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18 黒魔女


 それからしばらくは談笑しながらジルと普通に食事を進めた。

構えなくてもいいって言われたし、構えてても意味ないからね。

食事は全部美味しくて、ジルも話し上手で聴き上手なので、話していても楽しい。

寝こけているジャックは、デコットが軽々と持ち上げて近くのベットルームに持っていった。

大丈夫かなーとも思ったけど、ジャックだったら平気だろ、と適当に納得して気にしないことにした。


 デザートの苺のムースケーキが運ばれてきたところで、ジルが人ばらいをする。

メイドさんたちやコックさんたちは一礼して部屋を出て行った。

そろそろ本題か。

「まず、確認があります。」


 ジルはそう切り出した。

私はムースケーキを一口食べながらふんふんと頷く。

うわ、これウマ。

「あなたは『黒魔女』ですか?」

「質問の意味と内容が理解できないんですけど。」


 黒魔女?

あのデッキブラシだかモップだかで飛んでる女の子か?

私は黒マントも黒い服も着てないけど。

バカには見えないなんたらも着てないつもり。


 「『黒魔女』と言うのは、ジェルズドリアの神話に伝説の魔女として語り継げられてる最強の魔法使いです。」

ジルは私を探るように見て、言う。

「私魔法使えないけど。」

「それは分かりません。ナユ殿からはしっかりと魔力が感じられますので。使えないとは限りませんよ。」

「ふうん。じゃあ、私がその『黒魔女』だったら世界を滅ぼしたりできるの?」

「不可能ではないでしょう。」

ジルはにっこりと微笑む。

その笑みに何の意味が込められているのか。

私には計り知れない。

なので考えることを放棄してみる。


 「まあ、その場合は私が全力で止めますけど。」


 笑顔できっぱりと言い放つジルを見詰める。

完全に本気の目だ。

殺意すら感じ取れる気がする。

あー、やだやだ。


 「滅ぼしたりなんかしないっての。無意味なことはしない主義。」

残りのケーキを全部舌の上に放置させる。

甘いムースが舌の上で姿を消していく。

まだ疑り深くこちらを見てくるジルにあえて微笑んでみた。


 「…、……信じましょう。」

深く息を吐きながら短くジルは言った。


 それから真顔で私を見る。

「私がナユ殿を『黒魔女』ではないかと思ったのはその髪ですよ。」

ジルは自身の髪をいじってみせる。

「黒き髪を持った少女。そんな少女が生まれていれば、隠し通せるはずがないんです。ましてや、ナユ殿の齢になるまで生を保つなどと、本来考えられません。」

ジルは右手でフォークを弄びながら、軽く視線を外す。


 「そこで考えられることは…。強大な魔力で今までその存在を隠していたのか…。」

そこで一度言葉を途切れさせる。

人差し指と薬指の間に挟めていたフォークを胸の位置にまで上げて。


 「他の世界からやってきたのか。」


 自らの皿に佇むブルーベリータルトに突き刺す。

かきぃ、と耳障りな音が響いた。

ジルはにこ、と微笑む。

私は少し考えた後、開き直るように笑った。


 「…なんですか?」

「いや、さすが王子さまだなーって。」

手のひらを軽く合わせて、ごちそうさまをする。

ジルはそんな私を戸惑うように見詰めてくる。


 私はそんなジルを見てさらに笑ってしまった。

ぽかんとするジルはすごく可愛らしい顔をしていた。

「まあ、ね。その通りかな。私は違う世界から来たよ。トイレ経由でね。」

「…トイレ?」

「ああ、いや。そこはまあ、どうでもいいんだけど。」

背もたれにもたれて、私はジャックやヴァシュカに話したことと同じことをジルに話した。


 ジルは全部聞いた後、何かを考え込むように黙り込んだ。

やがて口を開いたかと思うと、

「つまり、それが『黒魔女』の資格なのでは?」

なんて馬鹿げたことを言ってきた。

「いやいや、違うっしょ。」

私は適当に返事を返す。


 「いえ、分かりませんよ。やはりあなたは『黒魔女』なのではないですか?」

「だからさ。私のいた世界では魔法自体が無かったんだってば。」

「しかしナユ殿の身体能力は…失礼ですが異常ですよ。この世界に転移してきた時点で、ナユ殿は『黒魔女』の力を受け継いでいるのかもしれません。」

ジルは目を輝かせて言う。

私に希望を寄せて。

私に希望を乗せて。

縋るように。

ジルは言う。


 私は少しずつ冷めていく感情を隠そうともせずに、ジルに問う。

「仮に私が『黒魔女』だったら、ジルはどうするの?」


 ジルは笑顔で、

「過去を書き換えて下さい。」

と言い放った。

そしてそのまま、


 「兄の生まれなかった世界へと、過去を書き換えてほしいのです。」


弾むように、歌うように。

上機嫌にそう言った。



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