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以前公開していた、妖芸者海想奇譚 を一次創作へ書き直したものです。
お大幅に加筆、修正が入りますので、以前とは全く違うお話になるかと思います。
新しい妖芸者をたのしんでもらえたら嬉しいです。
蜩の鳴き声が聞こえ始めた夕暮れ。町といえば聞こえは良いが、隣家との距離が200M以上というものが普通である地域。
起伏に富んだ地形と、海岸に隣接していることもあり、古くから漁業で栄えていたその町は現在では、併用して柑橘類などの果実でも栄えていた。
人の住む場所には少なからずとも「変わり者」と呼ばれる人間が現れるもので、その人物も近隣住民から「変わっている」と評されていた。
とはいえ、敬遠される類ではなく、いうなれば「愛すべき変人」というべきか。
なんの仕事をしているのか、年齢はいくつなのか、何者なのかは全くもって不明ではあるが、それでも人間性は悪ではない。
町の年配者とも関係は良好で、近所の悪餓鬼共も、そこでは悪さをしたりはしない。
困っていれば、手を差し伸べてもくれるし、町やご近所に不利益はないのだ。もともとのんびりまったりとした町の特性故か「まあ、迷惑掛けられてもないんだし、多少(?)解らないことがあっても問題なくね?」といった具合で、友好関係も良好であった。
若者という割には言動が老成しているし、中年というわりには外見がそれを否定する。
不細工というには整いすぎているし、美形かといえば、そうでもない。
印象に強く残るかと言えばそうでもないが、平凡というにはかもし出す雰囲気が否定する。
中途半端のようで中途半端でない人間。
其れが件の変人を称するに一番近い表現であった。
さて、その変人である人間、その容姿、性格を説明するならば。
日本人らしい黒に近い焦げ茶色の髪は無造作に伸ばされていて、それは腰に届くくらい。
とはいえ、手入れを怠っているというわけでもなく、切るのが面倒なだけにも見える。
瞳も同じような色合いで、一重の切れ長な目はやや釣り目。唇はやや小さく薄い。肌は白く、常時日傘を使用するせいか、日焼けの痕跡もない。
とはいえ病的でもなく日本人特有のやや黄色おびた健康な肌色だった。
着物が常服であるせいか体型はわかりにくいが、身長はやや高めの170センチほど。
無造作に髪を伸ばしていることから判るが、基本面倒くさがりで、己の興味の沸いたことにしか行動を起そうとしない。
そのくせ、世話好きというか、一旦自分の懐に入れた人間は可愛がる性分な為、それにかかる手間や労力は惜しまない。
現在では其れが己の妹と、飼い猫達に如何なく発揮されているのだが。
全体的に見れば整った顔つきではあるが、気分屋にも似た性格とあいまって美形とも言いがたい。ある意味残念な人間であった。
そんな彼女が今居住しているのは、海岸に面した古民家だった。築200年を越えた屋敷と600坪の土地、小さいながらもプライベートビーチ付きだったのでかなりの金額が予想された。
しかしとある事情により600万ほどで売りにだされていたというのだから、言わずもがな。誰もが買い渋る大人の事情というものがあったようだ。
しかし、そんな複雑(?)な大人の事情など無視し購入したのが「愛すべき変人」たる彼女だったため、町の住民もどことなく納得してしまったようだった。
例え、彼女の土地にどうみても家族ではないであろう人間が複数住み着いていようと、此方に害がなければそれまでなのだ。
そして、この話は、変わり者と称される彼女とその家族に起きた、奇妙な話の一つである。