勇者に倒された魔王の面接
久々の投稿です、はい
放置すみませんでした(土下座)
不憫で苦労性な宰相の負担を少しでも減らすため、魔王は再び就活のために人間界に赴いた。
それから間もなく……
「……帰ろうかな」
早くも妥協しようとしていた。
「ハローワークに行ったら、絶対あの詐欺師にイジられる……」
どうやら最初のハローワークデビューが、魔王の中でかなりのトラウマになったようだ。
―アルバイト募集中―
憂鬱な魔王の視界に、人間界のとあるコンビニに貼られた紙が映った。
「アルバイト募集中……か」
アルバイトも立派な仕事、魔王はそんな風に物思いに耽っていると、
「邪魔です」
背後の女性が魔王の股を蹴りあげた。
…………あぁ、痛い。
「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!」
魔王は地に伏し、ピクピク痙攣しながら背後を睨む。
「き…貴様はっ?!」
背後に居たのは……………………………
「さ、詐欺師!!」
「所長です」
ハローワークの所長だった。
魔王は素早く立ち上がり、所長と対峙する。
「貴様、なぜここに……?」
「所長がコンビニを利用してはいけない法律はありませんからね。それより早くそこを退いていただけますか? 入り口に立たれると正直に言って、邪魔です」
「それが他人にモノを頼む態度か!!?」
「少なくとも、貴方にはこれぐらいが充分すぎてお釣りが貰えるレベルだと思いますが」
「もっとソフトで優しい対応を希望します!!」
「お客様、優しさには上限というものがあるの、ご存知ですか?」
「既に精一杯の優しさだと?!」
「あの……」
『へ…?』
突然の声に、魔王と所長の声が重なる。
視線を向けて見れば、苦笑しているコンビニ店員が一名。
コンビニ店員は頭を相変わらず苦笑しながら二人に言う。
「そこで話し込まれると、その……営業妨害なんですが……」
「あ、すいま――」
魔王が頭を下げて謝ろうとすると、所長は一歩前に出て言う。
「所長がコンビニの前で話し込んではいけない法律があるんですか!?」
「何言ってんだお前っ?!」
魔王は目を見開いて所長に視線を向ける。
コンビニ店員も「えぇ〜(汗)」という表情を浮かべる。
しかし、所長は我が道を貫く姿勢を変えない。
「私は法律に違反する事は死んでも絶対にやりませんが、法律に違反していない事は嬉々として実行します!」
「いや、だったら……この前のハローワークでのやりとり……あれ思いっきり俺への名誉毀損だよな?」
「私の中では貴方はバクテリア未満の存在なので、名誉毀損ではありません」
「なんで俺に対してそんなに態度冷たいの!? おかしくね?! 俺、お前に何かしたか!?」
「強いて言えば、存在?」
「元も子もない事を!!」
「あの!!」
コンビニ店員は涙目で二人に訴える。
「営業妨害なので、話し合いは他所でやって下さい!!」
『うるさい! 今大事な話してるんだから失せろ!!』
「理不尽ですよ、お客様方!!」
店員は、息ぴったりの魔王と所長に涙目になる。
すると、
「何事ですか、騒々しい」
なぜか、胸に大きく『てんちょー』と書かれたメイド服を纏ったランが、コンビニから出てきた。
その姿に、魔王は目を剥く。
「ら、ラン?! なぜここに!?」
「ランではありません、てんちょーです」
ラン(?)――てんちょーの登場に、店員の顔に笑顔が戻る。
「店長! 聞いて下さい、先ほd――」
「黙れ、私は店長ではなく、てんちょーです」
――ブスッ!
