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46 銀の狼


 今日は、特になんの収穫もなく終わった。

まあ、そんなに簡単にティアが見つかるとは初めから思っていないので、とくにがっかりすることもないけど。

探し物は、簡単に見つからないから探し物なのだし。


 私はしばらく屋上から屋上へと渡ってログダリアの街並みと地形を記憶していった。

誰かに見られたかもしれないけれど、姿を見られたくらいなら別に大丈夫だろう。

要は、髪さえ見られなければいい。

そういうことだ。


 私は一通り銀の国を巡った後、寝床のある森に戻り、森の周りをぐるりと一周した。

行く時に付けた印を見つけて、そこから森の中へと入る。

やっぱり、方向が分からなくなってる。

ややこしいんだよ、この世界。

私はちょっとうんざりしながらも、目印を頼りに奥へと進んでいった。


 しばらくしたところで。

低い。

雷のような音が聞こえた。

これから雨が降るのかと思って、空を仰ぐ。

しかし空は雲一つなく、月明かりに照らされたカウンターが煌々(こうこう)と輝いている。

あれ?

「      」

と。

またも、低い音が近くで聞こえた。

しかし、次はその音がなんなのか理解した。


 その低い音の正体。

まあ、こんな森の中だから大体察しはつくだろうけど。

それは獣の呻る声(、、、、、)だった。

私は辺りに向けていた警戒心をさらに強くする。

どこから…。


 ふと、正面の茂みの中に金色の光が見えた。

ぽつり、ぽつりとその光は茂みの中で揺れている。

ああ、あれか。

私はその光に近付いてみる。

「     」

私が近付くと、獣は低い声で吠えた。

予想通り、金の光は獣の眼だった。

私は恐る恐るその獣を観察した。


 それは、銀の毛並を持った、美しい狼だった。


 その狼は金色の二つの眼で、私を真っ直ぐ見詰めて、がるぐると威嚇の声を上げている。

体長は1メートル弱ぐらい。

そのことや顔つきから考えて、どうやら子供のようだ。

ジルやギーツの髪と同じ銀の毛並は光沢があって、葉の間から零れ落ちる月の微かな光だけでも十分すぎるほどに煌めいている。


 そしてその狼は。

罠に、かかっていた。

脚に蔦が巻きついていて、それだけだとただ蔦が絡まって抜けられなくなってしまったように思われるが、脚に絡みついた蔦から、銀色の陣がいくつか浮き上がっていた。

魔法だろう。

右の前脚と、両後ろ脚に複雑に巻きつく蔦。

狼はその魔法のかかった蔦の所為で動けないらしく、私から後ずさろうとして必死にもがいていた。

確かに、身動きの取れない状況で何かと遭遇するのはなかなかの恐怖だろうと思う。

私は敵意むき出しの狼をどうするべきか少し迷って、一旦その場から離れた。


 少し大きめの木を見つけて、その木の枝に腕を伸ばす。

「ごめんね。」

小さくそう言って、私はその枝を力いっぱい自分の体側に引いた。

バキ、と音がして、子供の腕位の太さの枝はいともたやすく折れた。

私はそれを持ってもう一度狼の元へ向かった。


 銀の狼は、まさかまた私が戻ってくるとは思っていなかったらしく、蔦に噛みついていたところで勢いよく顔をあげ、大きく吠えた。

うわ、こわぁ。

私はちょっとビビりながら狼の近くでしゃがむ。

狼はやっぱり、噛みついてこようとした。

「ちょっとごめんね。すぐ終わるから。」

私はそう言って、噛みつこうと開いた狼の口に先程折った木の枝を思い切り噛ませる。

狼がびっくりして頭を退こうとしたところで、少し乱暴だけど枝をなるべく深く噛ませるために、奥へと押し込んだ。

牙が上手く噛みあわなくなり、動揺した狼をの顔を、軽い力で傍の木に押し付けた。

