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54 屋敷の狂った住人たち

残酷な表現が含まれています。

苦手な方は注意してください。


 嘘だろ。

なんの躊躇いもなく。

なんの迷いもなく。

少しの罪悪感もなく。

少なからず顔見知りであるはずのギーツがいるのに。

撃った。

あの女は、撃ったのだ。

信じられない。


 放たれた弾は真っ直ぐにこちらに飛んできた。

一つは私に向かって。

もう一つはギーツに向かって。

どうやら訓練されたようではないらしくて、メイドさんたちは撃った後の次弾の装填にてこずっているようだし、弾も頭や胸にあたるような位置には飛んできていない。

躱せるレベルだ。

私は跳ねて、ギーツを抱くようにして覆い、そのまま転がった。

二弾の弾はそれぞれ仲良く床にめり込む。


 私はすばやく立ち上がって、同時にギーツの服を引いて立ち上がらせる。

ギーツを庇うように前に立つ。

メイドさんは装填し終わった銃を構えてもう一度撃って来た。

またもその弾はギーツに向かう。

「ふ…っざけんな…!」

私は左腕を伸ばして弾を受け止める。

腕の真ん中を撃ちぬかれて、反動で腕が反る。

痛みが激しく襲ってきたが、今はそんなことはどうでもいい。


 ギーツを人質にしても意味がないことは分かった。

私はギーツを抱えて、床を蹴る。

「きゃあっ!」

メイドさんが驚いてあげたその悲鳴にさらに苛立ちを覚えた。


 腕で顔を守り、ギーツを背中に庇いながら窓ガラスを破って外に飛び出す。

着地と同時に横に跳ぶ。

私たちの着地点に次々と銃弾が降り注ぐ。

「…っ、私だって撃たれたら死ぬんだぞ…!」

呟いて、ギーツを抱え直して走り出す。

「黒魔女がギーツさまを捕らえて逃走しました!!!」

メイドさんたちの叫びが後ろから響いた。


 「どういうこと…?どうしてギーツまで攻撃してくるの?」

「それはいい。ナユ…腕、大丈夫?」

「良くないじゃん!だって、ギーツのお家で働いてる人なんでしょう?ギーツがけがしたらどうするの!」

「いいんだよ、そういうことは、慣れてるんだから。」

慣れてる?

意味が分からない。

あの人たちはギーツの味方なんじゃないの?


 ギーツは、私に半ばひきずられる形のまま、私の腕を心配そうに眺めていた。

そんなギーツに、一層苛立ちが募る。

「あの女ども…。」

ギーツは私の苛立ちに気付いて、申し訳なさそうに苦笑する。

「ごめんね、屋敷だったら安全とか言っちゃって。」

「私が怒ってるのはそういうことじゃないんだよ!慣れてるってどういうこと!?ああいうことを普段からしてくるってこと?」

私は真剣に。

噛みつくように。

走りながら叫ぶ。

他の人に見付かってしまうとかそういうことは一切考えずに。

ギーツは気まずそうに目を伏せた。

「…前にも言ったかと思うけど…。彼らが大切にしてるのはボクであってボクじゃないんだよ。」

「…なにそれ。」

「愛情がないって言ったのは、こういうこと。」

「…!? ちょっと待って、じゃあほんとにギーツは普段からああいう風に扱われてるの!?」

「…そんなことないよ。」

嘘だ。

嘘だ。

きっと嘘だ。

ギーツは顔色を変えないから、考えてることは分からないけど。

きっと嘘だ。


 「いたぞっ!」

前から、警備兵が何人かぞろぞろと現れた。

槍を振りかざしてこちらへ向かってくる。

やっぱり、なんの躊躇もない。

私が黒魔女だと分かっているのならば、この場でギーツに危害を加える可能性だって十分にありえるのに。

私の反応を待たずして何故攻撃することが出来るのか。

ギーツがいるのに!


 私は兵の槍を次々と蹴り落としていく。

一気に攻めてくる男どもの顔面に蹴りを入れ、腹を突き上げ、ギーツの下へ行かせないようにねじ伏せていく。

「ナユ!!!」

槍を落とした兵が振りかぶって来た拳を受け止めたところで、ギーツが叫ぶ。

振り返ると、ギーツが立ち上がって私に飛びついてきた。

え?

パン、と軽い音がして、ギーツの体が振動した。

そして私にそのままもたれかかってくる。

「ぎ…、」

私は目の前の男を突き飛ばして、ギーツを受け止める。


 「ギーツ!」

ぬるりと、手にぬるい何かがかかった。

もう、その生温かい物が何か、見当はついていた。

ただ、認めるのは勇気がいる。

「ギーツ!!!」


 ギーツは額から血を流して、動かなくなった。





メイドさんと言っても、みなさんスカートはくるぶし丈でございますよ。

日本のメイド喫茶みたいな短いスカートではないのですよ。

誤解して萌え要素として考えると、話の緊張感が薄まるのですよ(笑)

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