プロローグ ごめん君たち死んじゃった
2作目です。1作目を書いている途中で思いついた設定をつかっています。
楽しんでいただけたらと思っています。
1作目と同時進行で書いていく予定ですが、ネタや進行状態次第でどちらかに集中する事があるかもしれません。
ここは薄暗い森の中、見たこともない木々が生い茂っている。
どうしてこうなった。
忍はため息をつく。
つい1時間前くらいまでは学校に居たのに、放課後に今俺を囲んでいる5人のバカ達に体育館裏に呼び出され仕方なしに行ったのがそもそもの間違いだった。
それにしてもこのバカ達気が付いていないのか、このおびただしい数の殺気に…
現代の日本ではまず、経験することは出来ないだろう……こんな経験などしたくもないがな。
「おい、神崎の奴ビビッてやがるぜ」
「手加減位はしてやるからな~、反撃位はしてみろよ~」
「おしっこちびるなよ~。萎えるからな」
「むしろ俺としては、垂らせるものは全て垂らして、無様に這いつくばる姿を見てみたいぜ」
「それはそれで面白そうだな!」
ぎゃはははは~、と下品な声を上げて笑っているバカ達。
本当にどうしてこうなった……
---1時間ほど前---
「はぁ~、これから帰って親父と鍛錬して、飯食って、風呂入って、また鍛錬して…憂鬱だ」
俺の実家は道場があり、ある武術を継承している。
歴史は古く、500年以上あると聞いている。
まあ親父や死んだじいちゃんの酔っぱらった時のお決まりの話なので話半分どころか10分の1程だと思っているが。
「おい、神崎!」
そんな時突然に声を掛けられた、振り向いて確認するが、学年で有名な不良(と言う名のバカ)であることは分かるのだが名前が出てこない。
まあ、覚えていて得をするような奴ではないので考えないことにした。
「なんか用?俺忙しいんだけど」
俺のどこが気に入らないのか分からないが、目の前のバカは、
「スカしてんじゃねえぞ、この野郎。ちょっとツラかせや」
バカの後ろでこれまた有名なバカ達がニヤついている。
「返す当てもないのに、かせとか言わない方がいいよ」
俺の言葉にバカは顔を真っ赤にしている……サルみたいだ。
「チョーシ乗ってんじゃねえぞいいから来い」
このバカには人語が理解できないようだ、仕方がないついて行ってやるか。
「分かった分かった、ついて行ってやるよ。どこに行くんだ?」
「口の利き方に気を付けろ!このボケがっ!」
バカが殴りかかって来るがひらりっ、とかわす。
バカを無視しながら鞄を持ち、
「おいっ、行くんだろ。さっさと案内してくれ。早く終わらせて帰りたいんだ」
唖然とするバカどもを追い越してから、行先を聞いていなかった事を思い出す。
連れられて来たのは体育館裏だった。
なんて、古典的なんだある意味感動するな。
忍がそんな事を考えていると、
「呼び出された要件は分かってるんだろうな」
分かるかそんなことっ、と思っていると、
「神崎~、お前俺の女に手ぇ出しただろ。落とし前付けてもらうぜ」
俺に声を掛けて来たバカが何か言っているが意味が分からん。
「何の事だ?」
「とぼけんな!A組のケイ子の事だ!」
「誰それ?」
全く記憶に無かった、手を出したこともA組のケイ子とやらの事も、
「ふざけんじゃねぇ!軽井ケイ子の事だ!昨日の夜、駅裏のホテル街の入り口に二人で会ってたんだろうが!お前らが話してるのを、俺の舎弟が見てんだぞっ!」
昨日…ホテル街入り口…女……、
「ああ、あいつか!」
「覚えてんじゃねえか!」
確かにそんな女と話すことは話したが…
「それは誤解だ、俺はあそこを通りかかっただけだ。あそこは俺の通学路だ」
「白々しい!なら何であんなところで話してたんだ言ってみろ!」
との事なので正直に、
「その女がおっさんと腕を組んで、ホテル街から出て来るのを見た、そうしたら女の方が俺に気付いて、誰にも喋るな、とか言っていただけだ」
淡々と事情を説明したらバカはぬけた顔になっていた、まあ元々が抜けた顔だったが。
「じゃあ、誤解も解けたな。もう帰るわ」
そう言って帰ろうとすると、残りのバカどもが囲んできた、
「そんな事信じるわけねぇだろ~」
「しっかりと罰は受けてもらうぜ~」
そんな事を戯言を言いながら拳をパキパキ鳴らしている。
ただ単に俺を痛め付けたかっただけか、
やれやれと言った感じの忍に、最初のバカが殴りかかって来た。
忍がカウンターで迎え撃とうとしたその時、足もとから光が溢れ忍達を飲み込んでいった。
まぶしい、目が見えない!体も動かない!金縛りか!
