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06 魔法


 ソラリスとジャックの家は、街から少しだけ離れた村だった。

小さいけれど、可愛らしい形の木造建築。


 ヴァシュカがその家の前にロッティを止まらせた途端に、蹄の音に気付いたのか、赤いドアからソラリスが勢いよく出てきた。

「おねえちゃん!いらっしゃい!」

蒼い少女は、白い頬をほんのり薄紅色に染めて微笑む。わあ可愛い。


 私はマントをずらして、ヴァシュカに手伝ってもらいながら降りる。

「クルネルを。」

ヴァシュカに言われて、私は抱えていたクルネルを丁寧にマントで包んで、そっと渡した。

ヴァシュカも同じように丁寧に受け取って、優しく抱きしめた。

「じゃあまた来る。」

ヴァシュカはそう言って微笑むと、「けっ。もっとあたしに感謝しなよ小娘が。ヒヒーン」とか思っていそうな目を向けてきたロッティと共に歩み去って行った。なんだあの馬は。


 少しさみしそうにその背中を見送っていたソラリスは、しばらくしてから、私の手をとった。

「じゃ、おねえちゃん入って!」

にっこりと微笑むソラリスに笑顔を返して、手を引かれていった。


 家の中も綺麗で、可愛い。

初めて見る暖炉に、赤い光と透けるような陽炎を揺らしている。


 「お?」

横の扉からひょっこりと、ジャックが顔を出した。

「着いたのか。疲れたんじゃない?すわりなよ。」

ジャックはにこ、と微笑んで部屋の中央にあるテーブルとおそろいの椅子を勧めてきた。

お言葉に甘えて座る。

「今昼食作ってるから、待ってて。」

そう言ってジャックは暖炉でいろいろいじくったり、扉を出て何か忙しそうにしていた。

どこか申し訳なさを感じながら、隣に座るソラリスに目を向けた。


 「おねえちゃん、服…。」

ソラリスが私を見て言う。あ、そうだった。どうしようか。

「待ってね。下手っぴだけど…わたしがやったげる。」

ソラリスはにっこりと微笑む。やる?何を。


 ソラリスは私の胸のあたりに手を当てて、何か聞き取れない程小さな声で呟いた。

すると、私の服についていた赤色や泥などの汚れが腹や背を伝って胸に集まってくる。うぞうぞと。

はっきり言ってすごい気持ち悪い。

うぞうぞ集まったやつはソラリスが手を引くとそれについて浮き上がっていく。

「おお!」

すげえ。なんだこれ!

すぅう、っと浮き上がった汚れたちは、くるくるっと丸まって小さな球形に収まった。


 「え?何、今の?」

私は、球を暖炉に投げ入れて、じゅわじゅわと音をたてて歪む炎を見ながら訊いた。

あんなものは見たことがない。

少なくともウチの人は皆できないことは確かだ。面倒臭くても洗濯機を使う。

ソラリスはきょとんとして、

「お姉ちゃんの世界にはなかったの?魔法…。」

そんなことを言ってきた。

ある訳がないでしょう…。小さい頃はそりゃ夢見ましたけど。

最近は寝てる間に放り出してしまったらしいケータイのアラームを布団から出ないでとめられないものかと考える際の手段の候補として上がったくらいだ。

夢ないとか言うな。二度寝の心地よさはあれだぞ…。うん。あれだ。良いぞ。…ああもう、国語力!


 閑話休題。

ソラリスは誇るような笑みを浮かべた。うわ、若干ムカつく。

「わたしたちはね、まほー使えるんだよう。」

へぇ…。すごいな。それは。いや、まじで。

ソラリスの話しによると、生活しやすいように工夫された魔法とか魔法具を使えるだけで、私が思い浮かべるような空を飛んだり、人の気持ちを読んだり、炎を操ったりするのは一般の人間には出来ないらしい。


 「その言い方だと、使える人もいるの?」

「うん。いっぱい魔力を持ってる人はね。普通はそんなに魔力を持ったりできないから、ほんの一部。

それに長い詠唱を覚えなきゃいけなかったり、複雑な魔方陣を作らなきゃいけなかったりするからすごくめんどくさいんだよ。

大きな魔法ほど失敗したときの代償は大きいの。

身体の一部が失くなってしまったりね。」

ソラリスは自分がモノを教えるというのが嬉しいのか楽しいのか、誇らしげな顔はそのままで話す。

しかしそんなところも可愛いと思うのだから、私は意外とロリコンなのかもしれない。あー、カミナに会いたい…。


 「身体の一部って…。」

「それでも、魔法を使いたがる人は多いんだよね。

 ……こんな世界だし。」

ソラリスは綺麗な蒼の瞳に影を落とす。

…なんとなく、分かる。つまり、クルネルが殺されたことに関係してくるのだろう。


 「でもね、詠唱も魔方陣もなしに魔法を使える人もいるんだ。わたしは王子さましか知らないけど、魔力が異常に高かったり、精霊と契約したり、魔法の高度な研究をした人とかは。」

「王子さま?」

ソラリスの話しは何がすごいのかイマイチわからないけれど、それ以上に気になるワードが。


 日本でいうと皇太子さまか?王子って。

なんか日本は王とか王子とかそういうのにあんまり馴染みないからなぁ。

「うん、王子さま!セノルーン公国の王子さまは優秀な魔法使いでもあるんだよ!かっこいいし。」

ソラリスが瞳を輝かせて語る。

可愛いなぁ。

しかし、ちっちゃい子が語るイケメンな王子って、すごい童話に出てくるようなTHE・王子って感じなのだろうか。それは見てみたいなぁ。“本物の”王子というのも興味あるし。

どうでもいいけどTHE・王子ってTHEってついてるのにあんまり映画のタイトルっぽくない。


 「あ…でも。例外はあるか…。」

その声に、私は意識をソラリスに戻す。

「天使さまと、女神さま…。」

「天使…に、女神?」

天使はさっきヴァシュカの話しの中に出てきたけど。殺戮兵器とかなんとか…。しかし、女神とは?

「天使さまと女神さまはね、〈空間転移(テレポート)〉とかが、詠唱も魔方陣もなしに使えるんだ。」

それは…すごいことなんだろうな、きっと。よくわからんけど。


 「その天使とやらは…。」

言いかけたところで、ジャックが昼食を携えてやって来た。

そこで丁度私のお腹が切ない鳴き声を上げた。そうか、気付かなかったけど意外と時間経ってるんだな。


 質問は後にするか。そう考えて、料理が置かれた机に身体を向けた。

 

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