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愛されギフトが好きな人にだけ効かない

作者: 二上たいら
掲載日:2026/10/15

「好きだ! 俺と付き合って欲しい!」


 昼休み、そんな声が学校の校舎裏に響き渡る。


 うん。告白されると思ってたよ。

 それは知ってた。


 だけど絶叫告白されるというのは想定外だ。

 だってわざわざ手紙で校舎裏に呼び出されたのだから、こっそり、ひっそりと告白するもんだと思うじゃない。

 これまでは大体そうだったし。


 地味で冴えない私が言うのもなんだけど、私はモテる。

 高校に入ってから告白された数はもう二桁の、多分真ん中より上くらい。

 全校生徒が300人くらいだから、男子の半分くらいからは告白されたことになる。


 すみません。嘘つきました。

 学外の人からも告白されまくっているので、この学校の男子に限れば2割くらいだと思う。

 ホント言うとわかんないな。

 告白された回数を数えたりしてないし、相手のことも全部は覚えていない。


 もちろん告白を受け入れたことはない。

 彼氏がいれば流石にこんな連日のように告白されたりはしないだろう。


 ……だよね?


 そんな私だからさ、いくらサッカー部のエースで、全国からスカウトが来てる、えっと、深山(みやま)くんだっけ? だとしても振られる前提で来てると思うんだ。


 だから告白は誰にもバレないようにこっそりと、私が誰から告白されたとか言いふらさないことは校内に知られてるだろうし、振られたとしてもそのことは他人に知られないようにすると思ってた。


 だけど深山くんの部活で鍛えられた声量は校舎裏に留まるようなものではなかった。


 なんだなんだと校舎裏に面した廊下に人だかりが出来てく。

 深山くんと私の姿を認めて、みんな興味津々のようだ。

 三桁切りも見えてきた鉄壁女と言えど、将来有望なサッカー選手ならあるいは、と目を輝かせて行方を見守っている。


 人だかりが出来ているのは1階だけじゃなくて、2階3階の廊下もだ。

 かつてないほど無数の視線を感じる。


 なんだこの公開処刑。


 そして処刑人は私だ!


「ごめんなさい!」


 負けじと声を張り上げて私は告白を断る。

 こういう時は曖昧な態度が一番良くない。

 はっきり、すっぱり、きっぱりと脈が無いと伝えることが肝心だ。


「深山くんを好きになることは金輪際ありません!」


「そっか。……そっかー。ちなみに俺は深水(ふかみ)です」


 しょんぼりと肩を落として深山くん……じゃなかった、深水くんは私に背を向ける。

 読み方は全然違うけど、漢字だと惜しかった。


 どんまい! 深水くん!

 名前は覚えたよ。

 なんの慰めにもならないだろうけど。


「校内50人切りおめでとー」


「サッカー部全滅のほうがお祝い感あるよ」


 深水くんを振った私がどうしてか大喝采を浴びつつ、自分のクラスに戻ると、クラスメイトたちがそんな風にお祝いしてくれる。


 私が把握してない振った相手を皆はどうして把握しているのだろうか。


 女子たちに抱きしめられながら私は皆の情報網に恐れを抱いていた。


 二度目になるけど、私は地味な冴えない女だ。


 もっさり髪を左右でおさげにして、厚めのメガネ、制服は校則通りにボタンはきっちり、スカートは膝下まで。


 素材がいいと皆が言う。

 まあ、それはちょっと自分でも思う。


 顔立ちに狂いが無いのだ。

 どこをとっても文句の付けようがない。


 髪に櫛を入れて、メガネをコンタクトに変えたらそれだけで映えると思う。

 だけどそんなことはしない。


 だって現状でもこの有様なのだ。

 こんな私が見た目に力を入れたらどうなると思う?


