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勇者に倒された魔王の直前

部活で書いた小説です

 黒い空を埋め尽くす暗雲、止む事のない雷、吹き荒れる風。

 大地は荒れ果て、そこにはあらゆる魔物が蠢いている。

 大地を翔け、空を舞い、海を渡る。

 人の気配のしないここは、魔界。

 この世の災厄が閉じ込められた魔界にそびえ立つ黒く歪んだ城が一つあった。


―――魔王城だ。


 その魔王城の内部は、外の様子と変わりなく、暗く空間が歪み、辺り一面静まり返っていた。

 しかし、とある一室だけ、そんな魔王城に不釣り合いなほど異様なまでに騒がしい部屋があった。


――『魔王のへや』――


 そう書かれた扉。

 どうやら魔王の自室のようだ。

 もしかすると、ここで人間界を征服するための残虐な策略を練っているのかもしれない。

 試しに中を覗いてみれば――――


「よっしゃあ! これでついにトゥルーエンドだぁ!!」


―――ギャルゲーのトゥルーエンドが表示されたテレビのディスプレイに向かってガッツポーズを決める男が居た。

 さらに視野を広くしてみれば、魔王の自室はアニメグッズで埋め尽くされていた。

 ベットに置かれた抱き枕、萌えアニメのイラストがプリントされた布団、床に散らばっているゲーム機、部屋中の壁に張られたポスター、棚に飾られている大量の多種多様な美少女フィギュア、その美少女フィギュアの横に置かれた時計、etc………


 本当に魔王の自室なのかと目を疑う光景が、そこにあった。


「よーし、次は……これだな」


 男は棚から新たなパッケージのゲームカセットを取りだし、中のディスクをゲーム機に読み込ませる。

 果たして、この男は何者なのか?

