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75 言伝

 その夜、ギーツに肩を揺さぶられて、目が覚めた。

蹲る様な形で寝ていた為に首や背中などがきしきしと痛む。

「大丈夫?」

と窺ってくるギーツに曖昧に答えて、目をこする。

ぼんやりとした頭でふらふらと起き上がると、前髪が跳ねていることに気が付いた。

ぺたぺたと髪を撫でながら押さえて、目を開くと、熱が出ているとき特有の目の痛みがあった。

「ナユ、ええっと、起こしてごめん。でも、キミの手帳が光ってて…。大切な物だと言ってたからさ。」

ギーツにしては珍しく、ソワソワしていた。

起こすかどうかかなり悩んだのだろう。


 って。ん?手帳?

私は慌ててベットの上に置きっぱなしにしていた手帳に目を向ける。

確かに、淡紫色の光が本の間から零れていた。

「え…。」


私は軋む背を伸ばして、手帳に手を伸ばす。

指先が手帳の端に触れた瞬間、手帳が勢いよく開いた。

「久方ぶりでございます、ナユ様。」

それは、聞き覚えのある。

「フォン…?」

あの小さな賢者の声だった。


「あれから色々調査しました。そこで理解したことがあるのですが、ひょっとしてもう既知の情報ですかね?貴殿の転送と寺院の因果は。」

「ああ、うん。教えてもらった。」

私は生ける歴史さんに聴いた話をして、今はラッシュバルドにいるのだということを伝えた。

「ああ、なるほど。流石と賞賛の言葉を述べましょう。あれの情報力は感嘆するほどです。」

フォンは手帳の向こうでふむ、と頷いた。

どうやら彼女は知っている仲のようだ。

「そこまで到達したならば、先は短いと予想します。ここからは、恐らく自分の力が必要かと思考していますので、何かあったら第一に自分に連絡を希望します。対応出来るようにしておきますので。」

相変わらず話し方が難解で何が言いたいのか分かり難かったが、つまり。

「それは、これから私たちに何かが起こるってこと?」

「断定は不可能です。しかし、可能性は高いと思考します。」

曖昧な…。

「何かって?」

「詳しいことは解しておりませんし、現時点で集まっている情報も今は提供出来ません。」

うむむ…。

ギーツは何か思うところがあるのか、ないのか、とろんとした目をして、無言で手帳を見つめていた。

ギーツなら、頭が良いからフォンの言いたいことをなんとなく理解していると思う。

それでも私に何かを伝える素振りがないということは、フォン同様、私はまだ知らなくていいと、そういうことなのだろう。


「自分からの連絡は、以上でございます。大体のことは知っていらっしゃるようですので。」

フォンは、淡々とした口調でそう言った。

つまり、私が味方になっているから、困ったらいつでも連絡を寄越せってこと、だよね?

「ありがとう、フォン。」

「礼など不必要ですよ。ああ、それと。」

フォンは珍しく少し迷うように間を開けて、

「ヴァシュカ・アディゼウス様から言伝を拝借しております。」

「ヴァシュカから…?」

「何度も執拗に訪ねていらっしゃったので、対応しましたら、貴殿に伝言を頼みたい、と。」

「何て?」

「『お前の情報を流している者がいる。見知った顔だからといって、すぐに信用はするな。

誰かは分からないが、お前のことを知っている者だろう。

まず疑って動け。

もちろん俺も、その隣にいる奴も疑え。

俺は味方だし、ギーツとかいったか?そいつも味方だと信じていたいが、それでも、疑うことは大事だ。

すまんな、こんな伝言で。…頑張れ。』以上です。」

フォンの、ヴァシュカの声真似が異様に似ていて少し驚いたけれど、そんなことよりも。


情報を流している者がいる?

つまり…私を裏切った人がいるということか。

いや、それも違うか。

もともと全員を完全に信じることなど出来ないのは当然だ。

数日しか付き合いがないのだから。


隠していたつもりだったけど、よく考えてみたら私のことを知っている人は結構いる。

ジャック、ソラリス、ジル、ヴァシュカだけじゃなく、フォンもそうだし、イラや村人や市場の人たち、それにドラド伯爵。

デコットたちもそうだし、ギーツの屋敷に居た人も私を認識しているわけだ。

ログダリアとセノルーンではまあまあ派手に暴れたし。

私たちの姿を見たことある人は沢山いるだろう。

その中で、私たちの行方を追っていた人がいてもおかしくない。

そういう人が私たちが移動したという情報を共有するために流していた、と言われても、まあ、仕方ないかな、と思える。

でも恐らく。

そういうことじゃあ、ないのだろう。

ヴァシュカが、わざわざフォンに頼み込んでまで寄越した伝言だ。

そういう事務的な情報漏洩、って意味じゃなく。

私とそこそこ関係のある人が意図的に、ってことなのだろう。

じゃあ誰が?とは考えない。

考えない方が良いだろう。

さっきも言ったように、私たちは数日の付き合いしかないのだ。

もともと100パーセント信じている人などいないし、疑えとは言われても、1から全て疑うのも無理だ。

じゃあ、今はそのことについては考えないでいよう。

裏切られていたとしても、仕方が無い。

そう思うことにしよう。


痛くない。

痛くない。

これが、本来の姿。

味方がいることがすごいこと。

恵まれている。

私より先に来た三人は、きっと私より酷い境遇に合ってた。

それなら、私は幸せな方。

でも。

でもやっぱり。

ジャックやソラリスやジル、ヴァシュカ、ギーツが私の味方でなくなることはないと、心のどこかで期待していた。


その期待も、結局報われないのだけども。


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