「傾国だね」


 放課後の帰り道で幼馴染みに愚痴ったらそう返ってきた。

 はは、笑えない。


 私がモテるのにはカラクリがある。

 3年前、世界はゲームに変わった。

 恋愛ゲームじゃなくてポケ○ンみたいなヤツ。


 世界中の動物が愛らしい? キャラクターに置き換わりはしなかったけれど、私たちすべての人類が自分の能力値や特殊技能を感じとれるようになった。


 ダンジョンが発生したとか、社会構造が変わったとか、人が死んだとか、魔法が使えるようになったとか、そういうのは高校生の私たちにはどうでも良くて、ただ自分の性能が自分にだけはわかるようになって、そしてその性能をレベル上げという手段で底上げできるようになったことで、なんというかそれまで曖昧だった序列のようなものが可視化されてしまった。


 能力値が高いほうが偉い。

 レベルが高いほうが偉い。

 特殊技能(スキル)を持っているほうが偉い。


 そんな序列の中で、どうやら私はとてもとても珍しい祝福(ギフト)というものを持っているらしかった。


 祝福(ギフト)の名は[愛し子]

 その性能は『条件を満たした相手に愛情を抱かせる』というもの。

 それはわかる。なぜかわかる。

 なのにその『条件』だけがわからないんだよねぇぇぇ。


 少なくともその『条件』がとてつもなく緩いということだけはわかる。

 町中ですれ違うだけで異性は恋に落ち、同性に守られる。


『愛情』というだけあって暴力的なことをされたり、されそうになったことはないんだけど、町中で知らない人にいきなり膝を突いて求婚されるのが日常というのはもう頭がおかしい。

 そしてそういう時はいつだって誰かが助けに入ってくれるのだ。

 うん。ものすごい熱量の『愛情』で守ってくれる。


 もう私は頭がおかしくなっているのかな?

