『顔の無い花嫁』16
「驚いたな……いや……しかし、やり方は間違っていない。レレイスに必要なのは時間と、この国に対する貢献の実績だから……」
時間をかけ国母として国に貢献し、ある程度の政治発言力を手にした後、彼女は民間登用の官僚や王宮、学舎等の事務方に『雇用枠』を設ける提案をする事を考えていた。
もちろん『雇用枠』も一般枠同様の厳しい能力審査をした上でだ。
貴族以外の社会では身体に多少のハンデがあっても学業は出来るし、仕事を持つ事も出来る。
よっぽど裕福な家の出じゃない限り働かねば生活できないという事情もここにはあるのだが、今現在、上級職である王宮関係や官僚への登用への道は身体能力に欠損のある人には存在していないのが現実だ。
道が用意されれば上級職を目指し、人々は奮起するはず。
そうなれば競争率が上がり、採用される人間の質も自ずと向上する。
力のある人間がその能力を発揮してくれれば、今現在の偏見の目も減る筈だとレレイスは言う。
『雇用枠』を提案する予定の幾つかの職は、その性質上リアトーマの上流社会に所属する人々との接点が多い部署なのだ。
レレイスは外堀から固める形で最終的には国全体の意識を変革してゆく方法をとろうとしていた。
……多少迂遠なやり方かもしれないけれど、はじめからリアトーマの貴族社会に物申し余計な反発を生む方法を取るよりは……と、そう考えてのことらしい。
私は正直、彼女がそこまで明確な計画を持っていた事に驚いてしまった。
きっと最初の子供を身ごもっている間にも、ずっとこの事を考え続けていたのだと思う。それだけレレイスは本気だと言う事なのだ……。
「ああそうか、なるほど……。フローお嬢さんがこの国にいる時期で、しかも彼女の身動きが取れる時じゃなければならなかったのか……」
だから今日、彼女はこの屋敷へとやって来た。
私からレレイスの『計画』を聞いたグラントは、葡萄の房を銀の鉢に戻し、椅子に腰を下ろし直して小さく独りごちた。
彼の言う通り、第一子がまだお腹にいた昨年終盤以降公の場を離れていた彼女は、またお腹の目立つ月齢になると夜会や宴、派手な行事ごとには参加できなくなってしまう。
その前に社交界にしっかりと顔を繋いでおく必要があったのだ。
「兄様のこの披露宴はうってつけの機会だったのだと思うわ。今この時期体にそう負担はかけられないもの。その点、御使者としてここに来るなら長居もしなくて済むでしょう?」
「しかもジェンフェア・エドーニア子爵の結婚披露宴には、家格の高い古い家柄で国内での発言力の高い人間が多く出入りしていたからね。キミのことを宣伝する機会としても調度良かったと言うわけか」
エントランスでの一幕以降彼女は私と御使者の席に座って話しているだけだったけれど、それは今日の主役である兄様らに遠慮しての事……との言い訳も立つ。
存在自体に華のあるレレイスだ。あの場の人々への礼儀を欠くことなく今日は充分に注目を浴びる事も出来た。
これから先、暫くの間はこうした体に無理の無い場所と状況を選んで皇太子妃としての存在感をアピールしつつ、もしも場が許すならジェンフェア・エドーニア子爵の妹、つまり私の事を話題に出して行きたいのだとレレイスは言い、私もそれを了承した。
私の存在がレレイスだけではなくいつか未来の誰かの役に立つと言うのなら、看板でも見世物の珍獣でも好きなように使ってくれて構わない。
寧ろどんどん喧伝してもらいたいくらいだった。
自分の命を賭して私を救ってくださった父様だって、私の存在がこの先世に出る誰かやその家族らの役に立つと言うのなら、きっとそれをお喜びになるに違いない。
はぁ……っと、グラントが何故だか大きな溜息を吐いて立ち上がる。
少し渋い表情の彼を訝しく見上げる私をチラリ横目で見て、砂色の髪をぐしゃぐしゃとかき回すグラント。
一体どうしたというんだろう。
「……な、なに? どうしたの? 何かレレイスの考えに問題でもあって!?」
