取り出し檻を切ったら……さらに怯えられてしまった。
「ごめんごめん、怖くないから出ておいで、食べ物もあるよ」
とサンドイッチを取り出して動かしてみる。少女の目はサンドイッチに釣られて、右へ左へと動いていく。やばいちょっと面白い。
そんなことを考えていると、クゥ~と可愛い音が少女から聞こえた。少女は顔を赤くして俯いていたがサンドイッチを手前においてやると、そっと手を伸ばしサンドイッチを口に運んだ。
恐る恐る一口噛んだ後目を輝かせてかぶりついていく、あまりに口にほうばり過ぎていたので何度かのどに詰まらせていた。その度に水筒の水を飲ませてあげていた。
しばらくして少女は食べ終わりおずおずと檻の外へと出てきた、
「あ、ありがとうございます。美味しかったです…」
とお礼を言ってきた。可愛らしい声をしていた。
「どういたしまして。それで君はなんで檻に入れられていたの?」
と聞いてみると、少女は少しずつ話し始めた。
少女によると、半年ほど前に村の近くの森で遊んでいたら、突然知らない男達に捕まえられて馬車に乗せられたそうだ。そのまま馬車に乗せられ続けていたところ、1週間くらい前にここの盗賊に襲われ連れてこられたそうだ。さらった男たちは盗賊に皆殺しにされたそうだ。幸いにも乱暴はされていなかったらしく怪我等は無かった。
しかし、少女は檻に入れられていた上に、ろくに食事も与えられなかったせいで体が弱っていた。そこでポーションを飲ませたところだいぶ体力が戻っていった。
ここに置いていくのはかわいそうなので、とりあえず老人達の所に連れて行くことにした。
少女にも話すと付いて行く、というので塒から出ることにした…のだが、少女は筋力も衰えていた為背負っていくことになった。背負ってみてわかったのだがこの少女、胸がでかい、そして柔らかい。
ちょとドキドキしてきたのでごまかすように小走りで森を進んでいく。そうすると少女が落ちないように強く捕まってくるのでさらに凶器が押し付けられるという事態になった。DTの俺には破壊力が高すぎるぜ。
30分ほどの天国のような地獄…でもやっぱり天国、を味わいながら馬車の所まで戻ってきたら、老人達は飯を食ってた。
「もぐもぐ、おお、ング意外と早かったですな、もぐもぐ」
食うか喋るかどっちかにしろよ、ていうかどこにあったんだそんなもの(何かの串焼き)、という視線に気付いたのだろうか老人は、
「馬車の中に隠してありましてな、待っている間に腹が減ったので食べていたのですよ」
ハッハッハッと笑っている、存外に逞しいなこのじいさん、笑っていた老人は俺の背中にいる少女に気がついた。
「どうしたのですかなその少女は?」
と聞いてきたので思わず、
「戦利品です、盗賊達の所に居たのを見つけて連れてきました」
と冗談めかして言ったら、
「儲けましたな、早速奴隷契約をするといいですよ」
と返してきた。俺が、何を言っているのか分からない、といった感じでいると老人が、
「おや、知りませんでしたか?盗賊などの奴隷は、持ち主である盗賊が殺されると殺した者の物になるんですよ」
と教えてくれた。ただし、犯罪者以外の奴隷の持ち主を殺して奪うのは立派な犯罪ですが、とも付け加えた。
背中の少女はまたも怯ええていた。俺は慌てて、
「すいません、冗談です冗談。この娘は盗賊に囚われていたのを助け出したんです」
と説明した。だが老人は首をかしげ少女の首を指差し、
「けれどこの娘の首には従属の首輪がはめられていますよ」
と言った。俺は少女を降ろして(ああ偉大な凶器が…)首を見る、そこには黒い首輪がはめられていた。少女に訳を聞くと、最初に捕まった時にはめられた、と小声で言った。
「おそらく違法な奴隷商人だったのでしょう。無理に外そうとすると命に危険があります」
と推測した。この世界にもラノベで有名な奴隷商人がいるんだな、違法な奴も含めて。
