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金の杖 銀の杖  作者: jorotama
第三章
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『顔の無い花嫁』19

 モスフォリア王の住まうスフォール王宮は、海を見下ろす緩やかな傾斜地に建つ白亜の建築物群だった。

 アリアラ海沿岸部の南岸には夏場から秋口にかけ、熱帯性の嵐が発生する事が多く、港口やスフォールの街の中を見ると強い風を受けるのを嫌ってか背の高い建築物は多くない。

 まるで白い積み木のような四角や長方形が建築物の基本形となり、本来『屋根』があるべき建物の天辺部分は扁平で、屋上がテラスになっているものが多いようだ。

 瓦を使った三角屋根が稀なのは強い風雨に晒された時に吹き落とされるからかもしれない。


 王宮入り口には巨大な鉄製門扉と白茶色の石組みで作られた壮大な門柱があり、正面入り口を入れば明るく鮮やかな色タイルを敷き詰めた床と、漆喰の壁。金と硝子で飾られたシャンデリアの下がる広々としたエントランスホール。

 ホールには巨大な鉢盛りの棕櫚しゅろや蘭が溢れる。

 そこには社交的催しの為の広間や舞踏室、他国の賓客をもてなす迎賓設備等が集まる大きな建物も幾つかあるのだが、全体を見渡せばこの王宮は、ある程度の規模の建築物とそれらを繋ぐ廊下や回廊の集合体であった。


 緩やかな斜面にオリーブやオレンジ、レモンの果樹が植わり、潅木かんぼくの合間に白く覗く迷路のような王宮は、敵に進入された時には内部を熟知している人間でもいない限り、目的地に達するのが難しそうだった。

 グルリを巡らせた塀は決して高くは無く、掘割りなども美観を損ねない程度の形式的なもので、要塞と言う積極的な守りの形ではないけれど、これはこれで攻めるに難い構造の建造物だ。


 スフォールはとても美しい街だった。

 明るい色の海と澄み切った空を背景に、棕櫚や椰子やし、オレンジやオリーブの生える大地をオレンジ色の土が覆う。

 海辺から緩やかに傾斜する緑地に真っ白な家々が立ち並び、その傾斜の頂点に王宮があるのだ。

 同じアリアラ海に面したタフテロッサも明るい海の色と温暖な気候で、故郷エドーニアやユーシズより『南の街』である印象が強かったのだが、このスフォールには『南の異郷』とでも呼びたくなる風情があった。