「いや……いや……そうじゃない、そういうことじゃないんだ。……これから何年か先の話になるけれど、アグナダ公国とリアトーマ国の黄金街道が連結すれば、両国の社交界も今以上に密度の高い交流を持つ事になるだろう……何しろ陸続きの国になるんだから」
しゃべりながら彼は大きなストライドで寝室に入り、入ったと思うとすぐに戻って来た。
出て来た彼の手には、私が今年の春にブルジリア王国のルルディアス・レイで手に入れて来たストール。
「アグナダはキミも知ってのとおりの国だろう? 両国社交界の密接な交流はレレイスにとっての追い風になる筈だ」
言葉を止めぬままグラントは椅子の後ろにまわり、上衣がビスチェな為にむき出しで覆うものの無い肩に暖かく軽いストールを巻きつけてくれた。
「タイミングを計り事を動かせば彼女が考えているよりも早く、この国の社交界もキミ以外に杖を突いた紳士淑女が当たり前に闊歩するようになるだろう……」
本当にもしも彼の言うとおりならそれは嬉しい事なんだけれど。
………それはそうと、さっきのグラントの様子は一体なんだったんだろう?
私の背後に立ったまま、巻き上げ、ピンで止めていたせいでクルクルと渦を巻いて肩や背中を覆うように落ちた髪に指を絡めるグラントを、顔を仰のかせて見上げてみた。
オレンジ色に灯る灯火の中、逆さまになった彼の口元には苦い笑いの影が落ちていた。
「……グラント……どうかして?」
「なんというか……お嬢さん。キミが籠の鳥のように閉じ込めておけるような人間じゃないってことは充分承知していたつもりだったんだが、想定範囲も想定方向もすべて逸脱して『そのとおり』だったもんだから……。たとえ一時の気の迷いにしろ、キミを誰の目にも触れぬよう手の中に隠しておきたがっていた自分の馬鹿さ加減につくづく呆れ果てているところなんだ……」
「まあ……グラントの言い草じゃあ私、まるで糸の切れた凧みたいな人間のように聞こえてよ。貴方の手を離れてふらふら彷徨うのなんて嫌よ。しっかり捕まえていてくれなくちゃ困るわ……」
私の言葉にふと和む暗色の瞳。
「俺がどれほど独占欲が強くて嫉妬深い人間か、知っているだろう?」
私の髪から頬へと辿ってきたグラントの手に手を重ね、私は思わず笑みを零す。
「お医者さんに嫉妬するって言ったわ。それに、シェムスにまで」
「今日はその嫉妬対象のリストに、レレイスの名前を書き入れた」
「ええぇ……? レレイスまで?」
私が半ば笑いながら驚きと抗議の声を上げると、グラントは身を屈めて私の右のこめかみに頬を寄せ喉の奥で笑う。
「それはまぁ、半分冗談だけど。……レレイスが来てからキミはすっかり元気な様子だからね」
そうだ。レレイスがもしフルロギ別邸に現れなかったなら、私はこんな遅い時間になる前、とっくの昔にこの部屋へと逃げ込んでいたと思う。
「なんだかね……言葉にするのは難しいけど、レレイスが全部吹き飛ばして行ってしまったのよ」
彼女が突然ここに来る直前の私は、本当に惨めで悲しくて……自分の弱さに殆ど負けそうになっていた。
だけど……今はもう、なんというのか……こう言ってはおかしいかもしれないけれど、私は私を悩ましていた色々な事が馬鹿馬鹿しくなってしまったのだ。
「……嵐のようだな」
私のこめかみの横でグラントが言った。
「そうよ。レレイスは嵐なの……」
だって、本当に嵐のように容赦なく……色々なモノがレレイスに吹き飛ばされていったのだもの。
私がこの国の社交界で酷い扱いを受けているんじゃないかと心配して、彼女はここに来てくれた。
それどころか、私を救おうと自らの命を落とされた父様の事までも気に掛けて、リアトーマ国の差別的な今の気風に真剣に憤りを覚え、それをどうにかしようと立ち上がってくれたのだ。
レレイスの『母性』はあまりにも圧倒的で深く、激しく、そして優しく暖かくて……それをまざまざと見せ付けられてしまった私は、はっきりと悟らぬわけにはいかなかった。
……いくら私の中の小さな子供のフローティアが後追いをしたところで、私の母様はけっしてそれに応えてはくださらないのだという『現実』を。
未だに胸は痛むけれど、それさえ認めてしまえば随分と楽になれる。
