31 精霊狩り
軽く残酷表現がありますので苦手な方はご注意を。
精霊狩りと呼ばれた三人は、若い男女だった。
暗くて顔はよく見えないが、全員青い髪と青い瞳をしているようだ。
背の高い長髪の男と、中肉中背の男、そして少しふくよかな短髪の女。
女は、ティアを見た後にヴァシュカを見て、
「あぁっ!?」
驚いたように声を上げた。
「ヴァシュカさま…?」
弱々しい声で、ヴァシュカを呼ぶ。
「ここ、ヴァシュカ様の宿舎だったのですか。そ、それは大変無礼を…!」
女はそう言って、頭を下げた。
「ヴァシュカ様。我々は、その精霊のチカラを欲しています。ご無礼を承知でお頼みしますが、その精霊を我らに」
「断る。」
女が全てを言い切る前に、ヴァシュカはそう告げた。
「この精霊は、俺の探し物の在り処を知っている。それを教えてもらうまでは、お前らには渡せない。」
探し物って…。
ヴァシュカは横目でちらりと私を見て頷いた。
ひょっとして、私の元の世界の話しのこと?
「主らのような小童どもが妾の行く道を決めるでない。」
ティアは呆れたようにそう言って、手を軽く振り上げる。
その動きに合わせて、私たちの方へ飛んできた扉の破片が浮き上がり、勢いよく精霊狩り達のもとに弾け飛んでいく。
「!!」
「し、守護霊の盾!!!」
長髪の男が叫ぶと、三人の前に大きな丸い半透明の陣が出た。
その陣が、破片を全て受け止める。
あれも魔法か。
「早う出て行け。妾はそう気は長くないぞ。」
ティアは鋭い眼で三人を制す。
「そういう訳にもいきませんて。ずっと探し続けて来たんだから!」
女が楽しそうな声で言った。
「ヴァシュカ様、あなたがそのおつもりでしたら、申し訳ありませんけど、こちらも遠慮は致しませんわ!」
「お前らが攻撃をしてくるのならば。俺は反撃をせずにはいられん。上手く避けてくれ。」
ヴァシュカはそう言って、どこかに忍ばせていたらしい拳銃を二丁取り出して、両手に構える。
私に目配せをして、
「耳を塞いでいた方がいい。出来たら目も、な。」
「ヴァシュカ…!」
軽く指で弾いて、銃のストッパーを外す。
「そこにいるのは一体誰なのかしら。」
女が、おそらく私に向けて、そう言った。
そうか、ティアがいまだに私の頭を抱きかかえてるから私の顔は見えてないんだ。
ひょっとして、ティアは私の身体を守ると同時に、私の黒髪を隠してくれてるのか。
そんなことを考えている間に、両方が動き出した。
精霊狩り達は、全員同じように手を上げて、振り下ろす。
すると水の玉が背後から大量にヴァシュカに向けて飛んでくる。
ヴァシュカは眉を動かすことなく、それらを全て銃で撃ち抜く。
水なので空中で霧散して、雫となって床に落ちていく。
水の玉を撃ち抜きながら、同時に攻撃も仕掛けていくヴァシュカ。
手の動きが見えないくらい速い。
水の玉に完全に対応できてる。
相手がひるんでいるのが分かるので、押しているのだろう。
半透明な陣で弾を防いではいるものの、威力が強いのかすぐに破れてしまい、隙が作れない。
ヴァシュカすごい。
ばしゅっ。
空気の抜けるような音と共に、精霊狩りの男が一人倒れた。
当たったのか…?
あんなに軽い音がするんだ。
そう思ったら、ぞくっとした。
銃って、あんなに…。
「だからあ奴は耳を塞げと言うておったのじゃ。耳を塞いでおれ。」
沢山の音の中でもよく通るティアの声が、私の耳に入ってくる。
私は大人しくそれに従い、耳に手を当てた。
ティアはそれを見て、
「アディゼウスの小僧。妾が手を貸してやろう。そうしたら動きを止めれるじゃろう。」
耳を塞いでいても、ティアの声はよく聞こえる。
ヴァシュカはティアの言葉にうなずいて、少し後ろに下がって水の玉を撃ち落すことだけに集中した。
ティアは空中に指で何かを描いて、息を吹きかけた。
すると、白っぽい光に紫の模様が浮かんだ球のようなものがふっと現れた。
ティアは軽い感じにそれを放り投げる。
その球は天井付近で静止して、弾けた。
弾けたところから半透明の幕のようなものが部屋の中を覆う。
それと同時に水の玉が全て床に落ちた。
精霊狩りたちが慌てて手を振っても、何も起こらない。
「な、なにこれ…!」
「主らが妾を相手にしようなどと、現を抜かすのも大概にせよ。格が違うのじゃ。」
ティアの言葉に、悔しそうに息を詰める三人。
「これは、魔法封じの魔法ね…。」
女がそう言って、下がり出す。
「悪いな。」
ヴァシュカは一言そう言って、女の足の側面を撃つ。
がくん、と倒れる女。
続けて隣にいた男も足を撃たれて倒れ伏す。
よく見ると、全員血が出てるのは足だけだ。
狙って撃ったのか…すごい。
そんなことを思っていたら。
最初にうたれた長髪の男が、ヴァシュカに向かってボウガンを構えていた。
「ヴァシュカ!」
ヴァシュカもそれに気付き、ぱしゅんという矢の放つ音と共に、放たれた矢に向けて銃を構える。
しかし。
ぐらりと、体が揺れた。
「くっ…。」
そうだ。ヴァシュカは熱が…。
私は耳を塞いでた手を外して、ティアを押しのける。
そのまま足に力をこめて跳ねるようにヴァシュカに飛びつく。
ヴァシュカの背中に手を回して、そのままひったくるように一緒に空中をすべる。
微かに足に痛みが走る。
矢がかすったらしい。
ずざーっと二人で滑って、壁に止められた。
ヴァシュカを見て、無事であるらしいことを確認。
「怪我、ない?」
一瞬の出来事に驚いたらしいヴァシュカは、数瞬言葉に詰まって、
「お前がけがをしているじゃないか…!」
私の足に気付いて声をあげた。
「あー…。」
本当にただかすっただけで、血もにじむようにしか出ていない。
大したことない。
「な…。」
倒れたまま、女が驚愕の表情を浮かべる。
「今、何が…。ていうか…。」
口を開けても声が出せず。
少しして、信じられないという表情のままで。
「黒い…髪?」
ふくよかな女の子は、ちょっとぽっちゃりしてるだけで可愛い子なんです。
あんまりブサな子をイメージしないであげて下さい(笑)