 実は今も椅子と話をしているのかもしれない。


 と、私が冗談でそう言うと幼馴染みは腕を組んで真面目に考え込んだ。


「うーん、僕が椅子ではないと証明するのは難しいね」


「そうだよね。あんたが椅子だとしても椅子じゃないと言い張るだろうし」


「言い張っているように君は思い込む、というべきかな」


「椅子はそんなこと言わない」


「図らずも証明できてしまった」


 証明にはなっていないと思うけれど、数式のように解明できないものだろうか。

 ただ実際の数式を示されても私にはちんぷんかんぷんだと思う。


 この祝福(ギフト)の効果は劇的で、そして相手に祝福(ギフト)のことを話すと効果がより強まるというクソ……失礼、困った特性がある。

 祝福(ギフト)を得てすぐの頃、必死に校内でその好意は祝福(ギフト)のせいだと説明したせいで、校内の生徒や教員における私への愛情はカンストしてしまった。


 こうなるともう呪いだ。

 私は説明を諦め、校内における愛玩生物としての地位を享受することにした。


 ただ恋愛だけは絶対にちゃんとお断りしている。


「今日の相手はバスケ部の来栖(くるす)くんだっけ?」


「それとサッカー部の深水くん」


「わぁ、有名人じゃないか。もったいない」


 お前が言うな。

 私は喉まで出かかったその言葉を飲み込んだ。


「せめて『条件』がわかればいいんだけどね。あんたには効いてないんだよね」


「多分ね。それ以前と別に変わりはないからなあ」


 全然効いてないっぽいなあ。

 幼馴染み当人だけ無効とかなんだろうか。

 私の家族や、こいつの家族も私にメロメロ(死語)だ。


「効果を見ている限り、誰かと付き合っても祝福こそされても恨まれたりはしないんじゃないかな」


 お前が言うな。


 なんでこいつにだけ効かないんだろうなあ。

 こいつにだけ効いたらそれでいいのに。


「はぁ~」


 私は深くため息を吐く。


 なんと世界のままならないことだろう。


「もう次に告白してきた人に、形だけ恋人になってもらうかな……」


 そうすれば校内での告白は激減するだろうし、外で告白されても断りやすい。

 これは偽の契約恋人で、本物の恋人みたいにはしないと最初に釘を刺しておけば、祝福(ギフト)の性能上、相手はそれを忠実に守ってくれるはずだ。


「そんなのは駄目だ」


 だよねえ。

 と、私は口にしようと思った。


 だけど強く肩を掴まれて、私は言葉を発することができない。


「祝福(ギフト)で生まれた愛情なんか偽りだ。君はそんなものには振り回されたりしない。そうだろ!」


「待って、急になんなの? 痛いって! 誰かと付き合っても恨まれないって言ったじゃん」


 私がそう言ったのに、幼馴染みは私の肩から手を離さない。

 まさしくそれが彼が祝福(ギフト)の影響下に無いことを証明している。


[愛し子]の影響を受けている人は私が痛がるようなことは絶対にしない。

 私の言うことをちゃんと聞いて、受け入れてくれる。


「君は本物の気持ちを見分けられる。そうだろ。だから誰から告白されても断っていた。それが祝福(ギフト)によるものだったからだ」


「いや、わかんないって。とりあえず手を離してよ。痛いんだって」


「駄目だ! 僕にだけは本当のことを言っていいんだ。何故なら僕は君の祝福(ギフト)の影響を受けていないからだ! 君は、君を想う、本物の気持ちだけが見分けられる! そうだろ! そうに決まっている!」


「落ち着いてよ! なんでそう思ったのかは知らないけど[愛し子]にそんな力は無いってば!」


 幼馴染みの豹変ぶりが怖い。

 まるで突然中身が変わってしまったかのようだ。


 そう、まるで[愛し子]の影響を受けた人が突然私に愛情を抱くのと逆みたいな。

 そんな突然の変化だった。


 だと、思った。

 私はそう思ったのだ。


「祝福(ギフト)が変に働いてるんじゃない? いつも冷静なあんたらしくないよ」


「君の祝福(ギフト)は僕に何の影響も及ぼしていない。絶対に。誓って。僕の感情は君が祝福(ギフト)を得る前からなにひとつ変わっていないからだ」


 それはつまり、この私を掴まえて離さない彼の腕から伝わってくる痛みは、彼がずっと私に与えたかった痛みだということだ。


「君が好きだ。愛している。前から。ずっと前から。世界がこんなことになる前から。打ち明けようと思っていた。だけど君が祝福(ギフト)を得て、僕もその影響で好きになったなんて思われたくなかった。僕が! 僕だけが! 本当に君を好きなのに!」


 本当は嬉しいはずの告白。

 なのにどうしてもそこにノイズが混じる。

 好きな人の好きな気持ちを、ただそのままに信じることができない。


「その気持ちが祝福(ギフト)の影響を受けてないって言えるの? 影響を受けていないって思い込んでいるだけじゃないって言える?」


 私がそう言うと、彼は私の肩から手を離したかと思うと、両腕で強く抱きしめてきた。


「僕は君の嫌がることができる! このまま傷付けることができる!」


 私は息が苦しいのに笑った。


「あんたにそうされることを私が望んでいるとしたら?」


 私を強く抱きしめたまま、幼馴染みは身を固くした。

 熱した金属みたいだったその体が、恐ろしく冷えていくのがわかった。


「僕は――ッ」


 私の持つ愛され祝福(ギフト)[愛し子]が好きな人にだけ効かない。

 本当に?

最後までお読みいただきありがとうございます。

本作は「GAMELIZATION ~異界商人録~ 世界を買った男」と同一世界ながら、本編開始の7年前、本編主人公たちとは今のところまったく関係ないお話となっております。

世界がゲームに変わったことや、レベルやスキル、そしてギフトのある世界がどんな風に変質していくのかはどうぞ本編でお楽しみいただければと思います。

(祝福という単語は今のところ本編で一度しか出てきてなかったりしますが)


本編「GAMELIZATION ~異界商人録~ 世界を買った男」もどうぞよろしくお願いいたします。

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GAMELIZATION ~異界商人録~ 世界を買った男
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