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勇者に倒された魔王の決意

今回は、魔界の宰相『ルーシー』の苦労話

 薄暗い魔界にそびえ立つ魔王城。

 今日も、いつもと変わらず賑やかである。




「全く、貴女は一体何を考えているのかしらっ?!」

「何をそんなに怒っているのですか、宰相様?」


 ランに向かって怒鳴っている女性は、この魔界の宰相。

 種族は闇エルフで、肌は褐色でマゼンタの髪を腰まで伸ばしたセミロング、顔にはザマス口調の教育ママが着けてそうな三角眼鏡をかけており、体型は見事なボンッキュッボン、顔も綺麗だが、眉間に刻み込まれたような皺が半減させている。


 宰相は苛々しているのか、右足で貧乏揺すりを始める。


「怒りたくもなるわよ! 貴女の仕事は魔王様の付き人兼更生者でしょうが!! いつまで経っても魔王様はニートで、私の仕事も増すばかり!! ほら、これを見なさい!」

「麗しいマゼンタの髪に紛れる白の束……ウィッグですか?」

「モノホンの白髪よ!」

「まあ、もう歳ですものね」

「まだ二十よ! こ・れ・は、あんた達無能が余計な騒ぎを起こして私の仕事を増やしたせいよ!!」

「仕事を増やした…とは?」

「光熱費! 城の修理代! 圧倒的な人員不足! 各方面の重役会議! その他etc!!」

「お仕事ご苦労様です」

「なんで魔王様の仕事まで私がやる羽目になるのよ!!」

「宰相様なら成し遂げられると、このラン、自負しております」

「やかましいわ! 大体、あんたがさっさと魔王様を更正させれば苦労しないのよ、何度言えば分かるの!! それだけじゃないわ、魔王様のオタク趣味に、年間いくらかかってると思ってるの!? 非生産的ニートはいらないのよ!!」


 宰相の物言いに、ランは眉をピクッと動かして、宰相に反論する。


「お言葉ですが……ニートではなく、自宅警備員です」

「どっちにしろいらないわよ! この城には警備用のスライム兵がいっぱい居るんだから!!」

「じゃあ、これからは宰相様がこの魔界を統治する新しい魔王ということで。これなら問題解決でございましょう(ドヤッ!」

「そのドヤ顔ウザッ! そして全く問題解決してない!! 結局私が魔王様の仕事をするだけじゃない!!」

「……好き嫌いは、駄目ですよ?」

「そういう次元の話じゃないから!」


 フーフーと息を切らす宰相に、ランは肩を竦める。


「これしきの仕事もこなせないとは、嘆かわしい限りです」

「メイドは気楽で良いわよね! この部屋の惨状をよーく目に焼き付けやがれ!!」


 ランは辺りを見渡す。

 因みにラン達が居るのは宰相の仕事部屋である書斎であり、作業事務用の机には大量の案件が書かれた書類の山、壁には1ヶ月先のスケジュールが書かれた紙が大量に貼られていた。


 そんな部屋を見て、ランは一言こう呟く。


「片付けられない女の部屋ですね……フッ」

「なに鼻で笑ってんの?! あんたが元凶だよ!?」

「燃えるゴミは火曜日ですからね、今度から気をつけるように」

「あ、はい、分かりました―――って、これは燃やしちゃ駄目! 重要な書類なんだから!!」

「あれも大切これも大切にしているから、宰相様の部屋はいつまでもこの有り様なんですよ? 捌かないとどんどん溜まる一方です」


 ランの言葉に、宰相は頭を押さえて呻く。

 ゴールが見えない、と。

 宰相は額に汗を流しながら、ランに視線を向ける。


「私、貴女はもう少し物分かりの良いメイドだと思っていたのだけれど……」

「当たり前です。このめんどくささは、宰相様にしか発動しませんので」

「ちくしょう!」

「宰相様……申し訳ないのですが、さっさと責務に戻っていただけますか?」

「言われなくても戻るわよ!!」


 宰相は涙を流しながら、書類の事項を読みながら判子を押していく。


「では、頑張って下さいね。宰相のルーシー様」

「気安く名前を言うな! 話しかけるな! 自室に帰れ! バーカバーカ!!」


 宰相――ルーシーの言葉にランは溜め息を溢し、最後の用件を言う。


「では最後に伝言を1つ。宰相様の婚約者であるナルガ様から『婚約破棄をしたいので、今夜は例の場所で話し合いたい』との事です」

「……え、………はっ?!」

「ではごきげんよう」

「ちょ、ちょっと! それは一体どういう―――」

「ごきげんよう」

「待ちなさい!!」


 ルーシーの声を振り切り、ランは書斎を後にした。



「嘘でしょおぉぉぉぉぉ!!!」


 ルーシーの叫び声が、城内に響いた。





 所変わって魔王の自室。



「……という事があったので、今日は少し魔王様のへやに来るのに遅くなってしまいました」

「…………」


 魔王はただ、目元を押さえて涙を流していた。

 そして、小さく呟く。


「職……探しに行くよ…」

「おや、魔王様が進んで外の世界に足を運ぶとは……。これも私のおかげですね」

「そうだね………ホント、ごめんよ……宰相」


 魔王は、初任給をもらったら真っ先に宰相に何かご馳走をしようと、決意した。






「わぁ、ラン殿の思惑通りだねぇ」

「使えるモノはなんでも使う人だからねぇ」

「魔王様を更正させるためなら、他人の幸せだってぶち壊すしねぇ」

「……まあ、ラン殿は前々から宰相様を嫌ってたし、多分宰相様のあの胸が目障りなんだろうねぇ」




「何か言いましたか?」


『ひぃ!?』



 噂話は、程々にね。

 見た目ロリータな雑魚スライム兵との約束だよ♪

ルーシーさんの報われる日は来るのだろうか?!


……………来ないんだろうなぁ

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