意識を取り戻した忍は辺りを見ようとするがまぶしすぎて何も見えない、体を動かそうにも指一本動かす事が出来ない。
そこへ、
「今見えるようにするから、ちょっと待っててくれ。ん~そりゃっ!」
知らない声と共に変な掛け声が聞こえた。
やがて、ぼんやりと何かが見えて来ると同時に体も動くようになっていった、人型のそれは徐々に輪郭をはきっりとさせて行き、
「じいさん誰だ?」
それは老人だった。
周りにはバカ5人衆もいる、何かを喚いてはいるが無視をする。
「で、じいさんは誰なんだ、そしてここは何処だ?」
じいさんは笑って、
「その前に一言いわせてくれ…ごめん君たち死んじゃった」
「はぁ?」
その言葉に俺もバカ5人衆もぽかんとする。
「場所を間違えて、君たちがいる真下に門を開いてしまった。許せ!」
「許せる訳無いだろうが!」
反射的に怒鳴りつける俺、バカ5人衆も口々に罵っている。
バカ達はじいさんに殴りかかろうとしているみたいだがその場から一歩も進んでいない。
バカを無視する事にした俺は、
「元の世界に、生き返らせる事は、出来るんだろうな?」
と聞いた。
俺の問いに老人は、
「うん、無理!」
即答した。
そして、俺が口を開く前に、
「元の世界は無理だが、他の世界なら生き返らせることが出来るよ」
と言った。
「で特典は?何も無い訳ないよな」
そういう小説を愛読していた俺としてはここは譲れない所だった。
「切り替え速いね」
「いいから特典はくれるのか、くれないのか?」
内心ワクワクしながら、しかしその事を悟られないようにしながら、忍は尋ねる。
「まずは今の体と記憶のままあっちに送る。体は多少性能を上げてやる」
「何か上から目線だが…まあいい、他には」
「他にはチート能力を好きなものを2つやろう。ただし、貰える能力を増やせとか、他の人の能力を盗める能力とか無しね」
「ケチだな」
忍の呟きに老人は、
「3つやってもいいけど、その時は記憶とかは無しな」
「2つでいい」
チートを貰っても、今の記憶が無いのでは意味が無いので忍は了承した。
バカどもは文句を言ってるみたいだが……
「じゃあ、ちゃっちゃっと考えてくれ」
「急かすな!これから行く世界の事位は教えてくれ」
と言うと老人は話し始めた。
その世界には魔法が当たり前のように存在する。
5つの大陸がありそれぞれに大きな国と小さな国が存在する。それなりの頻度で戦争が起こってはいるが、全世界を巻き込むような規模の戦争はこれまで起こった事が無い。
人以外にも獣人やエルフ、ドワーフ等の種族が幾つかある。差別なども当然あるが種族間の仲は悪いものではなく、『差別する奴はする』と言った程度である。
奴隷も存在する、個人での所有も可能である。
世界の至る所に魔物が存在し、過去にはいくつかの国が連合を組んで討伐を行ったこともある(その時は何十万単位の魔物が集まったため)。
様々なギルドが存在し冒険者と呼ばれる職業もある。
更にダンジョンと言われる場所もあり、魔物が住み着いているが様々なお宝が手にはいる為、危険を冒してでも潜る者たちもいる。
との事だ。
「ちなみに、サービスで言語理解の能力と多少の魔法の才能、それにアイテムバックを上げるよ」
アイテムバックとは生き物以外を制限なく収納できる代物らしい。
まあ、四〇元ポケットの様なものだな。違う所は、収納した物が確認・整理することが出来るのと、持ち主以外は使用することが出来ない事だ。
「じゃあ、チートを聞いて行くよ。はいっ、一番端のお前から!」
俺と反対側のDQN1号を指さす。
「最強の魔法と最強の魔法が素早く使えるようにしろ!」
「はいはい、次」
「最強の武器と最強の防具をよこせ!」
「ふんふん、次」
「最強の力と最強の肉体だ!」
「へ~へ~、次」
「最強の魔法を色々使えて最強の魔法をいくらでも使えるようにしろ!」
「ほいほい、次」
「俺を最強のテクニックを持つ、最強の絶倫男にするんだ!」
「ほ~ほ~、最後」
「(最強最強ばっかりだな)俺は異常状態無効と回復力を上げてくれ」
「よし分かった。最強と言っているが、実際には希望に近い能力をあげる事しか出来ないからな。じゃあさっさと転生させるぞ~。がんばってね~ばいば~い」
手を振りながら老人がそういうと辺りが白く霞んでいった。
忍達が去った(追い払ったとも言う)後、
「は~、自業自得とはいえバカの相手は疲れるわ。1人はまともだったけど」
と言いながら缶ビール?を空けている。
「ストレス発散はこれに限るわ!」
缶ビールを次々に空けていくじいさん、傍らには缶の山が出来ている。
「あのバカ達が言っていた能力のすり合わせからいくか、まずは整理して…これはこれで、ヒックッ、あれはこれで、ヒックッ………ヒックッ………こんなもんか、ヒックッ」
「最後の奴だけ分かりやすくてよかったな~ヒックッ」
「ウップッ……ちょっと飲み過ぎた、ウェ」
「……気持ち悪ぃ……さっさと終わらそ……」
と老人は言うとチート能力を適当に押し込んだ……全部まとめて忍の中に……
忍が目覚めると同時にザ・DQN5も目を覚ましていた。
「特に変わった感じはしないが最強になっているんだろうぜ」
「ああもちろんだろ」
「最強の能力か…これで好き放題できるな」
「やりまくりだぜ!」
「どれくらいのものかちょっと神崎で試そうぜ」
(好き勝手を言ってるな、DQN5は。しかしこんなにもはっきりと、体中に力が漲っているのに……あいつら気が付いていないのか?)
忍の勘違いではあるのだが指摘を出来る者はここには居ない、いたとしても能力を施した本人ですら気が付いていないだろう。
気付いたとしてもすでに手遅れだが。
それにしてもここは何処だ、森の奥深くみたいだが……何だ!何かが近くに潜んでいる、多い、軽く2~30体は居そうだ!
辺りを見渡す忍。
その姿を見て、忍が恐怖に怯え狼狽えていると勘違いして、バカっぽく下品な笑い声を上げるDQN5。
忍は無理やりにでも心を落ち着かせることにした。
DQN5は完全に噛ませ犬です。
北斗で言えば、ヒャッハ~と叫びながら伝承者に突っ込んでいくような奴らです。
次回で汚物は消毒する予定です。それまでは精々踊っていてもらいます。
一作目ともどもよろしくお願いします。