07 疑い
お昼は、ミートパイとコンソメスープだった。多分。
少なくとも味はそうだった。
作り方とかは分からないからなんとも言えないけれど、食べ物に関してはあまり心配はいらないみたいだ。
しかもかなり美味しい。
「すっごい美味しい…。ジャック天才じゃない?」
「いや、そこまで褒められると照れるよ。」
柔和な笑みを浮かべてありがとう、と言うジャックはやっぱりカッコよかった。
「しっかし…ほんと綺麗だね。どういう原理なのか全然わかんない。」
「「何が?」」
ソラリスとジャックが揃って訊き返す。
「髪だよ。目もだけど、目が蒼い人は見たことあるしなぁ。」
今はカラコンとかで変えられるしね。
でも髪は違うじゃん。
なんか違うじゃん。染めても“染めてる”感があるじゃん。
二人はそれとは違う。
鮮やかで、柔らかそうで、地毛っていうのがちゃんと分かる。
「へぇ。髪色が珍しいなんて言ったら、ナユの方がよっぽど珍しいけどね?」
ジャックの言葉にソラリスがこくこくと頷く。
「黒い髪なんて初めてみた。」
ソラリスは興味深そうに見つめてくる。ちょ、みられんの恥ずかしいやめて。
「黒い眼も初めて見る…。」
今度はジャックが正面から見つめてくる。横から前から見られてたじたじですよ、わたしゃあ。
「ひゃあっ!?」
何をするか!
いきなり髪を分けて私の首元を見るソラリス。
「【一角獣】じゃない…。」
「ちょ…。」
次は右腕の袖をまくられる。え、何なに?!
ジャックに目を向けると、真剣な目でその様子を見ている。え…ええぇ…?
「【紅の妖狐】でもない。【青龍】でも…いったぁ!?」
いきなりスカートをめくってきやがったソラリスの頭を思いっきりはたく。
「な、何すんのおねえちゃん!」
「お前が何するかー!」
くそう…家に帰ってすぐさま脱いでしまったジャージが恋しい!
ジャックを見ると赤い顔を手で覆って目を逸らしていた。うわ…あいつぜってぇ見たろ…。
くそう、春め…!あんな中途半端なあったかさじゃなければ、スパッツにするかそのままジャージ着用でいるかどちらかにしたのに…!
「じゃあちょっと胸見してよ、おねえちゃん。」
「何でだよ!?」
「敵かどうか確認してるの!信じてるけど、でも一応!」
「えええぇ~…。」
そんな私の声は無視して、ソラリスは襟を軽く引っ張る。
「【銀狼】でもない…と。」
ソラリスちゃん、こんな性格でしたっけ…?
「【漆黒の鴉】ではないでしょう。食事してたし…。」
「うん!まぎれもない無所属!」
ソラリスはにこやかに笑うと、椅子に座り直す。
ごめんね!ってそんなにこやかにに言われましても…。私としては何をされたのか全然分かんないんですけど。
「あー…。この世界ではね、昔から戦争が続いてて。その戦争が起こってからは世界の人間たちは5つのグループというか…組織…っていうか。まぁ別れたんだ。」
ジャックは私と目を合わせないまま話す。そこまで純粋な反応を見せられると私まで恥ずかしくなってくる。
…ふうん?それで。
「それがね、国民の中でも所属がバラバラになってしまって、誰がどこの所属の者かが分からなくなってしまったんだ。」
「? つまり、同じ国の人でも敵がいる状況になってしまった、と?」
「そう。だから、見分けがつくように“印”をつけた。
【一角獣】は首の後ろに角の生えた馬が描かれた蒼い陣を。
【紅の妖狐】は右腕に九尾の化け狐が描かれた紅い陣を。
【青龍】は左の…太ももに、龍が描かれた碧の陣を。
【銀狼】は左胸に大きな狼が描かれた白銀の陣を。
【漆黒の鴉】は舌に羽を拡げた鴉が描かれた黒い陣を。
今、ソラリスはそれが無いかを確認していたんだ。」
なるほど。そういうことか。
「無所属の者はほとんどいないよ。身の危険を守ってくれる人もいないし、“狩り”で力を貸してくれる人もいないからね。
まあ、【漆黒の鴉】は無所属みたいなものだけど。」
そこはよくわからない。
と、いうか。“狩り”?嫌な響きだな。
「じゃあ二人も何か入ってるの?」
私の話しに一瞬迷ったらしいジャックは、逸らしていた瞳を私に向けた。
それからふっ、と笑って。
「疑心暗鬼になるのはよくないね。ソラリスの命の恩人を疑う訳にはいかない。」
言って、こっくり頷いた。疑われていたのか。
「僕とソラリスは【一角獣】だよ。ソラリスの首の後ろを見てごらん。」
言われて、ソラリスは髪をあげて後ろを向いた。
「うわ、本当だ。」
ソラリスの首には、小さくて丸いごちゃごちゃした蒼い絵みたいなのが書かれていた。しかし。
ユニコーン…?
小さくてよく見えないので、ユニコーンが書かれているかどうかなんてわからない。
どういう仕組みになっているのかと、陣に触れてみると。
いきなり陣が浮いて、お盆くらいの大きさに膨張した。
「え!?」
驚いていると、ジャックがいきなり立ち上がった。
「異世界の人にも…魔力はあるんだな。
魔方陣は、魔力を持っている者が触れると膨らむんだ。
魔力を持っていない者なんて聞いたことがないから、不思議ではないんだけど…。」
え。私魔力持ってんの?
膨らんだ魔方陣にはしっかりユニコーンが存在していて。
くすぐったいらしいソラリスの笑い声が響く中、私は新事実を発見してしまった。
全然現状に追いつけていない私は、馬鹿なのだろうか。
馬鹿なんだろうね。