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金の杖 銀の杖  作者: jorotama
第一章
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『木の杖と初夏の花嫁』7

 リアトーマからリネの港へ帰着しセ・セペンテスの屋敷に辿りついたグラントと私に、家令は予想通りフェスタンディ殿下のご来訪を告げた。

 殿下がこの屋敷に来られたのはグラントに何らかの用事があっての事だろうと、私も……恐らくはグラント自身も思っていたに違いない。


 彼は私的にも政治絡みの公的立場でも殿下とは近しい場所にあるし、片や私と言えば、殿下とお会いしたのは去年の夏にユーシズでの結婚披露の宴の時以来なのだから、まさかフェスタンディ殿下が私に用があってこの屋敷にいらしたなんて想像出来る筈がない。

 だから私はグラントがフェスタンディ殿下とお話をしている間に旅行服から着替え、荷解きの指示を出したり、エドーニアから伴ってきたシェムスの事であれこれの手配をしていようと考えていたのだけれど……。

 エントランスに入り、とりあえず着替える為に部屋へ下がろうとした私に、家令が慌てた様子でこう告げた。


「あの、奥様もグラント様とご一緒にいらして欲しいと……フェスタンディ殿下から申しつかっております」

「……?」


 それを聞いたグラントと私は、思わず顔を見合わせた。


 フェスタンディ殿下とレレイスとは、わりと姿の似た兄妹だと思う。

 二人共に金色に波打つ髪に鮮やかに青い瞳。

 目や眉、鼻に髭に唇などの顔の中の部品もそれを収める輪郭も、そしてそれぞれの配置すら誰にも難癖など付けられぬくらいに完璧で美しい。


 レレイスがその美貌を女性らしい華やかさで更に輝かせていたのに対し、フェスタンディ殿下は『伊達』が年齢を重ねて『洒脱』に変化しつつある男性に特有の、深みのある存在感と知性の重みが美の持つ軽佻さを払拭している。

 きっとフェスタンディ殿下は後10年も年齢を重ねれば、その姿を示すだけで大公として相応しい威厳を周囲に感じさせるようになるに違いない。

 久しぶりにお顔を拝見するフェスタンディ殿下は、口の上に綺麗に蓄えたお髭がたいそう知性的な印象を与える相変わらずの美丈夫だった。


「お前が今日帰国すると聞いていたから、待たせてもらっていたんだ」


 金色の長い髪を青いリボンで結んだ殿下が、椅子から腰を浮かせながら言う。

 青の濃淡で揃えた上着とジレはあっさりと上品な作りで、殿下の青い瞳にも金の髪にも良く似合う。レレイスもそうだけれどフェスタンディ殿下も衣装の好みは上品で洗練されている。

 私達が帰るまで殿下のお相手をされていたサラ夫人が、グラントと私を見て笑みを浮かべながら席を立つ。


「フローおかえりなさい。ああ……グラントも。兄上の結婚式は無事に終わったのですね」


 サラ夫人は嬉しそうに私を抱擁し、グラントの肩を一つ叩くと殿下にごく軽く一礼した。


「グラントらが来ましたのでワタクシはこれで失礼しますわ。午後は友人と買い物に行く約束をいたしておりましたの」


 まるでこの場にいるのがこの国の要人ではないと錯覚するくらい気軽に、それだけを言い残し、サラ夫人はさっさと部屋を出て行ってしまった。

 なんとなく私は呆気にとられ、扉が閉まった後もそちらへと視線を向けたままになってしまった。


「……もしかして私はサラフィナ夫人の不興でも買ってしまったんだろうか……? これと言って失礼な言動はしていない筈なのだが。……サラ夫人を敵にまわすと、この国のあの年代のご婦人達の多くを敵に回す事になるからそれは恐ろしいんだが……」


 どうやら私同様少しばかり呆気にとられていたらしいフェスタンディ殿下も、扉から目をグラントに移しぼんやりとした口調で呟かれた。

 普通ならもう少し退出前にお名残りを交わしてから出て行くのだろうから、殿下がちょっと茫然とするのも分かる様な気がする。

 だけど……。


「気にする事はありません。たぶん本当にこれから友人と約束があるんで急いでいるのでしょう。フェスタンディ殿下が御用がお有りなのは母上ではなく私と……フローに、なのでしょう? その二人が今ここに来たのだから自分は自分の用事の為に速やかに動く……そう言う合理的な考え方をする人なのです」