 ………………………………………魔王とは、信じたくない。



「魔王様」


 すると、不意に男の背後から冷淡な女性の声が聞こえてきた。

 やはり、男はどうやら魔王であるようだ。

 ………残念すぎる。

 さて、視線を女性に向けてみれば、女性は凛とした声の割りに意外と若かった。

 齢十七といったところだろうか。

 闇のような漆黒の髪を肩まで伸ばしたセミショート、少し控えめな胸で、衣服はフリル・リボンを取り除いた限りなく動きやすさを追求したメイド服を着ていた。

 彼女の言葉はどう考えても男に向けたものであり、………男は、やはり…魔王なのだろう………認めたくないが。

 男――魔王はメイド服の少女に振り返ると、眉間に皺を寄せてまたディスプレイの方に顔を向ける。


「なんだ、リアル女子か」



 次の瞬間、男の後頭部に美少女フィギュアが突き刺さった。


「うぐぅあぁぁ?!」


 魔王は後頭部を押さえて痛みで身を捩ると、頭に刺さった美少女フィギュアを引っこ抜き、自らの手に取る。


「これは………初回限定版、メイド仕様のまりんたん?!」


 手に取った美少女フィギュアは通称『まりんたん』。

 『トロピカル王国』という萌えアニメのヒロインで、眩しい笑顔と神々しい黄金色の髪とツインテールが人気のキャラである。

 胸はデカイ。


 頭に刺さったまりんたんフィギュアに驚愕した魔王は、突き刺した張本人であろうメイド服の少女を睨む。


「テメェ! よくも俺のまりんたんを!! これ手に入れるのに十二時間もかかったんだぞ!?」

「知りません。そんな事より、魔王様」


 メイド服の少女は目を瞑り、魔王に用件を伝える。


「勇者一行が、そろそろ来ますよ」


 声音は、少しうんざりしている。

 魔王は「ったく」と言って手に取っていたまりんたんフィギュアを棚に置くと、コントローラーを手に取り、体をディスプレイに向けてメイド服の少女に返答する。


「うちの部隊で強いガーゴイル、勇者に仕向けといて」

「それはこの前仕向けた結果、あっさりと倒されました」

「じゃあ、ゴブリン部隊」

「それは一ヶ月前に」

「んじゃあ、ゾンビ兵」

「一週間前です」

「んじゃあ……ドラゴンなんてどうだ?」

「昨日倒されましたが?」

「…………」


 魔王は沈黙し、コントローラーを強く握り締める。


「因みにさ」


 魔王は汗を流しながら、メイド服の少女に問う。


「勇者って今……どこに居んの?」

「魔界のど真ん中、魔王城とは目と鼻の距離です」

「………残ってる部隊、あと何がある?」

「雑魚のスライム兵だけですが」


 魔王は溜め息を吐き、起動しかけたゲーム機の電源を切って立ち上がる。


「玉座に座るの……嫌だなぁ」


 再び溜め息を吐き、部屋を後にする。

 その後に続くように、メイド服の少女も部屋を後にした。


 魔王とメイド服の少女は薄暗い廊下を歩きながら、比較的軽いノリの会話を始める。


「なあ、ここの廊下…暗すぎない?」

「薄暗い程度です、問題ありません」

「いや、でもさ」

「魔王様は年がら年中明るい部屋に籠っているので、暗さに対する耐性が無くなったのではないですか?」

「……まあ、否定はしないよ……うん」

「魔王様、もっと魔界の王たる者としての行動をしていただきたいのですが」

「……そういえば魔王と言えばさ、なんで毎回RPGとかの魔王は皆あんな固い玉座に座って勇者を待ち受けるんだろうな?」

「威厳のためではないですか?」

「でもさあ、あれ長時間座ると尻痛くなるんだよ」

「アッ―――!!」

「そういう意味じゃねえよ!!」

「じゃあ、知りません。魔王様の尻が痛くなろうと私には一切関係ないので、どっちみち玉座には座っていただきます」


 魔王のふざけた言動に、メイド服の少女は魔王に視線を合わせる事なく、相変わらず淡々と言葉を返す。

 しかし魔王はそんなメイド服の少女の態度に慣れているのか、特に気にする事なく会話を続ける。


「勇者かぁ……やっぱ強いかな?」

「知りません」

「勇者以外のパーティーメンバーも、やっぱ強そうだよなぁ」

「勇者以外のパーティーメンバーは、中華戦士、女王様、魔法使い、ボクサー、の四名です」

「……うん、その発想は無かったよね」

「魔法使いが、やっぱり浮きますね」

「良い意味でな」


 魔王は両手を叩く。


「でもまあ、ガーゴイル、ゴブリン、ゾンビ兵にドラゴンと連戦してんだから、体力ゲージは真っ赤だよなぁ。軽く勝てるだろ、ハハハッ」


 魔王の楽観的な言葉に、メイド服の少女は溜め息を漏らす。

 彼女だけが知っている。

 勇者パーティーの面々のレベルは強敵との連戦で既にマックスとなっており、弱体化などしていない。

 さらに勇者にはMP・HPを一切消費せずに放つ事ができる必殺技があり、かなりのチート性能を誇っていた。

 反対に、魔王側の手駒は雑魚のスライム兵に加え、引きこもり生活に馴染んでしまった魔王の体力・能力など笑止。

 部下ならば、この情報は上司に伝えるべきだろう。

 だが、メイド服の少女は敢えてそれを言わない。

 全ては、魔王の自業自得なのだから。

 そこまで言う義理など無いと、メイド服の少女は思っている。

 ただ、少しばかりの情けで最低限度の助言だけは言う。


「油断のないように」


 魔王はメイド服の少女の言葉に笑い、自信満々に答える。


「俺が負けるかよ、魔王だぜ?」


 魔王の笑い声を聞きながら、メイド服の少女は本日二度目の溜め息を漏らした。


 魔王とメイド服の少女は、最終決戦の地へと向かっていた。

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