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65 おめかし

 ヴァシュカは宣言通りすぐに戻ってきた。

「これで大丈夫か?寸法がよく分からなくてな…。」

そう言って渡されたドレスは真っ黒で、フリルの沢山ついたふわふわの可愛いドレスだった。

漫画でしか見たことがないような、立派なドレスだ。

「これ…着方分からないんだけど…。」

こんなのいきなり渡されても。


 「じゃあボクが着付けてあげようか?」

ギーツはヴァシュカに許可を取ってヴァシュカの本棚から借りた本を読みながら言った。

「あ、ほんと?」

それはとても助かる。

一人じゃ絶対着られないし。

「じゃあ悪いけど、…ヴァシュカ?」

「あ、ああ、いや。俺は外に出ているから…、終わったら呼んでくれ。」

ヴァシュカは服を脱ぎ始めようとした私から顔を逸らしてそう言い残すと家から出て行った。

紳士ですなぁ。


 ギーツにちゃっちゃとドレスを着せてもらう。

手際が良い。

前から思ってたけど、ギーツは器用。

ドレスのサイズはびっくりするくらいぴったりだった。

裾とかも丁度いい長さだ。

ギーツもそう思ったようで、「ぴったりだね」と言って笑った。

最後にギーツがドレスの皺を伸ばす。

「黒いウエディングドレスみたい。」

と、言ったら、

「ボクとの結婚式用?」

と、茶化すような口調で返された。


 「よし、おっけー。」

そう言って跪いてレースの綻びを繕っていたギーツが立ち上がった。

「うん、綺麗。元が美人だからかな。ますます惚れる。」

すっごく綺麗な笑顔で言われた。

美青年の真骨頂をまさかここで発揮されるとは。

「やめてよ…。」

照れて頬が熱くなる。

「相手がボクだったら良かったのに。」

最後にぼそっと言ったギーツの言葉は、残念ながら聞き取れなかった。


 ギーツは顎に手を当てて考え込むように私を見詰める。

額の髪の毛を掻き上げたり頬を触ったりしてくる。

至近距離でこれは恥ずかしい。

「化粧道具は持ってないなー…。ヴァシュカさーん!」

外にいるヴァシュカを呼ぶギーツ。

「何だー?」

と外から返事が返ってくる。

「化粧道具ってありますかー?」

ギーツは外にいるヴァシュカに聴こえるように声を大きくしたりするなどの気遣いは全くなく、日常会話の声の大きさで言う。

聴こえるのかな、この声量で。

「すまん、もう一度言ってくれ。」

聴こえてなかった。そりゃそうだ。

ギーツは窓に歩み寄って、もう一度化粧道具の有無を問うた。


 ヴァシュカといくつか言葉を交わして、こちらに戻ってくる。

「自分で作れと。」

「作る!?」

「そう難しいことじゃないよ。ナユは肌綺麗だし、そんなに化粧する必要ないし。」

ギーツは薬品や本がならぶ棚に歩みよると、いくつかの粉やらを取り出して何やらごそごそと用意を始めた。

少し怖いけど、何も分からないのだからギーツに任せるしかない。


 とりあえず椅子に座ってギーツを待った。

ヴァシュカが戻って来て、待ってる間再度お茶を入れてくれた。

陽が暮れるのを窓から眺めながら、のんびりとお茶を飲む。

「…あー…。」

ヴァシュカが少し気まずそうに私に視線を向けてきた。

「その、なんだ…。似合っているな。」

「…あ、うん。ありがと。」

そんな顔を背けて言われても。

どうしたんだろう。


 「できた。」

ギーツがそう言って正面にやってくる。

私の知ってる化粧品とは全く違ったけど、まあいいや。

化粧の仕方なんて全く分からないのだし、全部ギーツに任せよう。

私はギーツの指示に従って目をとじたりしていた。

「ヴァシュカさん、今日は都合上貴方に任せますけど、ナユに惚れたりしないで下さいよ。」

「「なっ…!」」

化粧を進めながらさらりと言ったギーツの言葉に私とヴァシュカは二人して動揺。

何を言い出すんだ、ギーツは。

ヴァシュカが動揺して零したお茶を拭く。

私はギーツを軽く小突いて嗜めた。

ギーツはいたずらっぽく笑って、「はっきり言っとかないと」とか言ってきた。

何だそれ。


 ギーツは私の化粧を短時間で終わらせて、次に髪の毛をいじり出した。

この人はこういうことが好きなのかもしれない。

ヘアメイクの仕事とか向いてそうだ。

髪を梳かして、少し毛先を切り揃えてくれた。

「よし、準備できた。」

「ありがとー。どう?」

「すごい可愛い。」

「あはは、ありがと。」

即答されたよ。

照れるわ。


 「それじゃあ行きますか!」

ちょっと緊張しながら、立ち上がる。 



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