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勇者に倒された魔王の苦難

―魔王城―



「クククッ……魔王。ついに見つけたわ……」


 薄暗い魔王城の大広間。

 散らばったガラスの破片を踏みながら、窓を突き破って襲来した人物が魔王とランに歩み寄る。


「魔王様……」

「ああ……」


 ランと魔王は、互いに目を合わせて息を飲む。

 突如、大広間を突き破って襲来した刺客。

 魔王は震える声で刺客を恐る恐る指差す。


「………欲張りすぎじゃね?」


 襲来した刺客は、赤い巫女服を着用し、首から十字架と数珠をかけ、右手に聖母マリア像、左手に仏像を持った少女だった。

 まさに宗教がバラバラすぎて統一感が一切なく、魔王の言う通り、欲張りと言える。

 因みに、小柄な微乳でツインテールだ。


「さあ、魔王。神教、仏教、キリスト教をマスターしたあたしが相手だ!!」


 ランは感情の籠らない瞳で少女を見て、感情の籠らない声で呟いた。


「バカが天から召されました」





―・一時間前・―



 一時間ほど前の事である。

 魔王は魔王城にて、相変わらずゲームに明け暮れていた。


「魔王様」


 魔王の部屋、ランの声が木霊する。


「今日は仕事ではないのですか?」


 魔王はチラッと後ろを見て、携帯ゲーム機『DSP』に視線を戻した。


「今日、バイト休み。シフト、無い」


 その言葉に、ランは深い溜め息を漏らした。


「前から言おうと思ってましたが、私は“仕事を探してこい”とは言いましたが、“バイトを探してこい”とは一言も申していないのですが?」

「バイトも立派な仕事じゃん。いいじゃん、ちゃんと給料は国家予算に全額振り込んでるし」

「あんな微々たる粗末な給料が国家予算の足しになるとでも?」

「無いよりはマシじゃね?」

「魔王様」


 ランは魔王を睨む。


「バイト先のコンビニのてんちょーがリン姉だったからこそ、私はあまり強く何も言いませんでした。それは信頼できる人に魔王様を預けた方が安全だと判断したからです」

「俺はお前のペットか」

「似たようなものです」

「いや俺はお前の雇い主なんだが?!」

「私は魔王様から給料を貰った覚えはありません。私に給料を渡すのはいつも宰相のルーシー様です」

「そうだとしても書類上は俺が雇い主だ!」

「自身の権力を振りかざすその行為……これが俗に言う“パワハラ”ですか……」

「……ごめんなさい、訴えないで下さい」


 魔王は大人しく土下座した。


「………」


 ランは土下座している魔王の隣に置かれているDSPに視線を移し、手に取った。


「……これはこれは、最近の携帯ゲーム機はとても優秀な鈍器なのですね」

「え?」


 ランはそのまま、DSPを勢いよく地面に突き刺した。


「………」


 魔王は目を丸くして、地面に突き刺さったDSPを見る。

 ディスプレイにはヒビが発生し、中のデータも無事ではなさそうだ。


 ランは、唖然としている魔王に言う。


「魔王様。ここでご自分がどのような認識を持たれているのか……考えた事はありますか?」

「………」


 魔王は一言も喋らない……いや、喋れない。

 もし一言でも喋れば……命は無い。

 自分の直感がそう告げる。

 今日のランは、凄く機嫌が悪いようだ。

 何かあったのだろうか?


「……あの、ランさん? 一体どうしてそんなにご立腹なのでしょうか?」

「部下が無能な雇い主に怒りを覚えるのはそんなに変ですか?」

「……いえ、滅相もないです。ただ、今日はいつも以上に怒っているなぁ…と……」

「いつも怒らせているのは誰ですか?」

「……俺…ですね」

「分かりきった質問はしないで下さい」

「はい……」


 魔王は正座して、ランの説教を大人しく聞いた。





 この事件の真相を、見た目ロリータな雑魚スライム兵が何気なく話していた。


「そういえば最近のラン様、なんだか元気がありませんですね」

「きっと魔王様が自分の姉のリン様が経営するコンビニのバイトになったから……ちょっとだけ嫉妬したんじゃない?」

「ああ…そういえば魔王様……リン様に気に入られてたもんね、うんうん」



「誰が手を休めて口を動かせと言いましたか?」


「「ら、ラン様?! ごめんなさぁぁぁぁい!!」」




 ってな事があった後、魔王は魔王城の大広間に移動した。

 ランにみっちり説教され、少しだけ外の空気を吸いに来たのだ。

 大広間にぽつんと置かれた玉座を見ると、勇者パーティがやってきた日の事を思い出す。


「あれからもう何ヵ月経ったか……なんかあっという間だったな」


 本当にあの日以降、魔王の生活はガランと変わった。

 自分の魔王としての能力の低さに気づかされてハローワークに通って所長と出会い、コンビニのバイトでてんちょーと出会って勇者と再会した。

 今まで城の中だけの生活が、城の外を超えて人間界にまで広がった。


「………。ちょっと待て」


 そこまで考え、魔王はその場のしんみりした空気に待ったをかけた。


「なにこの最終回みたいな空気。明らか連載打ちきりみたいな匂いがするぞ。“俺の新生活はここからが本番だ!”みたいな」


 そうツッコミした瞬間、城中に警報が鳴り響いた。


「魔王様!」


 ランが大広間に駆けてきた。

 珍しく、声はかなり慌てている。


「城内に侵入者です!」

「なにっ?!」

「今現在、スライム兵達で侵入者を排除しています。ルーシー様とミャオ様も、現場で指揮をとっています!!」

「ええっ?! 急展開すぎだろ! 伏線すら無かったじゃないか!!」

「とにかく! 魔王様もこちらへ!!」

「あ、ああ……一応緊急事態だもんな。俺はどうすればいい?」

「部屋に戻ってネトゲでもしてて下さい!!」

「そんな事だろうと思ったよ!!」


 魔王が大広間を去ろうとした瞬間、


――ドンガラガッシャーン!!


 謎の人物が窓を突き破って大広間に現れた。


「クククッ……魔王。ついに見つけたわ……」


 こうして話は、冒頭に戻る。



「魔王様、次回に続くようです」

「……マジ?」


 次回、侵入者である少女の正体と目的が明らかとなる!!


「無駄に煽ってるな」


 ……やかましい。

次回は少しバトルモノになりそうです。

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