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24 フォン・コリック



 晩ご飯を食べて少し食休みしてから、私は物知りのフォンという人に会いに行くことにした。

ジャックはこれから仕事があるらしく、「明日じゃダメかな?」と言ってきたけど、一人で大丈夫だからと言って無理矢理諦めてもらった。

“いつでも帰れる”と思っているのと、“いつ帰れるのか分からない”って思ってるのとではだいぶ違う。

今は帰れなくてもいいけど、帰れる方法がもし分かるのなら早めに分かっておきたいんだ。

ジャックが一緒に行けないのは残念だけど、ジャックに迷惑をかけまくっているのだから、むしろこれくらいでいいんじゃないだろうか。

ソラリスについてきてもらう訳にもいかないし。


 ジャックに地図を書いてもらった。「夜の道は迷いやすいから」と、とても細かく書いてくれた。ありがたい。

「朝になったら座標が変わっちゃうからね。夜明け前には帰って来てね。」

ジャックが心配そうに言ってきたので、私は素直に頷いて帽子を被った。

地図と日記帳、そして前に書いてもらった紹介状を持って、家を出る。

玄関まで送りに来てくれたソラリスに手を振って、地図の通りに歩き出す。


 村から出てしばらく進んだところで、朝にはしゃぎまわった広場に出た。

似たような場所なのかと思ったけれど、朝に私が抉った地面には見覚えがある。

ここは確かにあの広場だ。

夜の座標の変化。

こうしてみると、パズルみたいだな、と思った。

スライドして絵を動かすパズル。あんな感じだ。


 それから地図の通りに進んでいくと、森の入り口にたどりついた。

しばらく家や人を見かけなかったので不安になってきていたのだけれど、ちゃんとあった。

筒状の家。

飾り気のない家だったけど、筒状というのが、ジャックが言っていたフォンという人の家の特徴と一致しているのでここで間違いないだろう。


 私は家に近付いていって家のドアをノックした。

分かってはいたけれど返事はない。

「あのー!あなたに聴きたいことがあって来ましたぁ!あの…あの人の…名前忘れちゃったけど支部長の紹介状もあるけど!」

なるべく中に聞こえるように大きな声で叫んでみた。

返事はない。

まあ、予想通り。

「異世界から来たんだけど、帰り方とか分かりますぅ?」

返事はない。


 ううむ。

なんでも、興味を持ったことに関わること以外では行動を起こさない人らしいしなあ。

でも、そんな人だったら異世界から来た私に会いたがるんじゃないか。

信じてないのかな。

「異世界から来たのは本当だよ!私がいた世界には魔法なんてなかったんだよ!」

とりあえず、この世界と違うところを言ってみよう。

「私がいた世界はね、“魔法”じゃなくて“科学”の町だったの!ここにはないんだけど、テレビっていう映像が見れるものとか、冷蔵庫っていう食べ物や飲み物を冷やすものとかがある世界!」

反応はない。もしかしていないのだろうか。

とりあえずはこの大きな独り言を続けてみよう。


 「馬車もあったけど、車をよく使ってたんだ!あと飛行機っていう、何千人の人を乗せて空を飛ぶ乗り物もあるし!」

あと違うなって思ったことは…。

「ああ、そうだ!武器はね、刀も剣も銃もあったけど、爆弾とか戦車とか、威力の強いものもあったんだ!爆弾は電気とか薬品とかで作るらしいんだ!戦車は、さっき言った車に大砲がついてて」

「入室を許可しましょう。」

唐突にドアが開いた。

驚いて思わず黙ってしまう。

 

 立っていたのは、幼い少女だった。

ソラリスよりは少し上、といったところか。

紫がかった透明な髪に、ガラス玉のように美しい青の瞳。

どうやって着るのか分からない形の服の上から白衣を着ている。

「気を引くための戯言(たわごと)かとも考えましたが、どちらにしても“科学”というものには興味を惹かれました。眠りを妨げられたことも許しましょう。久しい来客です。歓迎いたします。」

少女はそう言って家の中に入っていった。

私は言葉を発せないまま、黙ってその後ろをついていった。


 「フォン・コリックに用件があったのですね。」

「あ、ああ、うん。」

一階と二階にはそれぞれ一部屋ずつしかなかった。たぶんこの上もそうなんだろう。

階段をあがって、二階の部屋に入る。

私は座るように言われたきのこみたいな形の椅子に座って部屋を見回す。

壁中に変な模様やレポートらしきものが張り巡らされ、机の上には大量の本とペンや定規、コンパス、液体の入ったフラスコなどが散乱していた。

これほど散らかっているのに、「汚い」とは思わない。

すごい。

頭の良い人の部屋って感じがする。


 耳の上で二つに結んだ柔らかそうな髪をゆらして床に積み上げられた本をあさる少女。

その後ろ姿を可愛いなぁ、と思いながら見ていると、

「それは自分のことです。」

とか言ってきた。

「え?」

「自分が、フォン・コリックです。」

まじでか。

私はフォン・コリックというのは男の人だと勝手に思っていた。

しかもおじさんだと思っていた。

気難しい研究者と言うものだから。


 ん?

そういえば前にヴァシュカが…。

―――ちなみに噂だとここ二十年くらいは誰も姿を見ていないらしいぞ。

ヴァシュカの言葉を思い出して、もう一度フォンを見てみる。

「……。」

どうみても少女だ。

「二十年間誰も会ったことがないって聴いたんだけど…。」

「そうですね。十九年と百三十日は他人と対面していないと記憶しています。」

フォンは埃の被った本を手にとって、息を吹きかけながら無表情に言った。


 フォンは私をちらりと一瞥して、慣れているような調子で話す。

「自分の容姿に疑問を抱きましたか。こう見えても200年は生存してます。」

「にひゃくっ!?」

「正確に申しますと、213年と301日ですか。」

ぱらぱらと本をめくりながらそう言って、こちらに歩み寄って来た。

「自分のことに興味はありません。貴殿の名前は?」

「あ、七夕…。ナユでいいよ。」

「了解しました。それではナユ様。失礼します。」

フォンはそう言って、私の被っていた帽子を取り上げた。うわっ。

「珍しいですね、黒い頭髪ですか。瞳もですね。」

フォンは本を片手に頷くと、帽子を机の上に置いて羽ペンを手にして興味深そうに見つめてきた。


 「ナユ様の世界の人間はみな黒髪なのでしょうか。」

フォンは私の髪をつまみながら尋ねてきた。

「いや、みんなじゃないけど…。別に珍しいものでもなかったよ。」

「そうでしょうね。」

さらりと言うフォン。

知っていたかのような口ぶり。

「ああ、先に言っておきましょう。」

フォンは片手に携えた本に何かを書き込みながらまたもあっさりと言い放った。

「自分は、ナユ様の元の世界への帰還の手助けをすることは不可能です。」






やっと登場です、フォンちゃん。

ひょっとしたらまだまだでてこれないんじゃないかと不安でした。


フォンちゃんはきっと美少女ですよね!!!

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