上半身の身動きが取れなくなる。

どうにかして抜け出そうともがく狼が可哀想なので、早く済ませてあげなければ。


 私は狼の左の後ろ脚と、それに絡まる無数の蔦の間に枝を持っていない方の右手の指を突っ込んだ。

バチバチと、火花が散る。

よく見るとこの蔦、棘が生えているじゃないか。

これは痛かっただろうに。

私はちらりともがく狼の顔を横目で見て、気をひきしめる。


 ジルが前に言っていた。

「魔法の罠にかかった時。抜け出すにはまず、陣を崩す必要がある。」

とかなんとか。

「魔法陣は2種類あってね。血やペンで直接書かれたものと、魔法を発動したことによって必然的に生まれてくる光の陣。」

私の見る限り、この罠に用いられているのは後者だ。

「直接書かれた物は、効力が長くて、成功率も純度も高い。ただ、陣を消されてしまったり、傷つけられてしまうとすぐに壊れてしまう。反対に詠唱だけで発現させた魔法陣は失敗しやすく力も不安定だけど、第三者が壊しにくく出来ているんだ。」

狼は尚も暴れている。

ごめんね、今助けるから。

「光で出来た魔方陣を崩すにはね、ナユの場合はまず力ずくで歪ませてみること。」

私は蔦を、片結びにされた糸を解くようにほぐしながら引いていく。

「ただ、歪ませるだけじゃ解けない場合もあるし、鉄とかで拘束された時とかではあまり使えないでしょ?その時は、とにかく内側から自分の魔力で罠と自分の間の空間を広げていくこと。指先から水が流れ出て行くような感覚を思い浮かべて一気に、」

ジルの言葉を思い出しながら、指先から水が出て行くような感覚を思い浮かべてみる。

バチバチと、光がはじける。

魔法陣が歪んでいく。

あと少し。

私は指先から何かがあふれていくのを感じた。

溢れた何かは、蔦をはじいていく。蔦が千切れそうになる。

今だ。

「一気に、引き裂く。」

頭の中のジルの声と共に、魔法陣が破れた。

途端に、蔦がはじけ飛ぶ。


 自由になった左の後ろ脚を見て、狼はもがくことを止めた。

未だ呻り続けているけど。

私は次に、右の後ろ脚を、そして最後に右の前脚を同じように蔦から解放していった。

全て解放される頃には狼も静かに、暴れることなく、呻くことなく、おとなしくなっていた。

可愛いな。

最後の蔦が千切れたのを見て、私は狼を押さえていた枝を口から放した。

狼はふるふると頭を振って、私を見詰める。

「ごめんよー、苦しい思いさせたね。」

私は軽く狼に笑いかけた。

狼は戸惑ったようにしばらく私を探るような目で見ていたけれど、やがてゆっくりと私の右手に顔を近づけた。


 蔦の細かい棘の所為で、私の右手には無数の切り傷ができていた。

狼はそれを軽く舐める。

この子なりの感謝なのかもしれない。

私はなるべく驚かさないように、そっと頭をなでてやった。

「どういたしまして。さ、はよ帰んな。」

そう言って、狼のお腹を軽く叩く。

銀色の毛は、見た目よりもずっとさわり心地が良かった。

柔らかくて、ふかふかしてて、あったかい。

銀色の狼は金の瞳を私に向けてから、ふと後ろを向いて、走り出す。

「もう捕まるなよー。」

私はひょいひょいと軽い足取りで森の奥へと消えていく狼の後姿に声をかけた。


 それからまた目印を辿って昨日こしらえた寝床にたどりつくと、木を登る。

大丈夫だろうけど、落ちないようにしなきゃ。

私はそんなことを考えながら、草に埋まって浅い眠りに落ちた。


  - 十二日目終了 -

癒しじゃあ!

狼くんがでてまいりました!

もふもふした動物は癒しですよね、いや、マジで。

ナユちゃん、さりげなく魔力コントロールが上手くなってますね!

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