表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
24/80

23 紳士



 少し走る予定だったけど、思っていたよりも長く走ってしまった。

ジャックは好きなだけ走っていいよ、と言ってずっと付き合ってくれたので、お言葉に甘えて好きなだけ走った。

宙返りとかハンドスプリングとかしながらはしゃいだりして芝生の上を自由に動き回ってみた。

身体が軽いので、空中三回転とかは楽々できる。

ただ力加減が分からないので、勢い余って転がることも何度もあった。(その度にジャックが慌てて駆けつけてきた。受け身もとってるし下は芝生だから大丈夫なのに…。)

でも、だいぶ体が慣れてきたのですっごい楽しい。

やっぱり全然疲れない。

なので時間がだいぶ経っていることに気付かなかった。


 いつの間にか太陽は真上に上っていて、昼時に近くなっていた。

「ご、ごめん!つい!」

「ああ、いいよ。ソラリスは留守番に慣れてるからね。」

ジャックは私が満足したことを確認すると、私の髪についた草や、肩についた砂を払ってくれた。

それから二人で家に帰ることにした。




 家ではソラリスが簡単な昼食を用意して待っていてくれた。

「あれ、おにいちゃんと一緒だったんだ。」

ソラリスはそう言って、私に飛びついて来た。

「どこ行ってたの!」

「あ、裏抜けたとこの広場。」

「もう!書置きくらいしてよう!」

「私の字読めないでしょ?」

私はソラリスの頭を軽く撫でて謝った。

ソラリスは不満げにしていたけれど、ジャックが私の走りがすごかったという話をし始めるとすぐに機嫌を直した。

「おねえちゃん速いでしょ!一昨日はもっとすごかったんだよ!」

なんて嬉しそうにジャックに話していた。


 お昼を食べ終わったら、ジャックが買い物に行こうと言い出した。

私とソラリスはそれを喜んで了承して、出かけることにした。

帽子を被って、スカートは動きにくいのでと言って、ジャックに洋服を借りて着た。

七分丈の黒いTシャツの上から、白のポロシャツを着て、カーキ色のズボンを履く。更に髪を帽子の中にしまうと、見た目は男子みたいだった。

でもこっちの方が都合はいいかもしれない。




 一昨日ソラリスと訪れたルマーレ市場。

沢山の人がにぎわっていた。

「荷物持ちなら任せて!」

とジャックに言うと、

「ありがとう。」

という言葉と共に饅頭みたいなお菓子を渡された。

おいしいから食べてみて、と言われて一口食べてみたらすごく美味しい。

外はもちもちした生地で、中にはオレンジ色のジュレが入っていた。甘いのはこれか。

ソラリスも一緒にそれを食べて、美味しい!と顔をほころばせていた。抱きしめてやりたい!

ジャックは一人お菓子を食べずに、果物や野菜を買って歩いていた。

「いらないの?」

と訊いたら、

「それはナユとソラリスの荷物だよ。ちゃんと持ってて下さい。」

と笑われた。

何だそれかっこいい。


 そのあと、ジャックは魚を何匹か買って、新しいおやつを私たちに買ってくれた。

わたがしみたいなピンク色のふわふわしているやつで、食べてみるとひんやりしていて甘い。

どれも美味しいなー、と思いながら私は荷物持ちを堪能していた。


 「おい!困るぜ嬢ちゃん!」

三人で歩いて、市場の中間あたりまで来たとき、どこかから怒号が聴こえてきた。

「す、すいません!」

右側の屋台で、りんごみたいなものがばらまかれていて、女性が店主に謝っているところだった。

「もう売り物にならん!全部買い取ってもらおうか!銀貨12枚だ!」

「そんなっ…!」

私はこの国のお金のことには詳しくないけど、それが高いということは、女性の反応で分かった。

ぼったくってるのかな。


 「酷いな、あれくらいだったら全然売り物になるのに…。」

ジャックがそう呟いたのが聴こえた。

「銅貨10枚がいいところだよ。」

ソラリスが続けてそう言った。

私は少し考えてから、お店に向かって行くことにした。

ジャックに呼び止められたけど、気にしないことにした。


 私が近付いて来たことに店のオヤジと女の人はすぐに気付いた。

「なんだ、お前。」

オヤジが訝しげに睨んでくる。

「まあまあ、こんなに謝ってるんだし、許してあげてよ。」

私は女の人の前に出て、憤るオヤジをなだめるように手をひらひらさせる。

「売りモンを台無しにしてきたのはそっちだ!」

「まだ食べれるでしょ。台無しになんかなってないよ。」

「じゃあお前が買い取るんだな!」

ちっ。

めんどくせえな。ぶん殴って黙らせてやろうか。

私は心の中で舌打ちをして、目の前の親父をどう黙らせようか考えた。

後ろの女性がおろおろしているのがわかる。

どうでもいいけど、ここの市場はこういう争いごとが多いのだろうか。


 「おい!買うのか!買わねえのか!」

「ちっせえな!商品落としたことぐらいで怒ってちゃあ女も寄ってこねえぞ!」

あ。

つい言い返してしまった。

考えてるとこにぎゃんぎゃん騒いでくるから。もう。

「な、んだとこの野郎!」

女も寄ってこないっていうのが地雷だったのか、顔を赤くして殴りかかってくる店のオヤジ。

避けようとして、後ろに女性が立っていることを思い出した。

ああ、避けらんないじゃん。


ぱしん。


 棒立ちしている私の鼻の先で、オヤジのこぶしが止まった。

オヤジが目を見開く。

「ナユに手をあげることが、どういうことか分かってるんですか。」

ジャックだ。

オヤジの腕を掴んで止めている。

勢いがついていた拳を片手だけでぴたりと止める力の強さに感心した。

「そちらの女性が落とした果物は、僕が銅貨7枚(・・・・)で買い取りましょう。それでこの話は終わりです。いいですね?」

「ジャック…さん…。」

オヤジは驚いたように口を開けて、ジャックを見ていた。


 「ごめん。」

「いいよ。果物が安く買えたから。」

そう言って、ジャックは笑った。

「あそこで行かなかったらおねえちゃんじゃないよ。」

と、ソラリスも笑った。

オヤジは、りんご(?)13個を銅貨7枚で買い取ることをすぐに了承した。

それが大損なのは表情で分かったけれど、オヤジはジャックには逆らえないらしかった。

あのオヤジがへこへこしているのを見るのは、それはそれで面白かった。

女性はお礼を言って、ジャックが渡したりんご(?)を4つ持って何度もお辞儀をして去って行った。

ジャックは紳士だなぁ。

本当は避けなくてもオヤジの拳を受け止められる自信はあったんだけど、良いものが見れたので殴ったりしなくてよかったなぁ、と思う。


 帰りの道を歩きながら、私はジャックを少し盗み見て、にやっとしてしまった。

そんな私を見て首をかしげるジャック。

両手には今日買った食材がたくさん収まっていた。

結局荷物は全部自分で持っていたな。

オヤジにまっすぐ、とげのある言葉を言い放つジャックが、すごくかっこよかった。

さりげなく守ってくれるところも、ね。




ジャックがかっこいいな、っていうお話でした。

ソラリスが雑な扱いになってきている・・・気をつけよう。


そろそろヴァシュカが戻って来てくれるとありがたいなー、と思います(笑)

それでは次回!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