それに……それでも母様はエドーニアからいなくなった私を心配してくださった。私のせいで父様が亡くなってしまったのに、私を家族として受け入れてくださっている。それは事実だ……。
私はもう大人なんだもの、いつまでも小さな子供に注ぐような愛情を求めても仕方がないではないか。
私には私を心配し、私のトコロへ来てくれる友達がいる。
私の意志を尊重し、意固地な私を許して辛抱強く見守ってくれるグラントだっているのだ。
「貴方にしてみれば、随分歯がゆかっただろうと思うわ……」
自慢話のように聞こえそうで嫌だけれど、母様や伯母さまに私が昔の私ではないのだと知ってもらう為には、もう少し賢いやり方だってあった筈だ。
家族に対して何の前触れも説明も話し合いもないまま、この国では私のように脚の悪い女が堂々と振舞うのは一般的ではない事を知っていて、それを強行しようとしたのだもの。
ホーネスタ夫人からの風当たりが強くなっても当然だし、ロディディアに私がおごり高ぶっていると思われても仕方がなかった。
ほんの少しだけ、私がリアトーマ国では隠れて暮らさねばならぬ立場にあったフローティアではなく、今はアグナダ公国貴族の妻なのだと言う事を皆に理解を求めておけば角も立たなかったかもしれないのに……。
思い込みと意地で、私は馬鹿みたいに凝り固まっていたのだ。
そう言う事をすべて引きくるめ、私の為の逃げ場まで用意して、それを自覚するまで黙って見守ってくれたグラントには……あまりにも申し訳なさ過ぎて言葉もない。
「……こんな年齢になった女が言う台詞じゃないけれど、私、自分が子供だったって思うわ。本当に……どうにもならないくらい意固地で困った人間だと言う事を自覚してよ」
「自分の事を大人になったと思っている人間が、本当に大人である事など殆ど無いことをお嬢さんは知っているか?」
私の反省を込めた嘆息をそんな言葉でグラントが笑い飛ばした。
「まぁ、反省している人間にかけるのがその言葉なの?」
「自分の経験則から言っているんだ。それに、お嬢さんはそうやって強気に怒っていてくれた方がキミらしいよ。このところずっと勢いの無いキミばかり見ていたから……そういう意味じゃあやっぱりフローお嬢さんを元気にしてくれたレレイスには感謝するべきだろうな」
強気に怒っていた方が私らしいなどと言われ、反論したい気持ちはあったけれど、ここで彼に噛み付いては本当にいつも私が怒っている人間のように取られそうだ。
「……私のために感謝しているのなら、変なリストからレレイスの名前を削除するわけにはゆかない?」
「じゃあ嫉妬対象じゃなく要注意人物リストにしておくよ。アレは時々キミに下品な言葉を教えたり、変な感化を与えかねないから。……だいたいなんだったんだ、レレイスは。俺がキミに夜な夜な何かおかしな事をしているとでも思っているのか??」
数秒の間、彼が何を怒っているのか分からずに考え込んでしまったのだが、それがエントランスでレレイスがグラントに向けて言った言葉に対するものだと気が付いて、私は慌てて口を開いた。
「わ、私はちゃんとレレイスに貴方に変なことを無理強いされているわけじゃないって話したことよ……!」
ああ……そうだった。
レレイスは確かに下世話な話を私にする。
王宮で揺り篭の上に屈みこんだ彼女の姿は、まるで白い聖母のように神々しかったと言うのに……。
さっきも健康が許す限り子供をたくさん産む心算だと教えてくれたのはいいけれど、その後、聞いてもいない自分と王子との房事について、あけすけな話を勢い良くし始めて……。私はどんな反応を返せばいいのか本当に言葉に窮したのだ……。
レレイスはとてもいい人だ。優しいし、強い。私などの事を本当に友達だと思い気に掛けてくれている。
たぶん……恐らくグラントにあんな失礼な疑いをかけたのだって、私の事を心配するあまりだったのだと思う。
それはそう思うのだけど……あまりにも下世話と言うか、上品とは言いがたい話題をレレイスがわざと出していると思うのは、私の穿ちすぎだろうか?
