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勇者に倒された魔王の仕事

※同性愛の表現が一部あります。

 苦手な人は、回れ右をよろしくです

――・コンビニ・――



――ピヨンピヨン


 客の来店を告げる電子音が響いた。


「いらっしゃいませー」


 本日、魔王はコンビニのレジを任されていた。


「……それにしてもあの店長――じゃなかったてんちょー、いきなり俺にレジ係を任せるのかよ。普通、裏方とかから始まるもんなんじゃないの? アルバイトって」


 そう言いながらも、魔王はきちんと自身の責務を全うする。


「はい、758円になります」


 バーコードを読み込ませ、客から料金を頂いて会計を精算し、商品を提供する。

 実に簡単なミッションだ。


 故に、


「はあ、暇だなぁ………」


 既に魔王は飽きていた。

 コンビニは所詮コンビニ。

 お客が来る割合は一時間に一人、来たとしても漫画雑誌の立ち読みなどだ。

 レジの仕事は、極めて暇だ。

 むしろ備品運搬などで体力を使っている裏方の方がハードと言える。


「客が来ないとレジは暇だなぁ。こんな事なら、DSP持ってくれば良かった」


 DSPとは、『Double Screen Portable』の略であり、今話題の携帯ゲーム機だ。


 そこでふと、魔王はレジの中のお金に目が行った。

 辺りを確認して誰もいない事を確認。


「少しくらい……いいよな?」


 そのままレジを開けると………


『ムダンデトッタラ、コロシテヤルッッッッ!!!』


 なにやら、一つ目の赤黒いモンスターが住んでいました。


「……あ、すみません。失礼します」


 魔王は速やかにレジを閉じ、壁に額を付ける。


「………なにあれ? レジの守護神?」


 もう一度、恐る恐る開けてみると………


『アハーン、ちょっとだけよ〜ん♪』

――ヌギヌギ


 なにやら、小さなオカマのオッサンのストリップショーが開催されていた。


「ふんぬっ!」


――ガンッ!


 魔王は両手で勢いよく閉めた。


「なんだぁぁぁぁ今のはぁぁぁぁ!!!」


 再び、壁に額を付ける。


「どこが“ちょっと”だ! 脱いでる時点で直球だろうが!!」


 魔王は思いを吐露し、深呼吸をしてなんとか気持ちを落ち着かせる。


「きっと、疲れてるんだな俺。うんうん、今の幻覚。三度目の正直って言葉もあるし」


 再びレジに手をかけた。


「ワンモア、チャレーンジ!」


 覚悟を決めて勢いよく開けると……


『やあ、ようこそジョンズブートキャンプへ! 僕はキャンプリーダーのジョン・山田だ、よろしくぅ! さあ、君も僕と一緒に汗を流し、共に黄金の筋肉を手に入れようじゃないか!!』