少女は泣きそうな顔で俺たちの顔を見ている。そこへ、
「ほら、女の子にそんな顔をさせてはいけませんよ」
と女性が割って入ってきた。この女性は老人の娘でもう一人の方はこの人の娘だそうだ…便宜上おばさんとお孫さんと呼ぶことにした。
おばさんは少女を見た後、手を引いて馬車の裏側へと行く。
「覗いたりしたら承知しませんよ」
と言い残した。なぜか妙な迫力があった、俺と老人はコクコクと赤ベコのように首を縦に振った。それを見てお孫さんも馬車の裏へと回る。
「怖かったの、盗賊より迫力があったわ」
「そうですね」
と二人で顔を見合わせた。馬車の方からは水魔法を使った気配がする。
「ところであの娘はどうするのかい?」
「どうしましょうか、できたら故郷へ返してあげたいのですが」
と話すと、
「でしたら奴隷契約をしたほうがいいですな」
と言い出した、それはかわいそうだ、と言うと
「理由はどうあれあの娘は奴隷になってしまっています。ならばあなたが所有者になって故郷に連れて行き、そこで開放した方が安全でしょう。下手にここで解放すると、また別の奴隷商人に捕まる恐れもあります。」
とのことだった、俺が戸惑っていると、
「私をあなたの奴隷にしてください」
と可愛い声が聞こえた。振り返るとそこには美少女が立っていた。
パッチリとした優しそうな目に小さな唇、背中の半ばまで伸びているツヤのある栗色の髪、背は俺よりは頭一個分低いくらいだろうか、ダボッとした服を着ているので完全なスタイルは分からないが、その服の上からでもはっきりとわかる大きなその胸、あれが俺の背中に押し付けられていた凶器…もとい神か……素晴らしい!天晴れをあげよう!
黙り込んでしまった俺を見て不安になったのだろうか、心配そうに顔を覗き込んでくる。
ハッとなった俺は咄嗟に2~3歩後ずさる、そんな俺を見て老人とおばさんとお孫さんはニヤニヤしている……顔は赤くなっていないだろうな、俺は思わず頬をペシペシと叩く。そんな俺を気にしながら美少女は、
「あのぅ、それで私をあなたの奴隷にして頂けるのでしょうか?」
と不安そうに聞いてくる。俺の奴隷……響きがいやらしすぎる。
そんな妄想に浸っていると、美少女が見つめてくる…いかんいかん返事をしなくては、
「き、君さえよければ俺が君のあ、主になるよ」
緊張しすぎてどもってしまった。幸いにも緊張しているのを彼女にだけはバレなかった。彼女の後ろでニヤニヤしているのが三人ほどいるけどな。
「でもどうやって契約をするの?」
「ああそれは簡単ですよ。首輪の一部分だけ白い所に、契約者の体液を付ければいいのです。まあ大抵は血を付けますな」
と老人が教えてくれた、首輪をしているものは契約者の命令に逆らえず、無理をして逆らおうとすると首輪が締まり力が入らなくなるらしい、さらに首輪に付ける血は、首輪をしている者の血では効果が出ないそうだ。
「じゃあ契約してみるか」
俺はなるべく平静を装い彼女に近づく、腰に差したフラガラッハを鞘から少しずらし親指を軽く押し付ける、一瞬の痛みの後で僅かに血が滲む、その血を首輪に押し付けると白かった所が黒くなって行く。
「それが契約成功の証です」
と老人が教えてくれる。
「これからよろしくお願いします。ご主人様」
と少女が頭を下げてくる。俺は照れながら、
「ご主人様は止めてくれ、恥ずかしい。忍でいいよ」
と答えた。
「分かりましたシノブ様」
とやり取りしたところで重要な事を忘れていた、
「そういえば名前を聞いていなかった」
その言葉に老人達は盛大にこけそうになっていた。
「ご、ごめんなさい。言うのを忘れていました。改めまして私の名前はシャルと言います」
と一瞬だけ言葉がくだけた、その話し方がシャルの素なのだろう。おいおい素の状態で話してもらえるように頑張ろう、と誓った。
「うん、これからよろしく。シャル」
こうして早々に俺の旅に仲間(奴隷)が加わったのだった。