 グラントと私を乗せた大型船『Whiteホワイト Coralコーラル』は、その日のお昼過ぎにこのスフォールの港に到着した。

 晴れて青い空の下に、街並みは真っ白に照り返り、椰子や果樹、潅木が鮮やかな緑の色を見せ付ける。


 夏の続きのような日差しの中で見る青と白と緑のコントラストも美しいけれど、太陽の昇る前の青い時間や夕日に染まるスフォールもさぞや美しい事だろう。

 しかし、この時の私にはそんなまだ見ぬ街の美しさに心を馳せる余裕など微塵もありはしなかった。

 なぜなら、私は今まさにプシュケーディア姫との初対面を果たそうとしていたからだ……。



 ***


「……貴女がバルドリー卿夫人フローティア? やっぱりそうね! あぁ……お話しに聞いていた通りだわ可哀想(・・・)に。本当に足が不自由な人なのね……!」


 初対面のモスフォリア国王女の発した第一声がこんなモノだったと知ったなら、今頃軍の関係者と合流している筈のグラントはどんな顔をするだろう。

 彼もドルスデル卿夫人からの手紙に目を通しているから、ある程度は状況を把握しているけれど、まさかこれほど酷い『ご挨拶』を受けているとは思わないのではないだろうか。

 私とて……もし前もって彼女がこういう反応をするであろうとを聞いていなかったら、たいそう面喰ったと思う。


 いや、ドルスデル卿夫人から話を聞いていても正直内心ではプシュケーディア姫のこの第一声に少し驚いていた。

 いくら彼女がまだ歳若い娘だとは言っても、普通17歳にもなれば分別くらいつくはずだ。

 それなのに、自分がこれから嫁ぐ国の上位貴族の妻に向かっていきなりコレは無い。


「プシュケーディア姫……初対面の相手にはご挨拶を」


 私の隣でドレスデル卿夫人が静かな、しかし断固とした様子で言う。

 王女は面白くなさそうな一瞥をドルスデル卿夫人に向けた後、スカートの端を抓んで人懐こい笑みで私を見た。


「もうご存知でしょうけど、私がプシュケーディアですわバルドリー卿夫人。ああ、バルドリー卿なんていう汚らわしい名前で呼ばれるのはお嫌に決まっているわね。かと言って旧姓で呼ぶのも可笑しいし……。だったら私、あなたのこと名前で呼ばせてもらおうかしら。その方が親近感(・・・)がぐっと湧くでしょう? 私の事もケーダって愛称で呼んでかまわないからね? ……長旅でお疲れでしょうフローティア。大丈夫? 足は痛まない? こっちに座って話しをしましょうよ。今お茶を持ってこさせるから」


 私に口を開かせない勢いで、プシュケーディア姫は堰を切ったように話しをはじめた。


 この対面に先立つ事一時間ほど前に、私はドレスデル卿夫人がスフォールの王宮に与えられている部屋で彼女と話しをしていた。

 夫人は小柄ながらピシッと背筋の伸びた姿勢の良い女性だ。

 華奢な体つきで黄色がかった白髪をふんわりと雅な形に結い上げており、外見だけ見れば優しげで弱々しいご婦人なのだが、明晰な頭脳と一本筋の通った性格がその姿にも透けて見える。

 なんと言うか……女性の形容詞として不適切ながら、豪儀さのあるサラ夫人にどこかしか似通った感じとでも言うのか……。

 この王宮に到着したその足で、私はプシュケーディア姫の介添え人としての挨拶をモスフォリア王に済ませ、部屋で旅装を解いてすぐにドレスデル卿夫人の元へと向かった。



 ***


「貴女には本当に申し訳無い事をしてしまいました。詫びて済む話ではない事は重々承知の上、改めて今一度謝罪の言葉を口にすることを許していただけませんか、バルドリー卿夫人……」


 開口一番、ドルスデル卿夫人は苦渋に満ちた表情で私にそう詫びた。


 自分の母親ほども年上の女性にこのように平身低頭謝られたのには、当たり前だけれどもそれだけの理由がある。

 ドレスデル卿夫人はプシュケーディア姫に私と言う人間に対するとんでもない誤解を与えてしまったのだ。

 もちろん彼女が故意にそんな事をしたわけでは無い事くらい私にもわかる。

 そんな認識違いを植えつけるなど、あまりにも無意味過ぎるのだ。


「顔をお上げになってくださいドルスデル卿夫人。……謝罪の気持ちは充分わかっておりますわ。それよりも今はこれからの事を考える方が先だと思います。だって……プシュケーディア姫の誤解(・・)は結局、そのうち絶対解けることになるでしょうから……」


 誤解の解けた時のことを考えると溜息が出そうだ。

 ドレスデル卿夫人の為にも彼女を責めるような事はしたくないのだが、私の唇は無意識に苦笑いを浮かべてしまう。


「仰る通りね。私としたことが……自分が謝罪で楽になることばかり考えていたようです。長旅でこちらに到着してお疲れだという事も忘れて、椅子すら勧めずに……。さ、こちらへどうぞ」

「さっそくですがドルスデル卿夫人。お手紙でだいたいの事は知らせていただきましたけれど、どうしてあのようなことになったのか……改めてお伺いさせていただいてもよろしいでしょうか?」


 私は余計な事は言わずに勧められた椅子に掛け、モスフォリアの王女と会う前に、改めてコトの経緯を直接ドルスデル卿夫人に尋ねたのだった。



 プシュケーディア姫がフェスタンディ殿下へ嫁ぐことが決まったのは、彼女にとって突然のことだったと思う。

 プシュケーディア姫はモスフォリアの王の一番末の姫だそうで、姉姫らとは違い他国の王族や貴族らに政略結婚の駒として嫁がされる予定などはなく、伸び伸びと……『甘やかされて』育てられた王女であるそうだ。