どうにも彼女は反応に困る私を見て楽しんでいるのではないかと疑惑を抱いてしまうのだけど……。
とまれ。レレイスは時々ちょっと意地悪だし割と……かなり下世話な話の好きな人間ではあるけれど、私は彼女が大好きだ。
彼女はとても美しい。
姿かたちはもちろんの事、魂と言うものが可視のものであれば、きっと彼女の魂は素晴らしく強くて美しいのだ。
私は今日、いつかたくさんの子供や孫に囲まれる年齢になった彼女の姿絵をこの手で描かせてもらえたら……と言う思いを強く持った。
人間は過ごした時間とその人生とが顔にあわられる生き物だと思う。
若さが去った後もレレイスの上には、魂の輝きと人生の円熟による今には無い美しさが現れているに違いない。
まあ、今あまり彼女を褒め称えるような事を言っては、少し機嫌を損ねているらしいグラントがまた妙なリストにレレイスの名前を入れかねないから黙っておこう……。
この部屋を出る前に綺麗に剃ったはずのグラントのお髭は、時間の経過によって少し伸びているようだ。
彼の体温とゆったりした呼吸……それにざらざらとした頬や顎をこめかみに感じながら、私は子供時代から少女時代までを過ごした部屋の中をぐるりと見渡した。
あの頃の私はとても孤独な子供だったと思う。
母様とは今のように話をする事などなかったし、兄様は爵位と領地を継いでお忙しくされていた。
父様の死に顔が頭から離れず、何枚もの絵を……凄惨なあの姿を脳の中から少しでも消し去りたい一心で描き続けていた私を、使用人達は気味悪がり……特に若い娘達は怖がって怯え、近づくのを嫌がっていた。
私の世話をし、心から気にかけ話しをしてくれたのは老侍女のベリットやシェムスだけ……。
自分が孤独だと言う事に気付けないくらい孤独だった私が、グラントと言うかけがえの無い……誰よりも愛おしい人とこうしていられる日が来るなんて、想像した事も無かった。
それに、レレイスと言う頼もしい友達が出来る事も。
私は幸せだ。
とても……信じられないほどに。
ふと、アリアラ海を隔てたまだ見ぬ国でたった今この時、不安と悲しみとを胸に眠れぬ夜を過ごしているだろう一人の少女の存在が脳裏を過ぎる。
モスフォリア国の王女プシュケーディア姫。
アグナダ公国を謀ってボルキナ国と結託し、レグニシア大陸に戦火を放つ片棒を担ごうとしたモスフォリア国の咎をその身に背負わされ、早世した姉姫メレンナルナに代わって人質か人身御供同然の立場でフェスタンディ殿下の下へと嫁ぎ来る事になった彼女の胸中の不安は如何許りか……。
私には荷が重いと彼女の事は今の今まで考える事すら避けていたのだが、そんな後ろ向きで情けない気持ちのままでいたのでは、こんな私の為に色々と考えこの屋敷まで来てくれたレレイスや私と言う……本当に困った人間をその大きな懐で守ってくれるグラントの前に堂々と顔を上げる事が出来ないではないか。
私にはレレイスのような強さや魔法のように周囲の状況を変えるような力は無いけれど、自分に出来る事を探そうともせずただ逃げてばかりいて良い筈がない。
もちろん、そこで無理や無茶をしては二人が喜ばないだろう事は承知している。
