05 異世界
ソラリスとジャックは、別ルートで帰るそうで、私と馬はそこを通って行くことができないらしい。
なので、私はヴァシュカと一緒に馬に乗って連れていってもらうことになった。
「ごめんね、わざわざ。遠回りなんでしょう?」
私は、クルネルを揺らさないようにそっと抱えて馬に跨りながら、ヴァシュカにお礼を言った。ヴァシュカは小さく笑って、首を横に振る。
「だから、こいつもあの道は通れないんだ。俺がついてなければ。」
ぽんぽんと馬の背を叩きながらヴァシュカは微笑む。
「あ、そっか。」
しかしやっぱり、ヴァシュカもかっこいいなぁ。笑うと大人の色気みたいなのを感じる。
ヴァシュカはもう一度優しく笑って、私を気遣いながら馬に跨った。
ヴァシュカは私に気遣ってくれているのか、馬のスピードをゆるやかにしてくれている。
馬、馬って言ってるけども、この馬名前はないのか?
と、思ったので聴いてみた。
「ああ、こいつはロッティだ。」
ヴァシュカは、馬のたてがみをなでながら答える。ずいぶんと可愛らしい名前だね。
上あごと下あごを別々に動かして「あん?ナニ見てんだてめー。やんのかこら。ちんちくりんのくせにご主人を誘惑しやがってヒヒーン」とか言ってるように、横目でにらんでくる。
あれ、馬ってこんなだったっけ?
ジャックとソラリスの家に着くまでに、ヴァシュカがこの世界のことを少し教えてくれた。
分かったことは。
ここはジェルズドリアという名の世界で(世界に名前があるってどういうこと?)、5つの国で出来ている。
通称青の国と呼ばれているセノルーン。
同じく緑の国と呼ばれているラッシュバルド。
そして赤の国と呼ばれるフレイムルアー。
さらに、銀の国と呼ばれるログダリア。
最後に、この世界の中心に位置する、白の国と呼ばれるライトフェザー。
「あお…みどり…あか…ぎん…しろ。」
「ああ。俺達はセノルーン公国の者だ。」
「…そんな気がしてた。…ヴァシュカの目とか…ジャックとソラリスの髪とかも、関係あるんだよね?」
私の説明に、頷くヴァシュカ。
「そうだな。そういう場合が多い。」
多いということは、必ずしもという訳ではないということか。
「まぁ、国内での結婚だけではないからな。たとえば赤と青の子供は、そのどちらかの色を引き継ぐか…紺や紫になることもある。」
うわ、絵の具みたい。
色を混ぜて新しい色を作るみたいな。
「ああ、でも…。白の国は少し違うんだ。」
ヴァシュカの言葉に、疑問を返す。何が?
「白の国の者は殆どが同族同士の婚約なんだ。まあ、例外がないわけではないが…。白の国の者は、天使だからな。天使は天使同士で結ばれるのが当たり前なんだ。」
「てんしぃ?!」
なんてメルヘンな。
死人を天国に運んだりする全裸の羽つけた子供みたいなやつなのか?
「馬鹿を言うな。そんな優しいものじゃない。子供というのはあっているが…。天使は俺達を殺しに来る、生きた殺戮兵器だぞ。」
「はぁ!?何それ!」
殺戮兵器?“天使”が?
「まぁその説明はおいおいして行こう。」
ヴァシュカは難しそうな顔をこちらに向けて、そう言った。
一般常識であることを教えるのは疲れそうだ。
私だってテレビの仕組みや電車の使い方を教えろと言われたら面倒だと思うだろう。
そもそもテレビの仕組みなんかは私だってよく分からないし。
そういうことを考えると、ヴァシュカもジャックも、もちろんソラリスも。
得体のしれない私にいろいろ教えてくれて。
それだけでもう、信頼できるというものだ。
ヴァシュカとの会話が切れたところで、街が見えてきた。
そこそこ大きい街で、人々がにぎわっている。
ヴァシュカは一度ロッティを止まらせて、羽織っていたマントを渡してきた。
「すまないが、お前のその髪の色は危ない。俺達が他の者達に事情を説明するまでは正体を隠していてほしい。」
その言い方がすごく優しくて、なんだかお父さんを思い出してしまった。
ヴァシュカの方が若いしかっこいいけど。
私はわかった、とうなずいてマントをすっぽり頭からかぶって、一緒にクルネルを包み込む。
もうすぐこの子の故郷につくのかと思うと、どこか申し訳なく、そしてどこか嬉しくなった。
音がさっきよりも籠るマントの中で、耳を澄ませる。
人々のざわめきやロッティの蹄の音の中に、ヴァシュカへの挨拶が多く紛れていた。
ヴァシュカはどうやらこの街では有名らしい。
ちらりと周りを窺うと、ほとんどの人は髪が青かった。
おおう。神秘的。
私は少しの好奇心と、少しの不安を携えて、ジャックとソラリスの家へと連れられて行く。
国名とかはすごく適当なんで、なんだそれ(笑)とか思える名前があってもあえてスルーでお願いします!