 モスフォリア王は最愛の末姫を自分の手元に置く為、国内の貴族に嫁がせようと心積もりしていたのだろう。

 ……そう言えば先ほど挨拶に伺った時にお会いしたモスフォリア王は、酷く窶れておいでだった。

 まあ……ボルキナ国と結託してアグナダ公国を陥れようとしていたのだ。アグナダ側の人間から言わせて貰うなら、同情の余地などないのだけれど。


 歳若い上そのような環境で育てられたプシュケーディア姫には、嫁ぎ先に対する知識が無い。

 亡くなられたメレンナルナ姫は恐らくフェスタンディ殿下との結婚が決まった後、結婚に際しての式典の手順などは勿論のこと、アグナダ公国の歴史や国内の主要な貴族の家系や家の成り立ち、大公の血縁など詳しく学ばれておられたことだろうが、プシュケーディア姫がそういう知識を学ぶ必要が出来たのは殿下と婚約されて以降の事。


 ……普通に考えれば余裕は無くとも時間的には充分あった筈なのだけれど、どうやら……王女は自分がフェスタンディ殿下と結婚することを納得せず、随分とごねられていたようだ。

 当然そんな状態で王女が勉強をするわけも無く、ようやく多少状態が落ち着いたのが……この夏の話。


 『状態が落ち着く』と言うのは一体どういう事なのか……ちょっと私には理解出来なかったのだけれど、ドルスデル卿夫人が言うには


「私が来たのはその状態が落ち着いた後の事だった筈ですけれど……。あれで『状態が落ち着いた』と言うならば、一体それ以前はどんなことになっていたのか想像することも出来ません」


 との話だ。


「あの……それは具体的にはどういう……?」


 尋ねる私にドルスデル卿夫人は小さく首を横に振る。


「最初の数日間、プシュケーディア姫は私を徹底的にいないものとして振舞われました。……挨拶も質問もすべて聞こえないかのように無視なさるのです」


 溜息混じりの説明によれば、プシュケーディア姫はドルスデル卿夫人を無視するだけではなく、彼女の授業の予定時間に部屋から逃亡し、スフォールの街へと遊びに出かけてしまう事もしばしばだったのだそう。


 あまりにも子供じみた行動に聞いた私は呆れるだけだが、ドルスデル卿夫人としてはそうも言ってはいられない。

 アリアラ海を渡ってこの国まで来ながら、プシュケーディア姫に何一つ教えられなかったのでは教育係の意味がないと言うものだ。

 この事に対してモスフォリア王に苦情を入れるも、王の返答は


「自分の不徳のせいで申し訳ない」

「こんな事になってしまい姫が哀れでならない」

「どうか姫を許してやって欲しい」


 ……と繰り返すばかりで話にならなかった。


 せめてプシュケーディア姫が王宮から逃げ出さぬようきちんと部屋にいさせてくれと要請したところ、監視が厳しくなったせいなのか授業を投げ出す事こそ無くなったが、やはり王女は話を聞いているのか聞いていないのか……何の反応も返さなかったのだとか。

 わざわざ海を越えて彼女の為にやってきた教育係に対して随分な振る舞いだ。

 話を聞いているだけの私でさえ腹立たしいのだから、責任持って己の仕事を遂行しようと何ヶ月も前から準備をしてきたドルスデル卿夫人はもっとお怒りだっただろうし困られたに違いない。

 悩んだドルスデル卿夫人が王女の周辺の人々に聞いたところによると、そんな状態でもプシュケーディア姫はそれまでに比べれば随分と態度を軟化させているようではあった。

 反応は示さぬまでも授業に出てくると言う事は、話を聞く気持ちはある筈だとモスフォリア王も言う。


「実際……それまでお教えした事柄を試験に出してみましたら、大体の事は覚えておりました。もちろん口答試験は無言でお話しになりませんでしたが、長文は文法も綴りもしっかりしているし、記憶力もあるのです。決して頭の悪い方ではないんですよ……」


