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34 優しさ



 気がついたら、目の前にはジルがいた。

あれから私は熱をだしたらしく、ずっと眠り続けていたそうだ。

「ああ、良かった、ナユ!」

ジルは安心したように笑った。

「お礼を言ったかと思ったら眠ってしまったから、心配した。」

「え、本当?ごめん。」

「いやいや。毒が抜けたからって体に何の影響もないわけじゃないから…。疲れもたまってたんだろうね。3日も眠りこけていたんだし。」

「3日!?」


 3日も寝てたのか、私は。

つーか寝すぎて頭いたい。

「で、なんでここにいるの…。」

ここは、前に訪れたジルの屋敷だ。

この寝室には見覚えがある。

「お、起きたか。」

「ヴァシュカ。」

ヴァシュカが両手にマグカップを持って部屋に入って来た。


 「殿下が戻られたから、ココアを注いだんだ。」

ヴァシュカはそういって、青いマグカップを差し出してきた。

「ありがとう、ヴァシュカ。」

「どうぞ、殿下。」

「ありがとう。ヴァシュカはよく気が利きますね。ジャックとは大違いです。」

「あははは。」

ジルの言葉を爽やかに流すヴァシュカ。

ジルはジャックと仲が悪いのかな。


 「調子はどうだ。」

「ん…、大丈夫。ありがとう。」

「いや、礼を言わなければいけないのは俺の方だ。」

ヴァシュカはそう言って申し訳なさそうな顔をした。

ヴァシュカが気にすることじゃないのに。


 「で、なんでここにいるの。」

「ジャックがきたんでね。」

ジルは機嫌の悪そうな顔で言葉を吐く。

「ジャックが?」

確かに何も言わずに出て行って、帰らなかったら心配になるか。

「タイミングが悪い人ですから、ナユが熱を出して気を失ったときに丁度訪ねてきやがりましてね。」

ヴァシュカがいるからか、敬語で話すジル。

しかし、そんな丁寧な言葉でも隠し切れない苛立ちが、言葉の端からにじむ。


 それからすぐにジルは、ちょっと様子を見に来ただけだったのだと言って、急いで出て行った。

ジルも忙しい身だから。

ジルの話しの続きは、ヴァシュカが教えてくれた。

どうにも、やってきたジャックが熱を出して寝込む私を見つけて、「こんな危険なところに居させるくらいならウチで常に僕が守っていた方がいい!」とか言って連れ出そうとしたらしい。

そこにジルが「大丈夫ですから、後は私に任せて下さい。ナユの体調は私の魔法でなんとかさせていただきます。」と言って、ジャックと喧嘩になったそうだ。


 そのときの感じをヴァシュカの話しを元に再現したらこんな感じだろうか。

 「看病なら僕にもできますんで、返してください、殿下。」

「私の家臣に看病させた方が何をするかわからない君に預けるよりはるかに良いんですよ、ジャック。」

「僕は殿下には手加減しませんよ。」

「そうだな、私も君には手加減したくないね、ジャック。」

「王子がけがしてもいいんですか。」

「生憎第二王子という立場上そういうことにはゆるくてね。」

「じゃあ大怪我させてもあまり大きな問題にはならなそうですね。」

「はん、やってみなさい。」


 ヴァシュカの話しだと、まあ大体そういう感じ。

結局ジルの魔法治療を受けたほうが私のためになるとしぶしぶ納得したジャックが折れたそうだ。

私が目覚めたら呼ぶ、という条件付きで。

それからジルが、ヴァシュカの家よりも設備の良いこちらの屋敷に私を移動させたらしい。

「ジャックは心配性だねー。」

「…まあ、あいつがそうした理由は心配だけじゃあ、ないと思うがな。」

「何それ。」

私の言葉に、ヴァシュカは曖昧に笑った。

……?


 「ジャックは確か外で寝ていたはずだから、呼んでくる。」

「外で!?」

「ジル殿下がジャックをここに入れなかったからな。」

うわあ、ジルも大人気ないなぁ。

「あれ、じゃあどうしてヴァシュカが…。」

「ああ、俺は殿下がいない間の留守を任されていたんだ。」

「そうなんだ…わざわざありがとう。」

「お安い御用だ。」

ヴァシュカはそう言って笑うと、部屋を出て行った。


 陽の光が差し込んで暖まった部屋に、ココアの甘い香りが広がっていく。

落ち着くなあ。

「ナユ!」

「うわびっくりした!」

転がるように入って来たジャックに思い切りビビる。

ジャックは私の額に手をあてて、息をつく。

それから床に座り込み、髪をくしゃくしゃやって微笑んだ。

「良かった。ほんとに、良かった。」

ほっとした表情。

ジルと同じ反応をしてきた。

「もう体は大丈夫なんだ?」

「うん。」

「変なとこはないの?」

「うん。」

「足も痛くない?どこも痛くない?」

「うん。」

「そう。」

ジャックは笑って、立ち上がる。


 「さて。じゃあ、帰ろうか?」

「あ、うん。」

なんか、ここまで心配してくれる人がいることが嬉しい。

けど。

「今日はシチューにするんだ。シチューは知ってる?」

「私のイメージするシチューと同じなら、知ってる。」

「そう。それじゃあたくさん食べてね。」

「あ、ありがとう。」

「久しぶりに一緒にご飯が食べれるね。」

そう言ってぱぁっと笑うジャック。

そんなに可愛い笑顔を浮かべないでほしいものだ。


 





 ヴァシュカの体調もすっかりよくなったそうで。

聴いたところによると、ティアはジルがきてすぐに去ったらしい。

「また会いに来ると言ってたぞ。」

「うん。会いにきてもらわないと。手がかりだし。」

「そうだな。」

ヴァシュカは私の頭を撫でてがんばれ、と一言言ってくれた。

めちゃくちゃ嬉しい。

何でかな、ヴァシュカの言葉は胸に響く。

一番年上って感じがするからかな。

兄貴とも年ちかいし。

なんていうか、安心する。


 ジルにはまたいつかお礼をしなきゃだな。

私はジャックに手を引かれて、ソラリスの待つ家まであるいた。

ジャックは私が寝ている間ほとんどの時間をジルの屋敷の傍ですごしていたらしくて、ソラリスにまともに会うのは僕も久しぶりかもしれない、とか言ってた。

わざわざそこまでしてくれるジャックに、ひとまず感謝。


 まあいろいろあったけど、何とか今を生きてるし。

なんとかなる。

次はティアの話しを聴いて手がかりを探そう。


 前よりもすっきりした気持ちでそう思えるのは、ヴァシュカとか、ジルとか、ジャックのおかげかな。

みんなびっくりするくらい優しい人たちだから。

その優しさに、勇気をもらってる。

少し危うい勇気。

この優しさに浸り過ぎちゃ、だめなんだけど。

一線を超えないようにしないと。


 ここに残ってもいいのかもしれないと、錯覚しそうになる。


なんか上手くいかなかったので、ちょっとずつ修正するかもしれませんっ!!

ご了承ください。

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