「……そうか、なるほど。いかにもお前の母上らしい」


 そう、サラ夫人と言う人は礼節をきちんと守る人だけれど、過剰に誰かにおもねるような言動はされない方なのだ。

 一緒に暮していればそういう方である事を理解できるけれど、どうやら殿下も直ぐに納得してくださったようだ。

 それしにても、サラ夫人を敵に回すと……と言うのは、ちょっと大げさだし失礼なんじゃないかと思うのだけれど……。


「……さて……『フェスタンディ殿下』? 今日こちらにおいでなのは私的なご用でしょうか? それとも公的なご用ででしょうか……?」


 殊更丁寧な口調で、グラントが殿下に問う。


「うーん……『公』か『私』かを聞かれると難しいな。今現在は『公』であり『政ごと』に属しているけど、私のこれから先の人生で言うならば紛う事なく『私』の部分……と言えば察してもらえるか?」

「モスフォリア国の……プシュケーディア姫か」


 グラントは直ぐに殿下の仰る言葉の意味を理解したようだったが、私はグラントの口からその名前が出てなお数秒間はたっぷりと経過してから、ようやくフェスタンディ殿下の仰るのが殿下の『結婚』に関するお話なのだと言う事に気がついた。


「そう、だから公私を分けるのは難しい問題なんだ。……まあこの屋敷まで足を運んだおかげで周囲に利害や利権や格式にうるさいお歴々もいないんだ。……そう警戒してくれるなよ、グラント。皆で座って腹蔵なく話をしようじゃないか」


 朗らかな様子で殿下はそう仰る。

 眉間に微かに皺を寄せたまま私を椅子に座らせたグラントは、溜息をつきつつながら自身も深く椅子に腰を下ろした。


「サラ夫人の合理性に倣って、私も合理的に話を進めるべきか?」


 グラントの渋い表情に気付いているのか気づいていないのか、フェスタンディ殿下の表情は心無し楽しげですらあった。


「……いいから、さっさと話をしてくれフェスタンディ」

「じゃあ一番肝心な部分からいこう。実はキミの奥方を少しばかりお借りしたいんだ」


 なんだかその瞬間、時間の流れが止まったような錯覚を覚えた。


 だって、グラントはピクリとも動かず口を開きもしないし、フェスタンディ殿下は殿下で笑みに似た表情を浮かべたまま静止していたのだから。

 私はと言うと……完全に止まっていたと思う。……主に思考がだけれど。

 だって……全く話が見えないではないか。

 殿下は何を言っているんだろう?

 凍りついたように動かない場を再び動かしたのは、やはりフェスタンディ殿下だった。


「借りると言っても……変な意味じゃないぞ」


 一瞬、グラントの肩から激しい怒りの気配を感じたのは……気のせいか。


「……当たり前だ」


 低く唸るような声で一言グラントは言い、再び大きく嘆息しながら椅子の背もたれに体重を預け、長い足を組む。


「どこが合理的なんだフェスタンディ? 色々な部分を端折り過ぎだろう。……話の腰を折る様な真似はしないから、どうしてそんな話が出たのかを順番立てて話してもらえないか……」

「そう怒らないでくれよ、ハハハ。レレイスが手紙で書いていたけど、本当に奥方にぞっこんなんだなお前は。

以前のお前は隙も可愛気も無い嫌な男だったけれど、これは面白い。……あー……待て、本当に怒らないでくれよ。余計なお喋りはこの辺で打ち切る。……一から全て話しをすると長くなるから、私とお前が前もって知っている部分は割愛して話をしよう。奥方には後でグラントの方からご存じない『裏事情』を補足説明して貰おうかな。肝心な部分から言うと……だ。奥方をお貸し願えないかと言うのは、プシュケーディア姫輿入れ時の……まあ……ちょっと意味合いはおかしいかも知れないけれど、『介添え人』として、お前の細君を彼女に同行させてもらいたいと言う事なんだ」


