61 作戦
「忍び込むか…。」
私の足と、ギーツの能力、シルバの魔法が揃っているのだから、そんなに難しいことではない気がする。
しかし、
「それはできないと思う。さっきも読んだ通り、警備がとても厳重になってる。ログダリアはお金持ちの集まる国だからね。そこにかける力はいくらでも大きくなるはず。まして『生ける歴史』が参加するようなパーティだ。メンバーは相当豪華なはずだし、優秀な結界師がたくさん雇われるだろうから。忍び込むのは、多分無理だ。」
というギーツの言葉であっさり諦めることにした。
さて、どうしようか。
「招待状…とかがいるのかな?」
「そうみたいだね。」
うぅん…。
「逆に、堂々と入っていっちゃうか。正面から。」
「っは!?」
私は思わず声が裏返ってしまった。
正面からって…。
「いや、これは結構悪くない作戦だと思うよ。たくさん人がいるところで、向こうも攻撃をしかけてきたりはしないだろうし。今夜のパーティはとにかく有名人ぞろいみたいだからね。招待状さえあれば入るのはそんなに難しいことじゃない。」
ギーツは冷静に言う。
何気に真面目な話だったらしい。
「ただ、問題は二つ。キミが危険だということはあまり変わらないことと、パートナーがいなければならないこと。ボクは恐らく父親が出席するだろうこのパーティには残念だけど出られない。」
「三つじゃん。どうやって招待状を手に入れるか。」
「ああ。…うーん、じゃあパーティに呼ばれてる人をパートナーにすればいいんじゃない?そしたらやっぱり二つだ。」
「そんな人いたらね…。」
楽観視しすぎじゃないか?
「いや、招待状を手に入れるのは、もしかしたらそんなに難しくないかも知れない。」
「?」
「キミが最初から自分で頼みに行けばいい。「パーティに参加するから招待状をくれ」って。」
「え、えぇえっ…!?」
そんなことできるわけ…、いや。
確かに、私は今話題の『黒魔女』なのだ。
そしてそんな私が敵意を見せずにただ「パーティに参加したい」とだけ言ったら、興味を持ってくれる可能性は確かに期待できる。
「問題は一緒に行く人だよ。できたらナユをしっかりと守ってくれるような味方が良いんだけど…。」
そう言って、ギーツは申し訳なさそうな顔を向けてきた。
自分が行けないことを申し訳なく思っているのだろう。
大丈夫ですよー。
味方で、お金持ち…。
ああ、一人思い当たるのがいるなぁ…。
でも…。
「その人を巻き込んでしまうのは…どうなんだろう。」
「あてがあるんだ?…まあそこは、キミとその人がどう腹をくくれるか、じゃない?」
ギーツは曖昧に笑ってそう言った。
「~~~っ!!」
私は頭の中で考えをぐるぐるとめぐらせ、額に手を当てて声もなく唸る。
巻き込みたくないけど、目の前に可能性があるのにそれをみすみす捨てることもできない。
ちくしょう。
「ごめん、巻き込むかも…。」
本人がいないところで言っても意味ないことは分かっているけれど、言わずにはいられなかった。
あの人に頼もう。
私はこの世界のためにも、一刻も早く元の世界に帰ったほうがいいんだから。
そうと決まったら。
「ギーツ、今から行きたいところがあるんだけど…。付き合ってくれる?」
私がそう言うと、欠伸を噛み殺して目の端に涙を浮かべていたギーツが柔らかく微笑んだ。
「喜んで。」