 とにかく、ただただドレスデル卿夫人に対して無反応なのだ……。

 それは……突然自由を奪われ人質同然の立場で嫁がされる事になった彼女なりの反抗なのかもしれないが、あまりにも幼稚なやりようではないだろうか。


 話を聞いただけでプシュケーディア姫がふつうのお姫様とは違うのだという事が察せられ、こう言ってはなんだが……これから彼女に関わらねばならぬ私は、とても憂鬱な気持ちになった。


「何を聞いても無言。無反応。目を合わせようとしない日が何日も続きました。それでもモスフォリア王や供回りの者の言を信じて授業を続けましたけれど……あれなら案山子に説法している方がマシでしたわ。その方が無駄に苛立ったり惨めな気持ちになったりしませんからね。ああ……余計な愚痴をお聞かせしましたね。ごめんなさい。……そんな中、唯一プシュケーディア姫様が反応を返されたのが、バルドリー侯爵と貴女の事だったのです」


 正確に言うならば、彼女が興味を示したのは近年のアグナダ公国の情勢としてドルスデル卿夫人が話した『レレイス公女の結婚』に関してのくだりだったようだ。

 プシュケーディア姫がドルスデル卿夫人の授業を受けてから口にした初めての言葉が


「レレイス公女は国の犠牲になったのね。なんて可哀想なの……!」


 ……との感情的な嘆きだったと聞いて、私は頭が痛くなってしまう。


 レレイスの結婚の経緯と自分の輿入れとを重ね合わせての言葉なのだろうが、実際のところプシュケーディア姫の輿入れとレレイスの輿入れとでは根本部分の性質からして全く違う。


 確かにレレイスがサザリドラム王子に嫁いだ時、アグナダ公国とリアトーマ国とは現在のように友好的な状態には無かった。

 だから嫁いだ当初、レレイスの存在は人質と言うか、和平の為の『抵当』の意味合いを持っていた。

 けれど、両国の関係を悪化の原因はボルキナ国によって偽装されたものであり、その問題が取り除かれた以上、アグナダ公国とリアトーマ国がレレイスとサザリドラム王子の婚姻により和平し、友好関係が昂進してゆくことは確定的に明らかな状況だった。

 それに……たまたまアグナダ公国に妙齢の公女がおり、リアトーマ国に歳まわりの都合の良い王子がいたからレレイスがリアトーマに嫁ぐ形になったが、もしこれが逆に、アグナダ大公に年齢の調度良い男児がいてリアトーマ国に王女がいたのなら、暫定的に和平の『抵当』となったのはリアトーマ国側の王女だったかもしれない。


 つまり、アグナダ公国とリアトーマ国は対等な力関係のもと姻戚関係を結んだのだ。

 プシュケーディア姫の場合は、人質……と言うよりは罰則と言った方が近いのではないだろうか。


 モスフォリア王は以前相当に恰幅の良い方だったと聞いたが、私が先ほどお目にかかった王は窶れ果て、実年齢以上に年老いた姿をされていた。

 モスフォリアがボルキナ国と結託し、陰謀の片棒を担いだのは王一人の判断ではないだろうが、国をまとめる要たる王個人にも大変な『罰』が愛娘の喪失と言う形で与えられたのだろうと、その姿を見て私は思った。


 政治的な意味での罰則は、モスフォリアが開発した『新造船』の設計と、その設計に携わった設計者や造船に関わったこの国第一級の技術者らをアグナダ公国やリアトーマ国へ連れて行くこと。

 新造船開発資金として受けとっていた『金』がフドルツ山から不正に流出していたものだと知っていただけではなく、モスフォリアはメレンナルナ姫を間諜や……状況と場合によっては暗殺者としてフェスタンディ殿下のもとへ送り込もうとしていたのだ。


 商業的に言えばモスフォリア国はアグナダ公国にもリアトーマ国にも軍艦や商船を輸出しており、ぐるりを海に囲まれ他国との交流や貿易には大型船がなければ始まらぬレグニシア大陸の二国は、この国にとっていわばお得意様であった筈なのに、これは酷い裏切りだと思う。

 ……殊にアグナダ公国は手酷く面子をつぶされたと言うのに今回の処断は非常に温情に溢れたものではないだろうか……?

