古着屋アップル 第6話 短編版
日曜日。昼過ぎに駅で待ち合わせて、原宿へ向かった。
何を着るか悩んだけれど、結局先週と同じブルーのデニムに古着のコート。
フリースじゃなくても、この組み合わせも悪くない。
そして今日はピンクのリップ。――戦闘開始だ。
駅に着くと、もう全員そろっていた。
凛は先週と同じ太めのデニムに白のダウン。でも、なんだか雰囲気が違う。
あ、ピンクのリップ。なんで? と聞きたかったけど、
「詩もつけてるじゃん」と言われる未来が見えて、黙っておいた。
少し大人っぽく見える。
……もしかして、凛って湊か蓮のこと好きなの?
湊は黒デニムに茶色のダウン。背が高いから目立つし、普通にかっこいい。
蓮はブルーデニムに紺のPコート。
服だけ見ると、湊と凛がカジュアル組、蓮とあたしがシック組でペアみたい。
でも原宿までは湊と蓮が前を歩き、あたしと凛はその後ろを並んで歩いた。
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アップルに着くと、店長はすぐにあたしのコートに気づいて笑顔で迎えてくれた。
凛は先週まで古着に否定的だったのに、
「ここ、あたし達が見つけた古着屋さんなんだよ」と誇らしげに紹介している。
湊は店内を見て回り、蓮は店長に声をかけた。
「詩が着てるみたいなコート、ありますか?」
店長がいくつか持ってくると、蓮は試着を始め、
凛がつきっきりで手伝っている。
……あれ? 凛って蓮が好きなの?
あたしは湊を目で追った。
湊は襟の大きなシャツやツイードのジャケットを見ている。
「湊、古着買ったことある?」
勇気を出して聞いてみた。
「ないない。古着屋さん初めて」
会話が続かない。焦る。
そんな時、凛が割り込んできた。
「ねぇ、蓮のこのコート似合うよね?」
見ると蓮がグレンチェックのコートを着ている。
店長が説明してくれた。
「詩ちゃんのは千鳥格子。こちらはグレンチェックです」
「二人並ぶと雰囲気出てますよね」
そう言われて、ちょっと照れた。蓮は嬉しそう。
「蓮、かっこいいよ。お世辞じゃなくて」
そう言うと、凛がニコッと笑って、
「写真撮っていいですか? 二人並んでるとこ」
蓮と並んでポーズをとる。
なぜか二人ともブルーデニムにコート。
凛のスマホを見て、雑誌の表紙みたいだと思った。
なんでこの組み合わせ?
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「湊、お前も何か気に入ったのある?」
「このベスト、カッコいいよね」
湊は薄い茶色のベストを胸に当てて鏡を見ている。
似合ってる。
「湊って茶色好きなんだ。ダウンも茶色だし」
思わず言うと、
「あー、そうかも」
店長が補足する。
「薄手なので重ね着してチラッと見せるのがいいですよ」
へぇ、ベストってそんな着方があるんだ。
あたしは考えたこともなかった。
その後はみんなで服を見て回り、
「似合うねー」と言い合って写真を撮り合った。
他にお客さんがいなくてラッキーだった。
店長もいろいろ教えてくれて、とても楽しかった。
でも――
湊や蓮の言葉は、あたしの知らない世界の扉みたいで、
ちょっと怖かった。
男の子と話してドキドキしたことはあったけど、
こんなの初めて。
ジェットコースターに乗って、
自分の意思じゃない力で心が揺さぶられているみたい。
少し車酔いしてる感じ。
それでも「似合うね」と言われると嬉しかった。
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気づけば1時間。
最終的に湊は茶色のベスト、蓮はグレンチェックのコートを買った。
二人とも「着て帰っていいですか」と言っている。
蓮の着てきたコートは紙袋へ。
湊はダウンの下にベストを着て帰るらしい。
凛はマフラーと手袋で悩んでいた。
「両方買えば?」
蓮が言うと、店長が「二つで半額でいいですよ」と言い、
凛は「やったー」と喜んだ。
……凛はいつも最後に得する。
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さっきまで楽しかったのに、急に冷めてきた。
本当は湊がコートを買って、一緒に歩きたかった。
なのに買ったのは蓮。
あたしと蓮が“おそろい”みたいになってしまった。
もうコートを着たくない。
凛にあげちゃおうかと思った。
古着屋なんて来なければよかった。
早く帰りたい。
あたしが好きなのは湊なのに。
なんで蓮と似たコートなんか着てるんだろう。
惨めだ。
こんな時、どんな会話すればいいのか分からない。
受験勉強のほうがよっぽど簡単。
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帰り際、店長が言った。
「右に行くと美味しいクレープ屋さんがあります。割引券どうぞ。友達の店なんです」
一人で帰りたい。
でも凛が、
「行こうよ、みんなで!」
と言い、湊が即答で「いいね」と乗った。
それも気に入らなかった。
四人が店を出ると、店長は満足げに呟いた。
「蓮くんは買ったコートを着て帰った。詩ちゃんと歩いたら絵になるだろうな。よしよし、上手くいった」
店長は、四人の複雑な気持ちなど何ひとつ分かっていなかった
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