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21 紫色の魔法

 ソラリスを迎えに行くと、まず「遅いよ!」と怒られた。

ジャックと二人で謝ってむくれるソラリスをなだめてから、おばちゃんにありがとうを伝えて三人で帰った。

ジャックはそれからしばらくジルにお酒を飲まされたことをソラリスに怒られていた。

「おにいちゃんは王子さまにすぐのせられちゃうんだから!」

「いや、でも殿下のお酒を断るわけには…。」

「おにいちゃん、もしおねえちゃんが襲われたときに、泥酔してましたなんて言ったら怒るよ。」

ソラリスは真面目な感じに言う。

そんな大げさな、とちょっと思ったけど口をはさめる雰囲気ではなかったので何も言わないでその様子を見ていた。

 「プライドなんてどうでもいいでしょ。お酒が飲めるからって人を守れるの?」

ジャックはソラリスの言葉に何も返せないでいた。

ソラリスは大人だなぁ。


 その話が大体終わったところで、私が持っていた日記帳にソラリスは興味を示した。

「おねえちゃんそれ、王子さまに貰ったの?」

「ああ、うん。」

「見せてー。」

私は革製の日記帳をソラリスに渡した。

ソラリスは興味深そうに眺めまわして、わぁとかすごーいとか声を上げる。

「おねえちゃん。この日記帳はね、城下町にある貴族のお店に売ってるやつだよ、多分。記録の魔法がかかってる。」

「?」

「いい日記帳なの!ページの枚数を気にしなくていいんだよ。書いたら自動的に記憶されて文字が消えるの!」

「消えたら読めないじゃない?」

「開く前に、いつ書いたやつを見たいかを頭の中に思い浮かべると文字が出てくるんだよ!じわーって。聴いた話だけど、これは多分それだよ!」

ソラリスは目を輝かせて言う。

そういえば王子さまの魔法はすごいって前にも言ってたな、ソラリス。

これはそんなにすごい物なんだな。

改めてジルに感謝。


 それからソラリスは机に日記帳を置いて、表面を指でなぞった。

「一番すごいのはこれ。」

ソラリスは興奮した様子で話す。

これ、と言われても。

「この表紙の紫の模様。これはすごいよ!」

「こういうデザインなんじゃないの?」

「違うよ!これはね、この日記帳に誰かが上から魔法をかけたんだよ。王子さまかな。すごい高度な魔法だよ。工程も仕組みも分からないけどすごい綺麗にできてる。何の魔法なのかは分からない。」

「ああ、そういえば…。ジルがこの日記帳におまじないをかけたって…。」

「やっぱりこれは王子さまがやったんだね!すごいなぁ!こんな魔法、一般人だったら扱えないよ!純粋で、強くて、綺麗で、細かくて…!紫っていうのもすごい!」

すごいすごいとはしゃぐソラリスに、何故だか私も誇らしく思う。

ジルはすごい奴なんだな、と思ったら友達として嬉しくなった。


 ジャックがソラリスの説明の補足をしてくれた。

「ジェルズドリアの魔法は大まかに七つの属性に分けられるんだ。水・火・大地・風・光・闇・思慮、の七つ。それにはそれぞれ青・赤・緑・銀・金・黒・紫の色に分けられる。この日記にかかってる魔法は思慮の魔法。」

ジャックはさっきソラリスから何やら薬をもらって飲んでいたので、酔いがだいぶ醒めているようだった。

「思慮の魔法は他の属性とは違って、得手不得手がない代わりに人にしか操れない。その人の想いの強さで魔法の強さも変わるものなんだよ。でもそれを扱うのは結構難しいんだ。覚えることや使うことは難しくないんだけど、保たせるのが難しい。繊細な魔法が多いからね。すぐに壊れちゃうんだよ。」

ジャックはそう言ってから、日記帳を軽く指ではじいた。

「殿下は魔法に長けている方だからね。この魔法は素晴らしいものだと思うよ。僕はソラリスほど魔法に詳しくないけど、この魔法がよく出来てることは分かる。」

へえ。

嫌そうだけど、ジャックがジルを褒めた。

ジャックが認めずにいられないってことなのかな、ジルの魔法のすごさは。

私はもう一度日記帳を眺めてみた。

説明を聴いてから眺めると、なんだかものすごいものに見えてくる。

ものすごい物って、曖昧過ぎるけどね。




 その後、ジャックは寝よう、と言って自室に戻って行った。

私はソラリスと一緒に部屋に戻って、ジャックが制服と一緒に用意してくれたパジャマに着替えた。

「ねえソラリス、ペン持ってない?」

「うん、ちょっと待ってね!」

ソラリスはベットの横にあるチェストから一本の白い羽みたいなのを取り出して渡してきた。

先がとがっているそれは、どうやら羽ペンのようだった。

「羽ペンか…。初めて見た。インクとかはいらないの?」

「インクは必要ないけど…。おねえちゃんの世界には羽ペンが無かったの?何で文字を書いてたの?」

 私はベットに座って、膝の上で日記帳を広げる。

最初に「異世界生活三日目」と書いて、それから今日のことを書いた。

ヴァシュカとジャックと三人で他愛もない会話をしたことを書きながら鉛筆の話しやシャーペンの話しをソラリスにしてあげた。

ソラリスは横になったまま面白そうに私の話しを聴いていた。

ジルが来たこと、ジルとお兄さんの話し、ジャックがお酒に弱かったこと、別れ際に渡された日記帳の話し、印象に残った言葉。今日の出来事を簡単にさらさらとまっさらな白い紙に記していく。

インクの使わない羽ペンはどうやら魔法で出来ているらしく、ソラリスの言うとおり、インクが無くても青い文字が白い紙の上に滲んでいく。


 書きながら、ボールペンや筆、チョークやクレヨン、マーカーペン、ポスカの話しをすると、ソラリスは楽しそうにそれを聴いていた。

「筆はここにもあるよ!チョークっていうのはここにも似たようなのがあったなぁ。おねえちゃんの世界にあるチョークっていうのは何で出来てるの?」

「んー?なんだろ…たまごの殻だって聴いたことあるけど…。」

「たまごの殻?フェニックスとかジャバウォックとかの?」

「いや、普通に鶏じゃないかな。」

「にわとり?」

どうにもこの世界には鶏がいないらしかった。

普段普通に使っている筆記用具をどうやって使うのかとか、どういう風に作られているのかとか訊かれると、意外に答えられないことを知った。


 私は日記の最後に今日行ったジルの屋敷の見取り図と、そこまでの行き方を朝バージョンと夜バージョンで分けて簡単に書いてから日記帳を閉じた。

もう一度開くと、文字は全て消えていた。

すごいな、と感心。

それから日記帳を枕元に置いて布団にもぐる。

ソラリスが眠るまで、シャーペンの構造を思い出しながら説明したりした。

ソラリスが寝息をたて始めたので、私も寝ることにしよう。


 そっと額に触れてみる。

ジルとは今日出会ったばかりなのに、なんだかずっと一緒にいたような錯覚がする。

また会いたいな、と思ってしまう私はジルのまじないの術中にはまっているのかもしれない。



   - 三日目終了 -



ジルが目立ってしまいましたね(笑)

長かった三日目も終わり、次回からは四日目です!

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