店員の額に、美少女フィギュアがブッ刺さった。
「んぎゃあぁぁぁぁ!!」
店員は額を押さえてのたうち回る。
魔王はてんちょーを指差す。
「お前、やっぱりランだろ!?」
「ランではありません、てんちょーです。あと、気安く指差すな」
――ボキッ
てんちょーは、自身を差している魔王の人差し指を掴むと、そのまま片手であらぬ方向に折った。
「んぎゃおぉぉぉう?!」
「うるさい」
――ガスッ
所長が魔王の脛を蹴った。
………………ああ、痛い。
「いぎゃあぁぁぁぁ!!」
魔王は涙を流しながら脛を押さえ、悶絶した。
※色々収拾が着かなくなってきたので、少々お待ちください※
「で、つまりは貴方は面接。貴女はコンビニに立ち寄ろうとしただけ……という事ですね?」
あの後、てんちょーによってコンビニの応接室に連れて行かれた魔王と所長は、てんちょーの問いに頷く。
それを見ると、てんちょーは溜め息を漏らす。
「まあ、こちらとしてもアルバイトは必要だったので無下には断れませんし…」
そう言うと、てんちょーは応接室の端に並べられた机を中央に移動させ、向かい合わせに配置する。
「では早速、『てんちょーの、ドキドキ! 女だらけ(魔王のおまけ付き)のウフフ面接〜♪(棒読み)』始めましょうか」
「なにその企画名?!」
「では最初の質問です」
「ツッコミスルーされた!」
魔王を華麗に無視し、てんちょーは面接の質疑応答を始める。
「では、まずはお名前を」
「魔王です」
「なるほど、ゴキブリですか。とてもユニークなお名前ですねWWW」
「魔王って言ったよな、俺!?」
「ですから……魔王でしょう?」
「読み方おかしい!」
「確かに、“魔王”と書いて『ゴキブリ』とは読みませんね」
沈黙を貫いていた所長が、てんちょーに反論した。
「所長!」
魔王は初めて味方になってくれた所長に対して、涙を浮かべる。
「正しくは、“魔王”と書いて『ミジンコ』と読みます」
「俺の感動の涙を返せ!」
所長が『キラーン』と目を細めて言うと、てんちょーは地に伏した。
「た……確かに…」
「確かにじゃねえよ!!」
魔王がプンスカプンスカ怒ると、所長とてんちょーは冷たい視線を魔王に送る。
『喚くな、動物プランクトン』
「なんかもう息ぴったりだな、お前ら! 事前に打ち合わせでもしたのか!?」
『さて、では次の質問です』
「頼むからスルーはやめて!?」
魔王は涙目で訴えるが、所長とてんちょーは華麗に無視した。
「では、次は料理の食べ方を見せて下さい」
「華麗に無視かよ……。で、なんで食べ方なんて見せなきゃならないんだ?」
「フッ、こんな事も分からないとは……」
てんちょーはニヒルな笑みを浮かべてクククと笑う。
「なんか一々腹立つなぁ。知り合いに似ている分余計に」
「いいですか、ミジンコ。食べ方とは、その人物の性格が一番出るんです。それを見れば、どんな環境で暮らしてきたというのも、手に取るように分かります」
「フーン、なるほどな。………あと、ミジンコって呼ぶな」
「では、早速用意しますね、ミジンコ」
「聞けよ」
てんちょーがパンッと手を叩くと、店員がささっと料理をテーブルの上に置き、魔王の元に届けた。
料理は、ぶぶ漬だった。
「帰れと?! 帰れって言いたいのか!?」
「いいえ、滅相もない………………………………………………………………………………………………はあー」
「なんだその溜め息はっ!!」
「なんか、毎食カレーを食べてる気分なんですよ、今」
「つまり飽きたって事かよ!!」
「……なんか、ツッコミをただ大きい声で叫んでればオーケーみたいに勘違いしているところが……ねぇ?」
「別にツッコミ入れてるわけじゃないから! これはただの抗議だから!」
すると、てんちょーは魔王の顔を殴り飛ばした。
「へびょっ?!」
魔王は後方に吹っ飛び、暫く目を回していると、勢いよく立ち上がり、てんちょーを睨んだ。
「いきなり何しやがる!?」
「この部屋狭いから音が響くんで、あんまり騒がないでくれませんか? …………落としますよ?」
「落とすって、つまり不合格って事か? 職権乱用だぁ!」
「いや、地獄に落とすって意味ですけど?」
「もっとひどかった!」
「お黙りなさい」
――ブスッ
魔王の両目に、美少女フィギュアが突き刺さった。
「んぎゃあぁぁぁ! 目が……目がぁぁぁぁ!!」
てんちょーは一向に黙る気配の無い魔王に制裁の鉄拳を降り下ろす。
「黙らない」
――ドカッ
「黙ります」
――バコッ
「黙る」
――ガンッ
「黙るとき」
――バンッ
「黙れば」
――ダンッ
「黙れ」
――ドッガァァァン!!
「四段活用ぉぉぉぉ!!」
てんちょーは魔王の腹の上に馬乗りになって、マウントポジションを取って殴り続ける。
「きゃー、魔王のライフはもうゼロよ(笑)」
「てめえ、所長! 笑ってないで助けろ!! いや助けて!!!」
――ボカボカ、ドスッ
魔王は必死に両腕で頭を全力ガードしながら、所長に助けを求める。
「はあ、仕方ありませんね」
所長は懐から風呂敷を取り出して、中の服に一瞬で着替えた。
「立て、立つんだジョン!!」
某ボクシングコーチのオッサンの姿に。
「いや応援じゃなくて助けろよ! あと、マウントポジション取られてるんだから立てないから普通!! あとジョンって誰?!」
「バカ野郎、諦めんな! そんなんで日本一になれっか!!」
「なる必要ないから! あとジョンって誰なの!?」
「くぅ、ジョン。情けねぇ、情けねぇぞ…………………………という事でてんちょー。ここは一発、根性が曲がった魔王の粛清を頼みますです」
「イエッサー」
てんちょーは某ターミなネーターの如く、ウィーンという効果音を鳴らしながら、狙いを魔王に定めて、腕をドリルの如く超高速スピンさせる。
――ブオォォォン!!
