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69 移動


 シルバに風の魔法で支えてもらいながら、上空で素早く着替える。

ドレスは脱ぎ方がよく分からなかったので、散らかすように強引に脱いでしまった。

ごめんよ、ヴァシュカ。

そしてそれを丸めてギーツが用意してくれた布袋に乱雑に入れて、その布袋に入っていた元の服に着替える。

帽子を被って髪の毛が見えないことを念入りに確認してから、シルバにしがみついて宿へと向かった。


 宿に辿り着くと、人懐こそうな宿屋のおばちゃんが「おかえりなさい」と微笑んできたので、軽く会釈を返しながらギーツの背に隠れるようにして部屋に戻った。

部屋の窓を開けて上空で待機してもらったシルバを招きいれると、すぐに窓とカーテンを閉める。

部屋の扉の鍵がしっかりかかっていることを確認してから帽子を脱ぎ捨てる。

整えてもらった髪を軽くほぐしながら、ベットに腰を下ろした。

ギーツもその隣に座る。

足元で丸まるシルバを人撫でしてから、ベットに背中から倒れる。


 今回は結構収穫があったんじゃなかろうか。

危険を犯してまで行った甲斐があった。

私はポケットから手帳を取り出して、今日得た情報を記憶する。

だけど、スィーアに聴いた情報は何度紙に書いても文字が出てこなかった。

「もしかして…」

スィーアがかけたまじないの所為だろうか。

私は考えながら、自分だけが分かる内容にして書き直すことにした。


 「どうだった?」

それまで黙っていたギーツが、私が手帳を閉じるのを認めると尋ねてきた。

「うん、上々。」

足を振り上げて、振り下ろす反動で上半身を勢いよく起こす。

「次は緑の国に行く。」

「ラッシュバルド?そこに何かヒントがありそうなんだ?」

「うん。       、」

私は口を動かして、声が出ないことに気付いた。

ふむ…。言えることと、言えないこと。

「ああ、まじないをかけられてるんだね。いいよ、言わなくて。」

ギーツは察したように苦笑して私の髪を撫でる。

「ボクはついて行くだけだから。」

何をしに行くのかは言わなくてもいいのだと、ギーツは目でそう言った。

私は何も言えないまじないがもどかしくなった。

ギーツはお疲れ様、と微笑んで私の頭をぽすぽす優しく叩いた。


 電気を消して、カーテンの隙間から覗く月明かりだけが唯一の灯りになった。

シルバは夜行性なので、眠ることはせずに窓から散歩にでて行ってしまった。

私たちはシルバが出て行ったあとで、用心の為に窓に鍵をかけた。

シルバのことだから大丈夫だろう。

そして二人でベットに沈み、眠りについた。



   -十五日目終了-



 次の日の朝。シルバの戻りを待って、私たちはヴァシュカの下へ向かった。

森の中のヴァシュカの家には誰もいなかった。

ヴァシュカも多忙な人だから仕方が無いだろう。

むしろ、今ヴァシュカは昨日私といたことによって疑われる身にある可能性があるので、余計な接触はしない方がいいんじゃないだろうか。

私は麻袋に入れたドレスをベットの上に置いた。

誰かに見つかったら大変だろうけど、こうするほかないしなぁ。

ていうか何でヴァシュカの家鍵かけないんだろう。

私は伝言か何か残そうかと考えて、字が読めないことを思いだした。


 話せるのに、変なの。

苦笑して、そのまま小屋から出る。

隣の馬小屋にロッティはいなかった。

私はドアを閉める前に、ありがとうと一言、呟いた。




 それから、ラッシュバルドに向かうために空へ上る。

「そういえば、」

私はふと思ってギーツに尋ねた。

「ギーツは【銀狼(ウルフ)】なの?」

銀の国だから、そう思ったのだけど。


 ギーツは笑って、頭を垂らした。

そしてそのまま後ろの髪を掻き上げる。

首の鱗の隙間から見えるのは、青い魔法陣だった。

「【一角獣(ユニコーン)】…?」

「そう。ちなみに、【銀狼】でもある。」

そう言うと、胸に手を当てた。

一瞬だけ風が強くなって、ポゥ…と半透明の銀色の魔法陣がギーツの胸に浮かび上がる。

「二重所属。珍しいことだけどね、疎まれやすいから。」

そう言ってギーツは微笑む。

「ボクは守られてる立場にあったから、そういう影響はあんまり考えなくて良かったんだよね。人に会うことがないんだから、疎まれる心配もない。」

「座標移動のときはどうしてるの?」

「どうもしないよ。一緒。ワープは青と銀どっちも使える。二重所属は違反じゃないけど、暗黙の了解でやっちゃダメ、ってなってる。」

ゆったりと進む空の上、ギーツの声が風にほどけて広がって行くみたい。

どこか、誇らしげにギーツは話す。

「ボクの友人がね、青に所属してるんだ。ボクは家に反抗的だったから、友人の所属している場所に憧れてね。半ば勢いで入れてしまった。ただ、二重所属っていうのは、冒涜だから…。すごい痛かったんだけどね。」

苦笑しながら、胸に当てていた手を放す。

鮮やかに輝いていた銀色の円は薄らいで消えた。

「それが、二重所属が少ないもう一つの理由。多重所属者は【漆黒の鴉(レイヴン)】に特に多いんだって。彼らはもともといた場所から、その思想に惚れて入りたがる人が多いから。あとカモフラージュのためとかね。【漆黒の鴉】ってだけで警戒の対象になるわけだから。」


 私たちは途中で何度か地面に降りて、休憩をはさんだ。

ギーツはもともと体が強くないことは確からしく、長い間は飛べないらしい。

「じゃあ今度は私が走るよ。」

渋るギーツを説得して、空と地上で交互に進んだ。

シルバは流石、息ひとつ乱さずに涼しい顔でついて来た。


 セノルーンから反対側に位置するラッシュバルドは、なかなか距離があった。

ライトフェザーにはライトフェザーの住人しか入れないらしく、上空を渡れば天使が追撃に来るらしい。

なかなか厳しい場所なのだという。

なので、ログダリアを経由してラッシュバルドに向かうことになった。

私たちは上空での移動は肉眼で捕らえきれないほどの上空を渡り、地上での移動は人の少ない場所を高速で走り抜けた。

自分でも分かるほどに素早く、スムーズに移動できたのだけど、それでも今日だけではログダリアの中ほどまで行くので精一杯だった。


 日が落ちて座標移動が始まると現在地がよく分からなくなるので、近くにあった人気のない路地に建つ宿に入った。

続きは明日にすることになった。

動きっぱなしで意外と疲れていたらしく、宿でベッドに横になるとそのままあっという間に眠ってしまった。



   -十六日目終了-

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