だけど……彼女の立場は確かに客観的に見て苦しいものだけど、国と国との問題から視点を変え、彼女の夫となるフェスタンディ殿下個人を見るならば、彼は悪い人間でも恐ろしい相手でもないのだ。
きっと誠心誠意それをプシュケーディア姫に説いてゆけば、彼女も分かってくれるはず。
ただ……王女の教育係として既にモスフォリア国に渡航しているドルスデル卿夫人からいただいた手紙を読む限りでは、プシュケーディア姫は私に対して間違った認識をしているらしかった。
彼女に会ったなら、まずはその誤解を解かねばなるまい。
……とにかく、私のせいでグラントが自由を失うのが早まったかもしれないとか、プシュケーディア姫の介添え役を引き受ける事で大公やフェスタンディ殿下の参謀となる下地を整えてしまう事とか、そういう後ろ向きな要素ばかりを考えるのはよそう。
どうにもならぬ部分で思い悩んだところで、ただ悪戯に気持ちを重くするだけ。
いずれ違う風が吹いてくれるかもしれないのだから、今はただ、私は私らしく事にあたるだけだ。
私はプシュケーディア姫のもとへ馳せていた気持ちを現実へ引き戻すべく、ほっと小さく息を吐き、こめかみに当たるグラントの頬に片手を伸ばした。
顎をそらせて見上げると、口元にゆったりと微笑みを湛えたグラントが暗色の目を細めて私を見下ろしていた。
その表情を見る限り、レレイスの事で損ねていた機嫌はどうやらすっかり直ったらしい。
触れた顎から頬に指先を滑らせるようにたどる私の指先に、伸びかけの髭がさかしまにザラつく感触が伝わった。
「……ねえ、グラント……何を見ているの?」
気のせいか見上げる私と見下ろすグラントの視線が不自然にすれ違っている。
眉根を寄せての私の問いに、彼は
「いや……別に……」
との曖昧な返答を返してきた。
「……じゃあ、何をしているの?」
彼が何を見ているかに気づいた私は、唇を曲げてグラントの顎をグイっと上に持ち上げながら、ストールの隙間を縫ってビスチェの上部から胸元へ侵入しようとしていた彼の手の甲を抓った。
「ぅあたた……っ! いや、その、キミからいい匂いがする上にここからの眺めがあまりにも……素敵な眺めだったもんだから、つい理性が……」
まったく……油断も隙も無い。
私は半身をひねって長椅子の背もたれの後ろで手の甲をさすっているグラントに向き合い、唇を尖らせた。
「何日も伸ばしっぱなしにしたお髭よりも、その伸びかけのお髭が一番痛いのよ。そのまま続けようとしているのなら、レレイスに『変な事を無理強いされている』って……訴えてしまうかもしれなくてよ?」
背もたれから半ば乗り出している私に、慌てた様子でとりなすように両手のひらを向けるグラント。
「いや……その……それは勘弁願えないか、フローお嬢さん」
「だったら……」
喉の奥から言葉を押し出すようにしながら、私は意志に反して段々赤く染まる頬を見られまいと背もたれから手を離して急いで真っ直ぐに座りなおした。
「……今すぐお髭を剃って来てくれなくては……困るわ……!」
私の言葉の意図を解してくれたグラントが、私の肩口にキスを一つ落としバタバタとその場を走り去ったのは、私がそっぽを向いた後二~三秒の事だった。