 私は二人のお話に口をはさんだりすることは無かったけれど、本当に心の底から驚いて……。

 もしもここで口を挟むのが失礼に当たらなかったとしても絶対に言葉を発する事など出来なかっただろうと思う。

 あらゆる意味から、フェスタンディ殿下の持ってこられたこのお話は常識を外れていたからだ。


 本来、介添え役と言うのは花嫁の出身国の上位貴族が一人……またはその配偶者と共に務めるモノなのに。

 ……まあ、殿下も意味合いはおかしいと仰っているけれど、何故この国に嫁いで来て間もない私が指名されるのか、まったく意味が分からない。


 レレイスがリアトーマ国へ嫁いだ時の形式的介添え役として同行したのはグラントだった。

 だけどあれは彼が裏でなにやら怪しい手回しをして半ば無理やり得たお役目であり、本当ならバルドリー侯爵家ではなくもっと……こう言ってはなんだけれど、歴史のある家柄の者が負うべき役目だったのだ。

 あの時レレイスの介添え役をやる筈だったのも、アグナダ公国の古い家柄であるドルスデル侯爵だった筈。

 それでもまたドルスデル卿が体調を崩し、他の貴族の方々の都合がつかないとでも言うのならバルドリー家にその任が回ってくる可能性もあるのだろうが、その場合だってグラントを飛ばして『私が』なんて……どう考えてもおかしいではないか。


 グラントとフェスタンディ殿下との二人の様子を窺いながら、頭の中の大量の疑問符と答えが出ない戦いを強いられていた私だったけれど、どうやらグラントには状況が把握できているようだった。


「この話……発案者は当然キミじゃないんだろう、フェスタンディ……?」


 渋い表情での問いに、殿下も少し苦笑いを浮かべて答える。


「セルシールド夫人がね……プシュケーディア姫にいたく同情されてるんだ。それに……レレイスも」


 この部屋に来てまださほど時間は経過していないが、グラントは大きく三度目の溜息をついた。


「グラント相手だと話しが長引かなくて楽だな」


 綺麗に整えられた口ひげを撫でながら、殿下は口元の苦笑いを少し人の悪い表情に変化させる。

 グラントは苦々しげにその顔を見ながら呟いた。


「……冗談じゃないぞ」

「大公もセルシールド夫人に賛同していたな。……バルドリー卿を今後重用する為に細君を通してさらなる地固めも出来る。とね」

「本当に、冗談じゃない。フェスタンディ……お前、そのために『わざわざ』ここに来たのか?」

「私的な頼みごとを……それも、脚のお悪い事を分かっているご婦人にしに来るんだ。呼び出す様な無礼な真似をせず私の方から足を運んでくるのは当然だろう。……紳士なら」


 グラントの横顔の……こめかみの辺りに、みるみるうちに青く血管が浮き上がるのが見て取れた……。

 だって……公私の別があっても無くても、次期大公である『フェスタンディ殿下』が自ら屋敷に足を運んで要請したと言う事実がある限り、これは絶対に断る事が許されないお話なのだもの……。


「紳士なら……ね。……随分とあざとい事をすると少しばかり呆れているよ、フェスタンディ。キミがそんな人間だとは思わなかった」

「お前が父上の参謀の一人に入って実績を積んでくれれば、代が替わった時に誰にも文句を言われず私の参謀としてグラントの事を傍に置けるじゃないか。私はお前の能力を買っているだけだ」

