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37 戦場


※ 残酷な表現が含まれています。

   苦手な方はご注意ください。



 何だ。

何がどうなっている?

訳が分からなくなった。


 「おねえちゃん、後ろ!」

ソラリスの声に振り返ると、斧を振りかぶる女がすぐ近くにいた。

慌てて後ろに転がる。

ソラリスを抱え直して立ち上がり、すぐさま女から距離をとった。

少し小太りなおばさんは、赤い髪を後ろで乱雑に束ねている。

「【紅の妖狐(フォックス)】…!?」

「黒髪の女なんて、レアだわねえ!」

おばさんは口をぱっくりと横に開いて笑う。

斧を両手で持って走り寄ってくる。

少し考えて、仕方が無いという結論にたどりつき、情けはかけないことにした。


 おばさんの振り薙いできた斧を跳んで避けて、ピンポイントで耳に回し蹴りを入れた。

声にならない呻きを上げておばさんが倒れ伏す。

三半規管を狂わせたので、早々たてないだろう。

私は急いでその場から離れた。


 どうすればいいのかわからないので、とりあえず記憶の中の図書館に向かうことにした。

あそこいけばソラリスだけは助かるだろう。

ソラリスは【一角獣(ユニコーン)】だから。

あそこにいれば、誰かが必ず守ってくれるはず。


 街に戻ると、沢山の人が息を止めて、地に転がっていた。

悲惨な状況だった。

ほぼ全員が、首を切るか突くかされていて、辺りが血だまりになっている。

青い髪の者だけでなく、赤や、銀や、緑の者もいろんな人が命を失って、ただの物に成り下がっていた。

何だ、これは。

怖い。


 私はふと空を仰いだ。

月明かりに照らされて光る何色ものカウンターが、くるくると目まぐるしく数字を変えていた。

どんどん、どんどん数が減っていく。

「なに…なにが…。」

私が混乱していると、

「戦争…。」

ソラリスがぽそりと呟いた。


 よく聞き取れず、もういちど耳を傾けると。

「戦争が始まっちゃったんだ…。おねえちゃんと出会ったあの日も、こんな感じだったの。」

ソラリスは泣きそうな声で呟いた。

これが戦争。

今まで、甘く考えすぎていたんだ。

ここで起こってる戦争は、これほどまでに悲惨なものだったのか。


 そうだ。

子供を平気で殺すような世界じゃないか。

あたりまえ、なのか。

「この間は、戦場が青のエリアじゃなかったから…、私の村で死んじゃったのはクルネルだけだったけど…。今日のは、ここが一番激しい戦場になってる…。」

ソラリスは空を見て、くるくると回って減っていく青色の数字を差した。

確かに、青の光の数字が一番減っていくスピードが速い。


 青の国が狙われているのなら、尚更急がなければ。

私はまた走り出した。

 が、そこで。

見たくはないものを、見てしまった。


 足を止める。

信じられずに、言葉を失う。

時間が止まったような、感覚に襲われた。

それは、ここにあってはならないものだ。

こんな形(、、、、)で、在ってはならないものだ。

信じたくない。

怖い、怖い。

そこには。


 死んでしまったドーラおばさんが在った(、、、)


 嘘だ…。

おばさんが、こんなところにいるはずない…。


 私は恐る恐る近付いてみた。

それは、まぎれもなく隣に住むドーラおばさんだった。

お菓子を作るのが上手な、

いつも花に魔法で水をあげている、

やさしい笑顔が可愛らしい、

ドーラおばさんだった。


 「あ…、ああぁあhdxwp@kdwべcvjbclhv!!!」


 声にならない叫びがのどを裂くように、私の口から飛び出る。

急激に背中が冷たくなって、胃の中のものを全て吐き出す。

嘘だ、嘘だ、嘘だ、嘘だ。

ついさっきまで話していた相手だぞ?

それなのに、こんな。


 ドーラおばさんは、白目を剥き、泡を吹いていた。

顔は青白く、生きている感じが全くしない。

数時間前まで生きていたものだとは信じられないほどに。

そしてドーラおばさんの傍らには、私と同じくらいの女の子がおばさんを守るように抱いて死んでいた。

今朝話していた、娘さんだろう。

娘さんは、背中を大きく切り裂かれていて、本来体内にあるべきものがずるりと(、、、、)はみだしていた。


 「あっ、」

気付く。

辺りに充満し始めている、死臭。

「うっ、うう。」

気持ち悪くて、もう一度吐いた。


 「おねえちゃん…。」

ソラリスが、不安と心配の折り重なった声をあげて、私は思い出す。

そうだ、今は一人じゃない。

どうにかして、逃げないと。

安全な場所に…。

「ソラリス…、行こう。」

口の中の嫌な感覚を感じながら、ソラリスにではなく自分に言い聞かせるようにして、足に力を込める。

私よりは慣れているのだろうが、ソラリスはまだ子供だ。

こんなところをいつまでも見せる訳にはいかない。


 頭がずきずきする。

恐怖で気が変になりそうだった。

足はさっきよりもずっと重い。

でも、ここにいるのは私だけじゃない。

ソラリスを守るためには、ここでうずくまっている訳にはいかないんだ。





今までちんたらやっていたぶん、ここらへんでの物語がどんどん急変していくといいなぁ、って思ってます。



※【紅のフォックス】を、【紅の妖狐フォックス】に変更しました。

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