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53 開戦の音


 「服、とりあえず持ってくる。来て。」

ギーツが私の手を引いて進もうとするので、私はそれにやんわりと抗う。

「大丈夫。私はもう一人で大丈夫だから。いろいろありがとう。」

そう言って、軽く頭を下げる。

顔を上げたところで、額を結構な勢いで小突かれる。

不意をつかれて後ろに反り返った私の足が払われて身体が宙に浮く。

「ひっ!?」

背中から落ちそうになって受け身をとろうとしたところで、ふと落下が止まる。


 すくい上げるようにギーツが私をお姫様だっこの形で抱え上げていた。

「え、…何?」

ちょっと待て。どうしてこうなった。

状況がイマイチつかめていないのだが。

私が抱えられる理由はいずこ。


 ギーツが気のないたれ目を緩ませて笑う。

「ボクも一応男だから。気を遣わないで、任せておきなよ。」

「は?」

ギーツは私を抱えたまま歩きだした。

「だから、ボクがキミを守るって言ってるんだよ。」





 「ほんの冗談のつもりだったんだけどね。」

ギーツは私が殴ったお腹をさすりながら苦笑する。

いきなり小突いてくるギーツが悪いのだ。

「ああ、守るっていうのは冗談じゃないよ。」

「そこが冗談だったらガッカリだよ…。」

私は苦笑して、ギーツに手を引かれていく。


 抱っこしてもらうのは私もギーツも動きにくいので、手をつなぐことにした。

本当はギーツの助けを借りるのはよくないんだろうけど…。

守るとか言われて、頼もしさを垣間見てしまった。

少し、期待してしまう。

期待を、してしまった。


 ギーツに手を引かれて森を抜けるとそこには。

前にジルに連れて行ってもらった別荘よりも一回りくらい大きなお屋敷があった。

白い壁に囲まれたその建物は、おそらくギーツが言っていた「屋敷」なのだろう。

やっぱりお金持ちなんだなぁ。

ギーツは辺りを見回して、森から出ると小走りで屋敷の壁にくっついて、建物の陰に潜む。

私もその後を手を引かれながら付いて行った。

「今は屋敷の連中も混乱中だから人手が外に固まってる。中に入ってしまえば安全だと思うんだよね。」

そう言って、頭上にある窓に目を向けるギーツ。

「あそこから入れればいいんだろうけど…。」

その窓は私たちの頭の上4メートル辺りにある。

大き目な窓なので、入ろうと思えば簡単に入れそうだ。


 そういうことなら。

「任せなさいな。」

私はそう言ってしゃがむと、ギーツの足を抱えた。

「わぁ。」

本当に驚いてるのかどうかはわからないけど、ギーツが気のない驚きの声を上げた。

私はギーツを右肩に乗せて飛び上がる。

窓の横の壁を左足のつま先で蹴って、壁を破壊して足場を作る。

思ったよりも音が立たないので、誰にも気づかれていないだろう。

窓枠を左手で掴んで、右足も壁に突き刺してバランスを安定させる。


 「…すごい状況だな…。というかキミ、すごい運動神経だね。」

「…ありがと。」

私も、壁に穴開けられるかどうかはわからなかったんだけど。

なんでもできるな、今の私は。

私は窓枠を掴んでいた左手を離して、窓を思い切り殴った。

派手な音がして窓ガラスが割れる。

割れたところから窓のカギを上げ、窓を勢いよく開け放つ。

ガラスの破片で何度か切ったけれど、気にしないことにしよう。

はぁ、血が足りない。

ふらふらする…。


 私は開け放した窓から這入りこむと、少し離れた場所にある部屋に潜り込んだ。

人がいないことを確認してから、ギーツを下ろす。

「キミは随分と無茶をするね。飽きれるよ、まったく。」

ギーツは苦笑して、服の皺を手で払って伸ばす。

「じゃあ来て。あっちに女中の制服の予備があったはずだから。」

ギーツはそう言って私の手を引いた。


 「ボクたちの侵入にはそろそろ気付かれてしまう頃だから、急ごう。」

私とギーツは共に辺りを警戒しつつ、下の階に向かった。

ギーツの言ったとおりに、屋敷の中に人はあまり見当たらず、すれ違いそうになったのも数回だけだった。


 ギーツに案内されてやってきた衣裳部屋で、女中の服(早い話がメイド服)を借りて、素早く着替える。

すぐに出ようと扉に歩み寄ったとき、外で屋敷の召使さんたちが話しているのがドア越しに聴こえてきた。

「ギーツさまがいらっしゃらないわ!」

「なんですって?!すぐさま探しなさい!」

「まさか、連れ去られたのでは…。」

「結界師たちから結界が破られたという話は聴いておりません。侵入者なんているはずがないわ。必ずこのお屋敷に潜んでおります。早く連れ戻しなさい!」

「しかしルーダさま、先程二階の窓が割られておりました。」

「何ですって…?野鳥でなくて?」

「お忘れですか、屋敷には結界があるのです。魔獣だろうと侵入すれば結界師の者が必ず感知して知らせるはずでしょう!」

「それでは、ギーツさまが…?」

「あり得ない話ではありませんわね。あの方ならばこの屋敷を抜け出すことくらい容易でしょうから…。」

「エイダ、ミンク、念のため結界師の下へ行って確認してらっしゃい。」

「はい!」

「それと、ギーツ様が外へお出になられたかもしれません。ユーク、ロイ、屋敷の周辺の捜査を始めなさい。」

「了解しました!」

慌ただしく何人もの人がかけていく。

しばらくしてから、全ての足音が大分遠くなったことを確認して部屋から出た。

「ボクがいなくなったことがばれてるみたいだね。とりあえずボクはこの屋敷の敷地からでられないから…外までしか送れないけれど…。」

「大丈夫。ありがとう。」

私はメイド服の裾を託しあげて、留める。

いくらか動きやすいけれど、長いスカートはやっぱり戦いにくそうだ。


 廊下に出て、辺りを見回すと屋敷の入り口に人がたまっているのが確認できた。

急いで廊下にある花瓶を乗せた台の陰に隠れる。

「玄関からは出られない。裏口に向かおう。一度上に行って、上から回ろう。」

「分かった。」

頷いて、背後の階段に向けて音をたてないように注意しながら駆ける。

すばやく階段にたどりつき、そのまま上へと駆け上がって行く。

二階に上がったところで、二人のメイドさんと出くわした。

くっそ!


 「く、黒魔女!?」

「ギーツ様!!!」

メイドさんはそれぞれに叫んで、目を見開く。

私はギーツを抱えてメイドさんの脇をすり抜ける。

「メイド長ルーダ様へ、フォリスから報告です。二階階段付近にて、黒魔女と思しき少女と、少女に捕らえられたギーツ様を発見致しました。ただちに確保に移ります。応援よろしくお願いします。」

メイドさんは魔法陣の書かれたメモ帳みたいなものを広げて叫ぶ。

ギーツを人質にさせてもらって、今はとにかく逃げよう。

そう思って、少し振り返ると。

2人のメイドさんはそれぞれ拳銃のようなものを構えていた。

なんでメイドさんがそんな物騒なモン持ってるんだよ!!!


 ギーツがいるから、と安心していたけれど、どうやらそれは甘い考えだったようだ。

メイドさんは躊躇いもせずに。

引き金を引いた。

大きな音が耳を通り抜けていく。



暑くなってきましたね。

この夏はお家で本でも読んで涼みましょう。

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