 二度ある事は三度ある、黒人男性が「えっほ! えっほ!」とエクササイズを執り行っていた。


「意味分からんわぁぁぁぁ! あと、ジョンも山田もお前かぁぁぁぁ!!!」


 魔王は全力で、勢いよく閉めた。

 ※『ジョン』と『山田』に関しては、『勇者に倒された魔王の面接』をご参照下さい。



――ピヨンピヨン



 自動ドアが開いた時に鳴る効果音。

 客が来た事を知らせてくれる。


「はあ、はあ……いらっしゃいませー」


 魔王が息切れしながら言うと、


「来店した客にいきなり発情とは……。貴方はまともにレジ係もできないんですか? この万年発情童貞プランクトンが」


 来客は所長だった。


「発情してねーし、息切れてるだけだし! どんだけ俺を乏せば気が済むんだ詐欺師!!」

「詐欺師ではなく所長です。私はいつでもどこでも、貴方を乏し続けますが」


――キラーン


「なにカッコつけてやがる!」


 魔王の言葉に、所長は眉を寄せる。


「……ところで、貴方は誰ですか?」

「うおーい! ここに来て忘れるか普通?!」

「ああ、この前私の家に来て『グヘへお嬢ちゃん、ちょっと…ちょっとでいいんだ。オジサンにパンツを渡してもらえないかな?』と言ってきた人でしたね」

「誰だ!? 俺じゃねえよ!!」

「まったく、女性用の下着の事はパンツじゃなくてパンティーって言うんですよ?」

「激しくどうでもいいわぁ!」

「今度からは気をつけるように」

「あ、はい分かり――ってたまるか! つーか俺じゃねえし!!」

「あ、私これから用事あるんで、じゃ!」


 そう言って、所長はすぐさま雑誌コーナーに直進し、お目当ての雑誌を手に取って開いた。


「って立ち読みかよ!」

「今日は漫画雑誌『バラ色ランド』の発売日なのです」

「あーそーですか。それより、出勤しなくていいのか、社会人」

「ご心配なく、ニート」


 所長はそう言うと、雑誌を読み始めた。

 再び訪れる沈黙の空間。


「なあ」


 それを先に破ったのは、魔王だった。


「その漫画雑誌、面白いの?」

「個人的には、面白いです」

「ふーん……」

「…………読みますか?」


 所長は魔王にバラ色ランドを差し出してくる。

 少しだけ、目が輝いているようにも見える。

 気のせいだと思いたい。


「じゃあ、お言葉に甘えて」


 魔王はバラ色ランドを手に取って、適当にページを開いた。



『良太、あの男は誰だよ!!』

『ち、違うんだ五木! あいつと俺はただの幼馴染みで――』

『うるさい! 調教してやる……僕以外の事なんて考えられないように調教してやる!!』

『アッ――――!!』




――パタンッ



 魔王はバラ色ランドを閉じ、晴れやかな顔でバラ色ランドを床に叩きつけた。


「なんじゃこりゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」

「バラ色ランド……略して『BL』ですが?」

「この女腐ってやがる!」

「失礼ですね。まるで私がゾンビみたいじゃないですか」

「うっせえ! 目が潰れかけたじゃねえか!!」

「よかったですね」

「よくねーよ!!」


 所長はそっぽを向いて「はあー」と溜め息を吐く。


「愛の形なんて、世の中にはいっぱいあるんですよ? それをくどくどと……第一、貴方が自分の意思でページを開いたんですから、そこまで怒るのはお門違いです」

「ぐっ……反論できない…」

「という事でBLに目覚めましょう」

「嫌だよ!」

「勇×魔がいいですか? それとも魔×勇がいいですか?」

「なにその組み合わせ! 語順変えただけで何が違うの?!」

「攻めか受けかの違いですが。やっぱり魔王との絡みは勇者でないとと思いまして」

「尚の事嫌だよ! あと、俺と勇者はそんな荒んだ関係じゃないから!!」

「ひどい言い様ですね。食わず嫌いは、よくないですよ」

「食いたくねえよ! 口に入れる事すら汚らわしいわっ!!」

「ムッ。そこまで言われると流石に傷つきますね」


 所長は少し顔をしかめて、ぶつぶつ呟くと、やがて何か妙案を思い浮かんだのか、とびきりの笑顔で魔王に言う。


「BLに目覚めれば、女の子にモテモテですよ!」

「嘘つけ!」


 まるで宗教の勧誘である。


「な、何をもって嘘だと断定するのですか?!」

「いや、普通に嘘だろ! なんでBLに目覚めたら女子にモテるんだよ!」

「そんなの、女の子は皆BL男子が好きだからに決まっているじゃないですか!」

「皆なわけねえだろ! つーかお前ら腐女子が好きなのはBL男子じゃなくてBL男子同士の絡みだろうが!!」

「それは否定できません!」

「わあ、良い笑顔!!」

「それと補足を一つ。世の女子は全員が腐女子であーる!」

「んなわけあるか!!」


 すると所長は「チッ、チッ、チッ」と人差し指を左右に振る。


「これだから童貞チェリー坊やは。最近の女の子を知らないのですね」

「うっせえ!」

「この世にBLを愛さない女子はいません! 皆、すべからくBLに熱き希望を抱いています!」

「だから見栄を張るなって!」

「フンッ、そっちこそ、あまり女の子に甘い幻想を抱かない方が身のためですよ?」

「な、なにぃ……! だったら今からランに確認取ってやる!」


――ピクッ


 所長の眉が少しだけ寄った。


「どうぞ、ご自由に」


 所長の冷めた眼差しを受けながら、魔王はランに携帯から電話した。


――プルルル…プルルル……


――ピッ


 数コールの後、ランが電話に出た。


〈もしもし、アホでダメなニート魔王なら只今不在ですが?〉

「俺がそのアホでダメなニート魔王だよちくしょおぉぉぉぉぉ!!」

〈おや、魔王様ですか。どうかなさいましたか?〉

「い、いや…大した話じゃないんだが……」

〈?〉

「そ、その……ランは、その……BLって、好きか?」

〈B、L………ですか? ……………………………………………………………………………………………………………………はい、好きですよ〉

「マジで?!」

〈それがどうかしましたか?〉

「い、いや…なんでもない。仕事の邪魔をして悪かったな、それじゃあ!」

〈あ、魔王さ―――〉


――ブツッ


 魔王は一方的に電話を切った。

 それだけ、ショックが大きかった。


「どうやら、理解していただけたようですね」


 項垂れた頭上から、所長の勝ち誇った笑い声を聞こえる。


「ああ」


 魔王は頷き、どこか遠くを見る目で呟く。


「女子は皆……腐女子だぁ…」


 ハハハ、と乾いた笑い声を漏らす魔王。


「それでは、私はこれで失敬しますね」

「お、おぅ……じゃあな」


 所長は笑顔を浮かべて、コンビニを後にした。






◇◇◇◇◇



【とあるメイドの通話記録-2】



――プルルル…プルルル……


――ピッ



「もしもし、アホでダメなニート魔王なら只今不在ですが?」

〈俺がそのアホでダメなニート魔王だよちくしょおぉぉぉぉぉ!!〉

「おや、魔王様ですか。どうかなさいましたか?」

〈い、いや…大した話じゃないんだが……〉

「?」

〈そ、その……ランは、その……BLって、好きか?〉

「B、L………ですか?」

(BLって、何かしら? ……………B…び…ば…び…ぶ……L…ル…ラ…リ…………………“ぶっちぎるぜ、リミットブレイク!”の略かしら?)

「……………………………………………………………………………………………はい、好きですよ(限界を超えるのは)」

〈マジで?!〉

「それがどうかしましたか?」

〈い、いや…なんでもない。仕事の邪魔をして悪かったな、それじゃあ!〉

「あ、魔王さ―――」


――ブツッ


 通話が切れ、ランは首を傾げた。


「一体なんだったのかしら……?」






「いやぁ、久々の出番だねぇ」

「皆もう忘れてるんじゃない?」

「大丈夫! ………きっと」

「大丈夫じゃないと思うけど……」


 城の隅で、見た目ロリータなスライム兵が掃除していた。

次回、コンビニにまさかのあの人が来店?!

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