59 二人と一匹の旅
この世界に来てから、いろんな人に助けられて、同じくらいいろんな人を助けてきた。
私の所為で亡くなってしまった人もいたし、私が助けたことによって命を救うことができた人もいたし。
命を助けられたことも何回もあった。
何もわからないこの世界で、ここまで優しい人たちと関わることができたのはきっと奇跡で。
優しい人に触れ合うことの幸せを学べた。
たった十三日間だけど、それでも十分過ぎるくらいいろいろあった。
そんな中で、人に好きになってもらった。
君を守る、と。言ってくれる人がいた。
正直戸惑っているけど、嬉しいのは確かだ。
だけど。
「ありがとう、ギーツ。すごく嬉しい。」
私はゆっくりと頭に入って来たギーツの言葉の意味を理解して、少し照れながら答える。
「でもごめんね。ずっと一緒にはいられない。私は帰らなきゃいけない。」
真剣な言葉だからこそ、真剣に返さなければ。
「ギーツ、私はこの世界の人間じゃないんだよ。だから、ギーツとずっと一緒にいることは出来ない。」
ギーツは私の言葉に寂しそうに笑うと、「そっか」と言って目を閉じた。
「じゃあナユ、キミが元の世界に戻るまではボクが一緒にいてもいいかな?」
足を撫でるシルバの尻尾にくすぐったさを感じる。
私はシルバの柔らかい尻尾に手を置いて、頷いた。
「ギーツが良いんだったら…。」
ギーツは私の言葉に嬉しそうに笑ってから、かぷ、と欠伸を漏らす。
「ボクは長生きだからさ。」
「?」
「元の世界に戻って、ボクのことを思い出して、ボクのことを好きになることがあったら、またこっちに戻って来てよ。ボクはずっと待ってるから。」
相変わらずの口調で、ギーツはそう言った。
顔が熱くなるのを感じた。
その日は、発火石をいくつか集めて質屋で換金してまとまったお金を作るのを手伝って、夕方になってから、寂れた静かな街の更に端にある小さな宿を探して泊まることにした。
街を、ジルから授かった帽子を被って、ギーツの後ろを隠れるように歩いた。
ギーツも紺色の帽子を被って到底隠せるとは思えない美貌を覆っていた。
二人で二階の一室を借りて、部屋にたどりつくと窓を開ける。
すると窓から、滑るようにシルバが舞い込む。
基本的に動物は外に放しておかないとならないらしいのだけど、銀色の狼は絶滅危惧種なので外に出しておくのは危ないというギーツの意見で、宿の人には内緒でこうして入れてしまうことにしたのだ。
幸いシルバは獣特有の匂いなどがないし、騒いだりもしないし、魔法が使えるので窓から這入ることも容易い。
私はシルバに抱きついてベットにダイブする。
ベットはキングサイズなので、二人と一匹で寝ても問題なさそうだ。
ギーツは窓とカーテンを閉めて、部屋の鍵がかかっているのを確認してから帽子をとって一息ついた。
私もそれを見て帽子を取る。
ジルからもらった、大切な帽子。
落としたのをしっかりと拾って、汚れやほつれをギーツに直してもらった。
しばらくそれを眺めてから、起き上がる。
部屋の小テーブルの上に未開封の小さなブラシがあったので、それを開封してシルバのブラッシングに使うことにした。
どうなっているのかは知らないけど、シルバの毛は汚れたりする気配が全くない。
ブラシは少しも引っかかることなく、するすると銀色の毛を梳いていく。
「綺麗な毛だね、シルバ。」
そう褒めて耳の後ろをくすぐると、シルバは嬉しそうに目を細めた。
「シルバは魔法が使えるんだよね。すごいなぁ。」
「銀狼なんて、ボクも初めて見るし。」
ギーツはそう言いながら私の隣に腰かけた。
「『銀狼』のシルバに、『不死者』のギーツに、『黒魔女』の私。これってきっとすごい組み合わせなんだろうね。」
「確かにね。」
かふ、と欠伸を噛み殺しながらギーツは応えた。
そしてそのままぽすんとベッドに倒れ込む。
「ギーツはいっつも眠そうだね。」
「うん、よく言われる。」
私たちはそんな話をだらだらしながら、その日をのんびりと過ごした。
懐かしい平穏な時間を。
こういう時間を大切にしていきたいな、と思った。
今日までいろいろあって疲れちゃったし。
これからのことはまた明日考えよう。
夜ご飯を部屋に持ってきてもらい、みんなで食べた。
そして、その日は何事もなく終わった。
次の日から、状況は少しずつ動きだす。
―――十四日目終了―――
大きな犬と暮らすのが夢です。