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48 大切


 「ねえ、キミ。」

ふと、ギーツが声をかけてきた。

私は木の上でうとうととまどろんでいたところだったので、びっくりして危うく落ちそうになった。

「な、何?」

ギーツは自分の前髪をいじりながら言う。

「前にセノルーンから来た、って言ってたけど、旅でもしてるの?」

そんな興味なさそうに言われても…。

私は少しそう思ったけど、興味がないのなら大丈夫かな、とも思って。

「逃げてるの。」

ぽつりと答えてみた。

ギーツは少し動きを止めたような気がするけど、いつも動きの少ない人なので、気のせいかもしれない。

「終わりの見えない、鬼ごっこ。」

私はそう言って、自虐的に笑った。

ギーツはふうん、とどうでもよさそうに相槌を打って、ごろんと寝転がる。

優しい言葉をかけられたら切なくなるので、逆にそんな反応であることが嬉しい。


 「何かに追われてるキミには不謹慎だけど、ボクはいろんな国を回れるのは素直に羨ましいな。」

なんて言って、ギーツは目を瞑った。

「昔、街に行ったことがあるけど、外国(そと)には行ったことないし。今は街にすらいけないしね。」

「体が弱いから?」

「まあ、そんな感じ。正確にはちょっと違うんだけど。ボクも結局守られてる立場だからね。文句は言っちゃいけないんだろうけど、やっぱりあの家は好きになれないな。」


 繰り返し。

繰り返し言うのは、本当に辛いからなんだろうな。

ギーツは、本気で家が嫌いなんだ。

同じことを何度も言うようなタイプじゃないのに、家が嫌いだということを何度も言う。

繰り返し。


 風がギーツの前髪をさらう。

私の周りの枝を揺らす。

耳触りの良い音が広がって行く。

日が辺りの空気を暖めて、心地よい。


 きっとギーツは、嫌いな家を忘れるために。

できるだけ考えないようにするために。

ここにいるんだろう。

確かに、この場所は悶々とした想いを晴らすためには丁度いい場所だし。


 「ギーツの家族は、ギーツを大切にしてくれてるんじゃないの?」

ギーツがあんなに毛嫌いしているのだから、家族のこともあまり好きじゃないんだろうけど…。

でも、体の弱いギーツをどんな形であれ守ってあげているのは、愛情ゆえではないのだろうか。

「大切にされてるよ。これでもか、ってくらいね。じゃなかったらもっと自由にされてたさ。」

ギーツは体をくるりと横に倒して、そう言った。

「過保護?」

「近い。まあ、愛情はあまりないと思うけどね。」

ギーツは、眠そうな口調でそう言った。

「彼らが大事にしてるのは、ボクであって、ボクじゃないから。」

欠伸混じりにそうもらしたギーツの言葉の意味が、このときの私にはよく分からなかった。


 ギーツはいつのまにか寝てしまって、私はギーツが目を覚ますまでの間、ぼんやりと時間をつぶすことにした。

そこでふと思い出して、胸ポケットから日記帳を取り出す。

そういえばブレザーを置いてきてしまったので、夜は少し寒いし、日記帳も落ちてしまいそうではらはらしたりする。

とりあえずポケットの深い上着が欲しいな、なんて思いながら私は日記帳を眺めた。

なにぶんペンを持っていないので、ログダリアに来てからは一回も日記をつけてない。

いざという時は血文字でいいかな、とか思ってる。

何かの手がかりがあったときとかは。


 紫色の美しい模様を人差し指で撫でる。

「ジル…。」

私はジルの人懐こい子供みたいな笑顔を思い浮かべて、少し笑った。

まだ離れてから時間はさほど経っていないけど、また会いたいな、と思ってしまう。


 ジャックは怪我、大丈夫なのかな。

ふと、ジャックの顔が思い浮かんだ。

ジャックには、申し訳ないことをした。

巻き込んでしまったことを、いつかは謝らなければ。

ヴァシュカにもだ。

そしてソラリスにも。


 今度セノルーンに訪れるときには、ドーラおばさんとその娘さん。

そしてクルネルのお墓に行こう。


 私はそんなことを考えながらふと空を見上げる。

変わらず青い空に、鳥肌が立った。

そうだ、ドーラさんと最後に話した日もこんな空だったんだ。

何でもない日だけど、何が起こるか分からない日だ。


 ああ、私のバカ。

何をやっているんだろうか。


 私は立ち上がって、音をたてずに木から飛び降りる。

眼の色まですでにばれてしまって。

全然意味がない。

膝を曲げて柔らかく芝生の上に着地して、帽子の位置をただした。

甘えるな、私。


 私は眠っているギーツを見下ろす。

まつ毛がきらきらしていて綺麗だ。

ほんと、美形ばっかだよなぁ。

乙女ゲーってやつみたいな世界だ。

あんなイケメンばっかの世界がある訳ねえだろ、って思ってたけど、今までこの世界で出会った男の子がこうもみんなイケメンだとああいうゲームもあり得そうな気がしてくる。


 みんなそうだけど、ギーツも優しい人だった。

ほんのわずかな時間しか一緒にいなかったけれど、ギーツはもう既に、私の「大切な人」だ。

ギーツの家族がギーツのことをどういう風に大切にしてるかはわからないけれど、私はギーツのことを本当に大切な友人だと思ってる。

だからこそ。


 私はギーツの髪にくっついたキュレラの花びらを取って、微笑した。そして、

「ばいばい。」

小さくそう言って、その場を立ち去った。



間が空いてしまいましたね(汗

すいません。

次回のことは何も考えていないので、もしかしたらまた間が空くかもです…。

ごめんなさいです!お許し下さい!

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