 設計者や技術者を連れて行くと言っても、造船が国の経済の要であるモスフォリアのすべての職人や技術者を連れ去ろうと言うわけではないのだ。

 あくまでも『新造船』開発に関わった人間を限定して連れて行くのだし、その船に関する資料や一部施設は処分することになっていても、一般の造船所をねこそぎ破壊するなんて事も無い。


 場合が場合ならアグナダ公国はリアトーマ国と連合し、モスフォリア国を攻撃してもおかしくなかったと思う。

 戦争と言う形で直接攻撃を仕掛けなかったとしても、モスフォリアの裏切り行為を対外的に発表すれば、戦火の絶えぬアリアラ海南岸地方の諸国のどれかがソレを口実にこの国に攻め入ってくることだってあったかもしれない。

 そうなるように工作することくらいいくらでも出来たのだ。

 だがアグナダ公国もリアトーマ国も面子を潰された怒りに任せて戦い、破壊することよりも、安定と平和な未来を選択した。


 ……それなのに……プシュケーディア姫はそのことを本当にきちんと理解しているんだろうか?

 自分がどんなに重要な責任を背負ってアグナダ公国へ嫁ぐかを分かっていながら、ドルスデル卿夫人に対して失礼極まりない振る舞いをしていると言うの……?

 私はそれが不思議でならない。

 自分に置き換えて考えるのは間違っているのだろうけれど、どうにもやはり私にはプシュケーディア姫の心境が理解出来ない。

 まあ、私とプシュケーディア姫では生い立ちも性格も全く違うのだから、理解しようとすること自体に無理があるのだろうけれど。



「……それで、レレイス公女の輿入れの流れでバルドリー侯爵が公女様に同行なさったエドーニアで貴女を見初められ結婚したのだと言う事を、私は王女にお話ししました……。なんというか、その話題には非常に食いつき(・・・・)が良かったのです。それまでだんまりだったプシュケーディア姫がまるで人が変わったかのようにあなたの事をあれこれと質問して来ましたわ」


 レレイスとサザリドラム王子との結婚を語る時、グラントと私の結婚も語られることは珍しくない。

 王子と公女の婚姻と同列に語るのは恐れ多いが、和平の架け橋としてアグナダ公国とリアトーマ国で互いに国境を跨ぎ花嫁を出し合ったのだ……とか、王子公女の結婚だけでもめでたいのに、そこに同道した介添え人までめでたくも花嫁を得た……と言う、話のオチ(・・)としてちょうど良いからじゃないかと思う。


 きっとドルスデル卿夫人はレレイスの結婚の流れとしてだけではなく、王女の介添え人となる私との仲を前もって取り持つ意味もあり、お話をしたのだと思う。

 別にそれはおかしなことではないのだ。


 だが、しかし……



 ***


「フローティア……あなたも私と同じなのね……」


 プシュケーディア姫との対面の場。

 王女に勧められて長椅子に腰を下ろす私にプシュケーディア姫は同情と哀れみに溢れた目を向けてきた。

 まるで怪我をした犬猫や、老人、病人のような扱いだ。


 長椅子は底なし沼のようにズブズブと私をその座部に沈め、抜け出すのが困難なくらいに深く私を飲み込んだ。

 自室で寛ぐには気持ちよい椅子かもしれないが、ここで背凭れにふんぞり返ってはあまり格好が良ろしくない。

 お腹に力を入れ、なんとか後ろに倒れるのを免れた私におかまいなし。王女は言葉を続ける。


「家族や国に売られ、自分の功績の為には愛情も無い相手でもお構い無しな男と結婚させられるなんて……本当に……本当に、私もあなたも不幸なことだわ……!」


 ……と。


 芝居がかって見えるほど大袈裟に身を揉み絞り、顔を真っ赤にして涙を浮かべるプシュケーディア姫が真剣そのものであるのを見て、私は心の中でくらくらと眩暈を覚えていた……。



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