「その話は断ったはずだろう!? だいたい、だからと言ってどうしてそれに今彼女を……!?」

「……まあ、待て、グラント」


 フェスタンディ殿下が右手を上げて怒りを露わにするグラントを制した。


「奥方が驚かれるだろう? 男同士のちょっとした諍い事も、女性には恐ろしく見えるものだ」


 はっとしたようにグラントは私の方を向き、一言


「すまない、フロー……」


 ほんの少し肩から力を抜いて詫びの言葉を口にする。

 グラントの気勢を殺ぐことに成功したフェスタンディ殿下は直ぐに言葉を続けた。


「……お前が心配するような事を細君にさせたりはしないよ、私は。ただ……そう、プシュケーディア姫の話し相手、相談相手になって欲しいだけなんだ。彼女の立場が苦しいものだと言うのは知っているだろう? グラント、お前はどうあっても得たいと渇望した女性をその手に得て幸せそうにしているじゃないか。実際プシュケーディア姫はまだまだお若い方だ。私も国許がどうあれ、彼女個人には同情的なんだよ。出来る事ならこの婚約に裏があるのは置いて、私と姫とが幸せになる道を選びたいと思っているんだ。まあ……これはレレイスからの影響を認めざるを得ないな。出来る事なら私達もレレイスとサザリドラム王子のような円満な結末を得たいんだよ。……ここであの時の『借り』を返してもらう……と言う事でどうだ?」

「言いたい事は分かるが……フェスタンディ。……なんだってこんな急に、なんの前触れも無くこの話を持って来たんだ?」


 先ほどよりは幾分怒りの色を消したグラントが問うと、フェスタンディ殿下の端正な眉が跳ねるように大きく上下した。


「……事前に知らせたりなんかしてみろ。お前の事だ、もっともらしい理屈を並べてのらりくらりと逃げるに決まっているじゃないか! 時間や考える余裕なんて与えられるものか。こうして奇襲をかけた上に権力者としての立場と義理を盾にごり押しして、やっとなんとか……と言うところなのに」


 考えてみれば酷い言われようだし、後になって思い出してみれば殿下の言い種や口調は笑いを誘う物だったけれど、その時のその場で笑えるような余裕は私に無かったと思う。

 額から頭部にかけてに右手を当てて、グラントは何やら難しい表情で考え込み、暫く経ってから口を開いた。


「……彼女の身に危険な事があったら、絶対に俺はキミを許さないからな」


 相手がこの国の次代の最高権力者だとは思えないような事を口にするグラントに、私は少し驚いた。


 だけど……彼がこんな事を言い出すのにはそれなりの理由があったのだと……それは後々知る事になるのだが……。


「細君はプシュケーディア姫やドルスデル卿夫人と一緒に、厳重に警護させることにする。……それに、グラント。もしもお前がプシュケーディア姫の花嫁行列に潜り込んで同行するというのなら、それに関しては貸し借りなしで私の力を使ってもらって構わない」

「当たり前だろう」


 一言返すグラントに、殿下は微笑を浮かべて仰った。


「……本当に、お前は変わったな。羨ましいよ。……男どもだけで勝手に話しを進めた事、心からお詫びさせてもらいますフローティアどの」


 殿下が椅子から立ち上がり、私に向けて深々と礼をした。


「フロー……詳しい説明は後できちんとさせてもらう。それに俺も出来る限りのフォローを入れるから……」


 申し訳なさそうなグラントの表情に、私は内心はどうあれ笑みを返してからフェスタンディ殿下へと向き直る

「最初から断る余地の無いお話しなのですわね、フェスタンディ殿下。出来る限りの事は務めさせていただきますけれど、ご期待に添えるかどうかは別になります。それでも……よろしゅうございましょうか?」