超高速スピンによって、周りの空気に歪みが生じた。
「ちょっっっと待ったぁ! 話し合おう、話せば分かる、俺達に必要なのはコミュニケーションだ!!」
「だからコミュニケーションしているじゃないですか。………拳の」
「拳じゃなくて会話! 口、マウス! 口のコミュニケーションだから!!」
「なんか響きが卑猥ですね」
「お前とはそんな卑猥なことしないから!」
すると、てんちょーは「ムッ」と眉を寄せる。
「貴方のような下賤なプランクトンに言われると、ちょっとムカつきますね」
「ちょっと待って! 頼むからそのドリルアームをこっちに向けないで!!」
魔王はなんとかてんちょーを宥めようとする。
「所長、本当に助けて! 俺、これ死んじゃうから!」
「……貴方、魔王なんですよね? だったら大丈夫でしょう。古今東西、魔王を倒せる唯一の存在は、勇者だけなんですから」
「いやそんな事ない! 俺、最弱魔王だから! なんちゃって魔王だから! だから人間の手でも簡単に死んじゃうの!! お願い助けてぇぇぇ!!」
「……つまり、所長である私でも倒せると?」
「加勢しないで!!」
「仕方ありませんねぇ」
所長は溜め息を吐くと、魔王を指差した後、てんちょーと視線を合わせながら右手の親指を首の前に持ってきて掻き切るかのように左から右に動かした。
「殺れ」
「イエッサー」
「なにゴーサイン出してんの?!」
「いや、現世のしがらみから助けてあげようかと」
「そういう意味で助けてって言ったわけじゃないから!」
「愛してますよ」
「えっ…………? ……えっ?!」
「………………………………………おえっぷ」
「吐くなぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
色々カオスになってきたので、一旦中断。
皆、とりあえずクールになるんだ。
◇◇◇◇◇
「さて、貴方の採用結果ですが」
「途中から面接じゃなかったような気がするんだが……」
「黙らっしゃい」
てんちょーは話の腰を折った魔王の両目に美少女フィギュアをぶっ指した。
「うぎゃんぎゃ! うぎゃんぎゃ!!」
「まあ、とりあえずは合格としておきましょう。良いストレス発散道具が手に入りました」
「いかんじゃ! いかんじゃ!!」
こうして、魔王の就職――じゃなかった、アルバイトが決まった。
――・魔王城・書斎・――
魔王城の書斎にて宰相のルーシーが書類の整理をしていると、ふと手を止めた。
「これ、あのアホメイドの履歴書か……」
履歴書にはカメラに向かって無表情でピースサインを送っているランの写真が右斜め上に貼られており、ランが魔王城に勤める前の情報が事細かく書いてあった。
「敵を倒すにはまずは敵を知るべしっていうし、ちょっと息抜き程度に読んでみるか」
そう言って視線を来歴のところに移動させて数秒後、ルーシーは表情が固まった。
ルーシーを固めた要因は、ランの履歴書の内の【家族関係】のところだった。
【家族関係】のところにはこう書いてある。
【父が一人、母が一人、双子の姉が一人】
「あいつと同じ顔がもう一人いるなんて………想像しただけで悪寒が………」
ルーシーは、震え上がっていた。
◇◇◇◇◇
【とあるメイドの通話記録】
「はい、もしもし」
〈もしもし、ランですか?〉
「その声、リン姉ですか?」
〈質問に質問を返さないで下さい〉
「すみません。……で、一体何の用です?」
〈いえ、ちょっと互いに近況報告をと思いまして〉
「近況報告ですか? こっちはなんら変わりませんよ。朝起きて、遊んだり遊んだりして、夜寝てます」
〈オーケー理解しました。とりあえず貴女には社会の波に一度揉まれる事をオススメします〉
「全力で遠慮します。それより、リン姉の方はどうなんですか?」
〈アルバイトが増えました〉
「それは良かったですね」
〈ええ、良いストレス発散道具になる事を期待しています〉
「そうですか。では、もう切りますね」
〈相変わらず淡白ですね。折角の姉との会話だというのに〉
「リン姉には言われたくないです」
〈ブツッ〉
――ツーツー
突然切られた電話を見ながら、ランは相変わらずの無表情で呟いた。
「先に切りやがりますか、リン姉」
「ただいまぁ〜……」
すると、魔王が帰ってきた。
「魔王様、お勤めご苦労様でした。お風呂にしますか? 御飯にしますか? そ・れ・と・も………………………………山田さん?」
「誰っ?!」
今日も魔王城は、平和そのものだった。
次回は勇者サイドの話