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28 ふたりの兄



 私は、昨日フォンに聴いた話をヴァシュカにした。

熱があって寝てなきゃいけない状況のヴァシュカに何してんだ、って自分でも思う。

それでも、ヴァシュカが何も言わずにただ聴いてくれたから、話さずにはいられなかった。

優しいヴァシュカに、聴いてほしかった。

そして。


 私の話を聴いたヴァシュカは、ただ優しく微笑んだ。

「そうだったのか。それは残念だったな。」

「うん。」

「でも、絶対に帰れないと決まったわけじゃないな、その話だと。」

「うん。」

「いい加減なことは言えないが、希望はある。」

「うん。」

「きっと大丈夫だ。」

そして。

こうして、大丈夫だ、って言ってほしかった。

「うん。」

だいぶ楽になった気がする。

なんの根拠もないけど、誰かに大丈夫だよって言われるだけで、安心する。


 「ごめん、寝てないといけないのに。」

「謝る必要なんてどこにもない。それとな、」

ヴァシュカは笑って、

「俺は帰る手伝いが終わった、なんて最初から思ってないぞ。」

そう言った。

「帰る姿を見送るまでは終わらない。もっと頼っていいんだからな。」

「ありがとう。」




 ヴァシュカが眠ったので、私は綺麗に畳まれたタオルを一枚濡らして、ヴァシュカの額に乗せた。

もともとイケメンなヴァシュカだけど、寝顔を見るとそれを再認識させられる。

めっちゃかっこいい。

熱があるから、っていうのも変だけど、余計いつもよりかっこよく見える。

美青年だよなぁ、本当。

こんな兄貴が欲しかったなぁ、なんて。


 もういちど冷たい水をくみ直しに外にでる。

日が傾き始めていた。


 部屋に戻って、ヴァシュカの額からタオルをとって水をしみこませてよく絞る。

ひんやりとしたタオルをヴァシュカの額に乗せて、食べ損ねていたお昼を食べた。

サンドイッチをかじりながら、ふとベットの横のサイドテーブルに目がついた。

テーブルの上には、メモ用の紙とペン。そして写真立てが置いてあった。

その写真立てを手にとってみる。


 写真の中には、今より少し若く見えるヴァシュカと、見知らぬ女性が写っている。

よりそって、仲の良さそうな雰囲気を写真をこえて私に伝えようとしているよう。

「きれいな人だな。」

美人、というよりも、周りの空気をきれいにしていくような人。

美しい人だ。

風に流されている長く青い髪から、さらさらとした空気が広がっている錯覚さえさせる。

写真越しに見てこれほどなのだから、実際にあったら圧倒されそうだ。

この人はヴァシュカの奥さんか、彼女さんだろうか?

友達という雰囲気ではないな。


 「この人に会ってみたいな。」

そう思った。

ヴァシュカが起きたら尋ねてみようか。


 私はサンドイッチを食べ終えて、ヴァシュカの額のタオルをもう一度冷やしてから、外に出た。

日は大分暮れ始めている。

ロッティのエサ箱らしき入れ物に、脇に積んであった藁を盛ってあげる。

ロッティは「てめぇこら調子乗んなよこらこれ食ったからってあんたに従ったりしねえぜヒヒーン」みたいな目で私を睨みながらもしゃもしゃと藁を頬張った。

私はロッティにものすごい嫌われてるようだ。


 中に戻って、ヴァシュカの布団を直したり、薬を片付けたりする。

美青年は、息苦しそうに眉間に皺を寄せて眠っている。

私は隣に座ってそれを見ながら、昨日のことをもう一度思い出した。

目を閉じて、ずぶ濡れで佇んているヴァシュカの姿を瞼の裏に映す。


 小学生の頃に、ばあちゃんから買ってもらったお気に入りのサンダルを履いて川で遊んでいたとき。

滑って転び、その拍子に脱げて流されてしまったサンダルを兄貴が取って来てくれたことを思い出す。

あのときの兄貴もずぶ濡れで、溺れかけたりして、それでも落ち込む私の為にとって来てくれたんだ。

小さなひまわりのついたオレンジ色のサンダルを掲げながら、濡れてしんなりした髪を頬に張り付かせて笑う兄貴が不意にかっこいいと思ってしまった、あのとき。

その姿が昨日のヴァシュカと重なる。


 「あーあ…。」

溜息をもらして、ヴァシュカの布団に頭を埋める。

目を閉じたまま、すべすべの毛布の感触を頬に与える。


 兄貴に、会いたいなぁ。





兄ちゃんに憧れます。

家で喧嘩しつつも兄ちゃんと遊んだりしてみたいですね。


実際に兄ちゃんがいる人は「あんなのいらないよー(笑)」とか言ったりしますけど、大人になってから意外と兄ちゃんがかっこいいと思うときがくるかもしれませんよ。

今回は、そんな感じの話にしてみました。


それでは、次回で何か展開があると良いです。

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