 フェスタンディ殿下のやりようには腹が立たぬでもないけれど、どうやら委細あり気なご様子だった。

 ここでゴネたところでどうにもならないのなら、みっともない態度でグラントに恥をかかすような真似はすまい……。

 なるべく背筋を伸ばし、毅然と見えるように答えた。


「……かたじけない。いや……何と言うか、さすがグラントが惚れたお相手だ……」


 フェスタンディ殿下が苦い笑いを浮かべられた。

 ……多少言葉に厭味や棘を混ぜるくらい、私にも許されると思う。

 私は何事も聞こえなかったかのように黙っていた。


「フローティアどのの事はレレイスからの推挙なんだ。レレイスは相当にフローティアどのの事を信頼しているようだ」


 その一言を聞いて、私とグラントとは無言で視線を交わす。


 ……レレイス……。


「まあそういうわけなので、宜しく頼む。さて……私はそろそろ暇させてもらおうかな。結婚に向けて身辺を身綺麗にしておかねばならないだろう。なかなかこれが忙しくてね」


 伊達な笑顔を残し、フェスタンディ殿下は屋敷を去って行かれた。


 何とも言えぬ疲労感に支配され、私は椅子にぐったりと腰かけたまま暫く言葉を発することが出来ずにいた。

 グラントとフェスタンディ殿下の話しに何度も出て来ていた『プシュケーディア姫』と言うのは、殿下の婚約者、モスフォリア国の王女の事だ。

 ……モスフォリア国と言えば去年の夏、私達がサイノンテスで過ごしていた時に王宮の使者がグラントの元へともたらした『訃報』の主も、この国の王女だった筈。


 ……そう、メレンナルナ姫……。


 殿下がなにかこの婚約には表には出せぬ事情があるような事を言っていたけれど……一体何があるというのだろう?


「本当に、すまないフロー……」


 グラントが眉間に深く皺を刻んで私に詫びの言葉を言う。

 私は彼の暗色の瞳をじっと見つめ、微笑んだ。

 お話の肝心の部分は分からなかったけれど、殿下と彼との会話の中で察しがついた部分もある。

 グラントが殿下に返さねばならない『借り』と言うのは、恐らく私を迎えにリアトーマ国へ来るためにレレイスの介添えに加わる為のモノだと思う。

 だとしたら、私には怒る権利は無い。


「貴方が謝る事はなくってよ。それに……このお話にはどんな裏があるのか分からないけれど、私は出来るだけの事をするわ。だけど……もし上手く行かなくても構わないと、フェスタンディ殿下は確かに仰ったじゃない?」


 謙遜でもなんでもなく、私はそう言った。

 殿下はどう受け取ったか分からないけれど、私自身もここにいるグラントもそれを聞いているのだから……後の事は殿下ご自身が責任を取ればいい。

 私が椅子に腰かけたままグラントへ片手を差しのばし笑うと、その手を取ったグラントも唇を曲げるようにして笑った。


「フローお嬢さん……キミは詐欺師の才能があるような気がするよ」


 手を取りその甲に唇を落とすグラントに私は言う。


「インチキ商人に言われたくないわね」



 ***


 モスフォリア国と言うのはアグナダ公国の南に広がる海、アリアラ海を渡った先の小さな国だ。

 一体その国とアグナダ公国との間に何があると言うのだろう。


 フェスタンディ殿下の婚約者だったメレンナルナ姫が亡くなり、直ぐにその妹姫であるプシュケーディア姫が殿下の婚約者になる……。

 考えてみればあまりにも慌ただしくその話は決まったように思う。

 私にはたくさんグラントに聞きたい事があった。

 だけどその前に、大概に着替えもしたいし荷解きの指示を出したりリアトーマ国から伴ってきたシェムスの事を使用人らや家令にお願いしにも行きたい。

 お風呂にも入りたいし、それらが終わる頃にはサラ夫人も屋敷に帰られるだろう……。

 

 バタバタと過ごすうちにやがて日は沈み、ようやくグラントと二人きりになれたかと思えば……どうしてこの人は私の事をまたベッドに引きずり込むのかしら。

 別にそれが嫌だと言っているわけじゃないけれど、船の中でだってその……そう言う事はしたのだから、もう少しくらい日数を開けたっていいのではないの?

 それとも結婚して一年程度だと、このくらいで普通なの?

 ……世間一般の男女と言うのは本当に、一体どういう頻度でこう言う行為を行っているのかしら……?

 馬や犬猫を参考に考える訳にも行かないし、使用人らやその辺を歩いている人に尋ねる事も出来ない。


 結局グラントからこのプシュケーディア姫についての話しを聞けたのは、翌日になってからの事。


 私は……その事情を聞いて、姫の話し相手などと言う役目に私を推挙したレレイスに向けて心の底からの恨み事と、それから……腹立ちついでに、恥を忍び男女の営みの頻度など……かねてから抱いていた疑問を手紙にしたため、厳重に厳重を重ねて封をすると彼女の元へと送ったのだった。



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