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40 ずっと一緒に


 私の言葉に、ジルは数秒黙り込んだ。

驚いたとか、そういうのではなく。

ただ、考え込むようにして黙り込んだ。

やがて、悔しそうに歯噛みして。


 「俺に、ナユを引き留められるくらいの力があったら良かったのに。」

ぽつりと呟いた。

「は?」

「正直、外に行くのは反対だよ。ここよりもずっと、危険だし。出来ることならこのまま何もしないでいるのがナユにとっては理想的なんだけど、それじゃあ納得しないんだろ?それが、俺が好きなナユだしね。」

ジルは立ち上がった。

私よりも頭ひとつ、高くなる。

ジルの顔を見上げる。

ジルは寂しそうに笑って、また私を抱きしめた。

「この国で今起こってる戦争に、ナユが少しも関わっていないわけじゃない。それは俺も知ってる。だからこそ、ナユが今この国から出たいって言ってるのもわかってる。だけど、」

ジルは私の耳元に押し殺したような声で、

「行かないでほしい。」

そう、呟いた。


 背中に回った手に力が入ったのがわかる。

「…でも、ナユが行くと言うなら止めない。ナユの望みなら、俺には止められない。」

私は、ジルの声が少し震えていることに気付いた。

ジル。

私もジルの背に腕を回した。

ジルの優しさに触れて、覚悟が揺らぎそうになってる。


 この国で隠れて過ごすのが一番安全なのは知ってる。

他の国で一人になったら、殺されるかも知れない。

でも。

私以外の誰かが、私の所為で死んでいく。

私以外の誰かが、私を守って死んでいく。

それだけは、嫌だ。

だから。


 ジルは、私の髪を少し撫でて。

「それで。俺は何をすればいい?」

はっきりとした声で、私に尋ねた。

「外に行くことを告げる為だけにここに来たんじゃないでしょ?」

ジルはすごいな。

お見通しだ。


 そう。

このまま私がセノルーンを出るだけじゃ何も解決しない。

ただ逃げるだけだ。

そんな無様なことをしてみろ。

お父さんに怒られる。


 「俺は、俺に出来ることなら何でもするよ。ナユの望みなら、何でもきくよ。言ってみて。」

ジルの優しい言葉が耳の内側に溶ける。

「…このまま逃げることは出来ない。だから、ジルに手伝ってほしい。断ってくれてもいいんだよ。」

そう言うと、ジルは迷いなく即答した。

「俺がナユの頼みを断るわけないだろ。」


 ああ、ジル。

なんでジルはそんなに優しいんだろう。

ジルは私のこと、どう思ってくれてるのかな。

「ナユ、俺はナユが思っている以上にナユを慕ってるんだよ。」

ジルは、軽く笑った。

「大げさでなく、ナユは俺の人生を変えてくれた。」

ゆっくりと、言葉を自分にしみこませるように。

「あの言葉で、俺は心の在り方を変えたんだ。今は昔よりずっと、生きるのが楽しい。」

言葉を紡ぐ。

「ずっとあった、モヤモヤした苦しさがなくなった。」

「それだけで、」

「“それだけ”じゃない。ナユには感謝してもし足りないよ。」

ジルの体温。

ジルの匂い。

安心する。

ねえ、ジル。

どうしてそんなに想ってくれてるのかはやっぱり分からないけど。

私もジルと同じくらい、ジルに感謝してる。

なのに。

また迷惑をかけようとしてる私を許して。

ごめん。


 「本当は、一緒に行きたい。」

ジルが、悲しそうな声で呟いた。

「どこまでも一緒に行って、ナユが俺のことしか考えられなくなるくらい、ナユの傍にいたい。ずっと守り続けたい。でも、」

「一緒になんて、いけないよ。」

これ以上ジルを私の事情に巻き込み続けるだなんて出来ない。

「…この国を、捨てることなんてできない。」

「大丈夫、分かってる。」

ありがとう。


 「いつでも、俺を呼んでいいから。」

ジルはそう言って、そっと私から離れた。

離れていく体温と共に、揺らいでいた覚悟が戻る。

「ありがとう、ジル。」

「どういたしまして。」

ジルは儚さを感じさせる笑顔を浮かべた。

「俺にしてほしいことは?」

「今起こってる戦争を終わらせる。協力してくれる?」

答えはもうわかっていたけど、私はあえて確かめる。

私を勇気づけてくれるジルの言葉を。


 「もちろん!」



最近話が展開しすぎて自分で書いてるくせについていけません…。

とても疲れます。でも話を考えるのは楽しいですね。

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