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09 『玉』

この話には残酷表現が含まれています。

苦手な方はご注意ください。

 図書館とやらは思ってたより大きかった。

もしかしたら東京ドームよりもでかい。

すご…。

感動している私に、ジャックはここは世界一大きい図書館なんだよ、と補足してくれる。


 しかし、周りに張られている広告や案内板を見た限りだと、私はこの世界の文字が読めないらしい。

何か調べてみようと思っていたのに、これでは無理そうだ。

ジャックにそう伝えると、「セノルーンの言葉だからかなぁ…。」と少し思案してくれていた。

やっぱり良い人だよなぁ。

「やっぱり本部とやらに…「それは駄目。」

僅かな希望をばっさりと切り捨てられた。


 髪は帽子で上手く隠して、私はジャックについて来たんだけど、結局作戦本部に立ち入らせてもらえるような上手い案は考え付かなかった。

まぁ、そもそも好奇心だしね。


 「ジャック。」

いきなり名前を呼ばれて肩を跳ねさせるジャックの横で、私は声をかけてきた人物に目をむける。

「ヴァシュカ!」

ヴァシュカはジャックの反応に苦笑して、右手を軽く上げた。

「来たのか。」

「うん。わがまま言って連れてきてもらった。でもねえ。」

私がここの本は字が読めないのだと伝えると、ヴァシュカは手伝いを申し込んできた。

さすがにそれは悪いと思うので、丁寧に断って。

本を一冊読むのはけっこう時間や労力がいるものだ。

それを他人にやらせるのは気が引ける。

とくにヴァシュカのような良い人には。


 あー、とヴァシュカは言いにくそうに私にちらりと目線を送って来た。

ん?と私よりも背の高いヴァシュカを見上げる。

「…靴は。」

「ああ、これ?」

私は履いているくるぶしほどのブーツを見下ろす。

「ジャックに借りた。」

「そうか。」

ま、明らかにそれが本題でないのは丸わかりだ。

「何?」

仕方が無いのでこちらからうながしてみる。


 「いや。実は言おうと思っていたのだが…。その、帰る方法が、皆無…という訳ではないんだ。」

私は気まずそうなヴァシュカに、目線で続きを促した。

その感じからしていい方法じゃないことくらいわかるので、気分はあがらない。

「ただ、その方法はあまり薦めない。」

「でしょうね。」

私の軽い受け答えに、ヴァシュカはやや目を見開いた。

「帰りたいんじゃないのか。」

「帰りたいよ?でも、ヴァシュカが薦めない帰り方で帰るのは無理かな。いい方法じゃないんでしょ?」

ヴァシュカは目頭を緩く下げて、頷く。

信用してくれてるんだな、と小さく呟いて話し始めた。


 「この世界での戦争の話しはもう聞いたか?」

「組織に分かれてるとこまでは。」

「何故戦争が起こっているかは。」

そういえば知らない。

「理由のない戦争なんてないもんねえ。」

ヴァシュカは頷いて、蒼い瞳をまっすぐに私にむける。


 「『(ぎょく)』を探しているんだよ。」

「『玉』?」

何それ。美味しそう。

「『玉』ってのは…、その命に力を宿す存在だよ。」

横から、ジャックが説明を入れてくる。

チカラってアバウトな…。って笑うわけにもいかないけど。

「願いを何でも一つ叶えられるんだ。でも、『玉』は“誰”なのか、どこにいるのか分からないんだ。」

「『玉』って人なの?」

「ああ、今現在存在する『玉』は6人とされている。」

今度はヴァシュカが私の質問に答える。

ああ、なんか私が覚えの悪い生徒で、補習の時に先生が二人ついて付きっ切りで教えないと理解してくれない問題児みたい。

「いつ『玉』になるのかもわからなければ、『玉』本人ですら自らが『玉』だということを知らないらしい。」


 なるほどね。

「つまり、その『玉』様だったら私を元の世界に戻せるかもしれない、と。」

「まぁ、そうだが…。それには、『玉』の命がいる。」

「…殺さなきゃいけないってこと?」

理解力が追いついてきてしまってる私が嫌だった。

「…そういうことだな。」

ヴァシュカは重々しくうなずいた。


 「じゃあ。」

じゃあ。

「クルネルは、『玉』かどうかも分からないのに、確かめるために?私利私欲のために?そんな理由で殺されたわけ?」

私は頬が熱くなっていることに気が付いていた。

怒りが沸々と込み上げてくる。

「信じらんない…!」

「僕達もおなじだ。」

ジャックは低い声で言った。


 「憤りを感じている。だから、僕ら【一角獣(ユニコーン)】の人間は戦線から離脱してる。それでも狙ってくる人は多い。僕らの中に『玉』がいる可能性だって大いにありえるからね。」

だから僕ら戦闘部隊がいる。眉根にしわを寄せてくわえてそう言うジャック。憤っていることなど、言葉にしなくてもわかった。

そんな姿を見て、不謹慎にもかっこいいな、と思ってしまった。

「そんな方法で、帰るのは、薦めない。戦争に浸ることになる。」

ヴァシュカは溜息まじりにそう言った。


 もちろんだ。

そんな方法で帰れるものか。

人を殺そうものなら、お母さんにぶっ殺される。

「ナユがそう断言できる人で良かった。」

ジャックはしかめていた眉間をゆるめ、微笑む。


 「最終的にはもちろん帰るけど。帰るための手段は他を探す。」

私はそう言って、笑顔を返した。

「ここで一生を終えるのも嫌だし、何十年もしてから帰って友達が大人になってるのもいやだけど。

ここには食べ物もあるし、寝床もある。それに、味方がいる。」

私は自分の言葉に、主人公みたいなこと言ってるな、と少しおかしくなった。

今はただ、生きてる。それでいい。

ここまでこれたんだから、帰れるはずだ、と勝手な根拠をつけて。


 それに。

「この世界でやることも出来たしね。」

私の言葉に、ジャックとヴァシュカは首を傾げる。


 私はこの世界の戦争を、終わらせてやる救世主になろう。


 この世界の歴史に刻まれるような、でっかい人間になってやろう。

何にも知らない世界でこんなことを思うのは、きっと無謀なことだけど。

魔法とかが存在するメルヘンな世界だぞ?

漫画みたいなこと思っていいじゃん。


 恥はこの世界に置いてっちゃえばいいんだから、今は正義を振りかざしてみよう。

「「力を貸そう。」」

ジャックとヴァシュカは、同時に笑って言った。


 イケメンが言うと絵になるよね。

自信つくし。

んじゃあ、すっげー頼りにしてます。



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