55 意外な救世主
「ギーツ…!」
ギーツ。
ギーツ!
ギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツ!!!
ギーツが、ギーツが死んでしまう。
頭、血が、待って、どうしたら、ギーツ、ギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツギーツ嫌だ死なないで嫌だ嫌だ嫌だ「嘘だ」待って、やめて、どうしたらいいの、だって、撃たれて…、頭、血、血血血血が血血血血嫌だ「ギーツ」嫌だ嘘だだってギーツは、でもギーツ頭から血が血…死んじゃう死んじゃう死んじゃうどうしようどうしたら…。
どう頑張っても、ギーツを助けられないのか?
だって、ギーツは頭を撃ちぬかれてて…。
頭を撃たれたら死んじゃうことは誰でも知ってることだし…。
私は頭の中でただただその現実を繰り返し渦巻かせていた。
ギーツを抱えている腕から全身の感覚が無くなっていく。
「ギーツ…、」
これはどう考えても
私の所為で、
私の、所為で。
自然と涙が出てきた。
「ギーツ、ギーツギーツ…!」
ギーツを平然と撃ちぬいて、それを何とも思っていないような顔をしてこっちに近付いてくるあのメイドが許せない。
でも、動けなかった。
情けないことに私はギーツを死なせてしまって、そして自分を守ることを諦めた。
メイドが私に銃を向けたのがわかった。
ああ、畜生…。
死ね、死ね。
恨めしい。
この女を心底殺してやりたいと思った。
でも。
元をたどれば私の所為だ。
ギーツを巻き込みたくないなんて言っておいて、差し出された救いの手に、あっさりと縋ってしまった。
なんだこの体たらくは。
ごめん、ごめんギーツ。
やけにゆっくりと流れる時間。
死ぬ目前ってこんな感じなのか、と思いながら、メイドを睨みつける。
あっさりと死ぬくらいならば、この女を呪いながら死んでやろう、と。
自分でもバカみたいなことを思い、恨みを込めて睨み続けた。
メイドは一瞬ひるんだように顔を強張らせたものの、そのまま引き金に手をかける。
メイドが引き金を引く瞬間に、出来るだけひどく死ね、と呪いながらその引き金が引かれるのをどこかぼんやりと、他人事のように見ていた。
引き金が引かれる。
弾が飛び出す。
「あーあ…」
小さく溜息をもらしてみたり。
あ、
そうだ。
ジルと「絶対に死なない」って約束、したじゃんか。
死ねないよ。
死なないよ。
運だけは良いんだ、私。
遅れて発砲音が響き、私はぼんやりと座ったままでいた。
傷一つ無いというわけじゃない。
というか傷だらけだけど。
腕も足もずきずきするけど。
生きてる。
死んでない。
致命傷もない。
五体満足。
健康体。
絶好調。
「えっ」
メイドさんが驚きの声を上げる。
そんだよね、私もびっくりだよ。
私は自分の運の良さに苦笑した。
私とメイドさんの間に立ちはだかったソレは。
とっても意外な戦士だった。
「どうして…、」
メイドさんの言葉を遮るように、それは吠えた。
吠えた。
それは狼だった。
タイミング的に、私を助けるためにきてくれたんだろうな。
と、いうことは。
この前助けたあの狼なのだろう。
その狼が、私を助けようと吠えてくれてる。
恩返しにきてくれたのか。
ありがとう。
「ぎ、銀狼だなんて…!」
メイドさんは動揺し、狼狽えていた。
警備兵たちもたじろいでいる。
狼の周りからは風が渦巻いて、私とギーツを覆うようにしていた。
メイドさんが撃った弾はこの風の壁に遮られて落ちた。
この狼の力なのか、これは。
銀の毛を輝かせながら、狼は静かに私を見詰めてきた。
「ありがとう。」
私は頭を下げてお礼を言った。
ふと現実に戻って、涙がまたぼたぼたと零れ落ちた。
「か、構わん!突っ込め!」
警備兵の一人が叫んだ。
その声に反応して、警備兵たちが自分の槍を拾い一気に仕掛けてくる。
風の渦に押されながらも、進んでくる。
「や、やばい…。」
私は逃げなければと思い、辺りを見回してみた。
しかし、ぐるりと囲まれてしまっている。
逃げ場は上しかない。
だけど、私は空を飛べるわけじゃないので、上に逃げたとしてもいずれは下に落ちる。
どうするべきか…。
と、考えていたところで。
「大丈夫。」
すぐ傍で、そんな声が聞こえた。
「大丈夫、絶対キミを守るから。」
狼さんに名前をつけなければ・・・!