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魔術師涼平の明日はどっちだ!  作者: 西門
第八章 魔術師達の闘争
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第80話 苦戦

 魔法兵の剛弓から放たれた何度目かの鋭い矢を、俺はぎりぎり避けて身を倒す。そのまま転がる勢いで立ち上がり、口に入った砂を吐き出した。

 次弾に備えて、直ぐに移動できるよう、少しかがんだ姿勢を維持、意外だと言う気持ちを表現する。


「強い式神、持ってたんだな」


 俺の問いかけに、俺と百メーター離れた弓兵のさらに後方に陣取ったアスレイは「ざまあみやがれ」と自慢げに笑い出した。

 さっきの屈辱の裏返しなのか、声はなかなかやまない。

 その嘲笑には、決闘という賭けに乗った俺の敗北と、それを勝ち取った自分への賞賛すら感じられた。


「こっちが使い魔のカマイタチだけと侮った、テメエの馬鹿さ加減を後悔しな」


 それを言われると俺も反論できないな。


 魔術師の一般的な常識からいえば、式神は使い魔より弱い。隷属に抵抗する使い魔を使役する方が、魔術師の評価は高いので、式神を使い魔に合成する魔術師は多かった。


 アスレイのカマイタチなどはその典型だろう。当然使い魔の方が価値のある下僕となる。

 つまり敵に対し慎重に戦うならまず式神。それで敵わなければより強力な使い魔となるのが普通なワケだ。


 それでも相手が弱者の場合に限り、コイツは最初から自分の優秀さを見せ付けてなぶる性格だと思った。つまり、例え式神を持っていても、使い魔のカマイタチより弱いと俺は推測したんだが……

 

 まさか使い魔より、桁違いに能力の高い式神を持っているとはな。

 しかも魔法兵を三体も。そりゃあ決闘に持ち込みたがるはずだ。


 アスレイの三体の魔法兵の中で、長躯に二メーター程の弓を構えた青銅の弓兵がいる。

 俺が距離を空けたと見るや、そいつは射撃方法を切り替える。イングランドボウの形に似た弓を斜めに構え、矢をつがえぬままストリングを引き絞った。


 すると戦場弓の真ん中に、光る魔法の矢が一筋現れ、その瞬間魔法兵がすかざす放つ。

 魔法の矢は放物線弾道の頂点で拡散し、何十本もの弾幕となって俺の周辺に降り注いだ。


 俺は〔韋駄天〕で身体能力を高めていたので直撃はしないが、この連射に手こずっていた。防御弾幕にもなるこの魔法弓のせいでアスレイに接近する事が難しいのだ。


 魔法の矢は、風神の魔法で弾道をそらす事も出来ないし、使い魔や式神は解除魔法で無効化困難とあっては、こんな高レベルの式神は、接近戦で倒すしかないのだった。


「思ったより面倒な感じになったな」


 俺は、苦々しくつぶやく。

 遠目にもわかる俺の表情を誤解したのか、勝利を確信したアスレイは、得々として大声で続けた。


「土下座して謝罪すれば、命ぐらいは助けてやるぜ。もっとも生涯、俺の奴隷だけどな」


 アスレイの前で光る魔法矢の射程から逃れようと、俺はしかたなくさらに後方へ下がる。

 この結界には空間的な限界がないので簡単な話だ。

 ただし、決闘用魔法陣から転送されたこの閉鎖世界は、どちらが死ぬか、負けを認めない限りもとの砂漠へは戻れないのだった。


 だが俺が思い浮かべた感情は、アスレイに騙された事への屈辱では無い。


 ……また美雨さんの説教かなあ。


 俺はこの閉鎖空間にいない、使い魔の呆れ顔を浮かべてさらにげんなりする。

 今頃は、ギリアムやS&Eの傭兵部隊と共同で、バザールに攻め込んだ来た犯罪組織を迎撃しているはずだ。

 闇市場と美雨の共同戦線なら戦力的に心配は要らないだろう。


 どうせ決闘を受けた時から、美雨さんを一緒につれてくるつもりは無かったし。


 それは魔術師の「決闘」のルールによる制約だ。その一番目が、一対一である事。

 ただし本人の使い魔や式神は武器の一種と見なされ同行可能だが、美雨が俺の使い魔という事は秘密なのだ。つまり周りには俺の師匠という扱いになってしまう。それでも秘密にしておきたかった。


 そして俺は美雨以外の使い魔を従えていない上に、マキ達は、美雨の眷属であって、俺の式神ではない。

 昔から美雨は、使い魔達をもっと持つようにと勧めてきたのだが、俺は首を縦に振らなかった。


「奴隷はいらないからさ」


「本っ当に主は傲慢ですね」


 美雨は、過去の手ひどい失敗から学ばない俺が腹立たしい様子だったが、俺が頑として拒むので、今は口にしなくなった。 

 とにかくそんな訳で、今の俺は使い魔どころか、式神一人も持っていない。


 でも今回の決闘で、また言われるかもなあ。やだなあ。


「ならば主。ちょっとは真面目にやってください」

 

 そう叱る使い魔の声が聞こえたような気がした。


 俺はうなずき、気を取り直してこちらへと砂を蹴立てて疾駆する、二体目の魔法兵を見やる。

 それは馬上で五メーター程の長いランスを携えた槍馬兵の姿をしていた。

 どうやら弓兵の射程外になったので、追いかけて来たようだ。


「槍が光っているのが、やばそうな感じ」


 騎馬兵は右腕の槍をしごくと、彼我二十メーターの場所から速度の乗った突きを繰り出した。

 俺の予感は的中。

 素早いながら届くはずの無い槍の先端は、光る穂先となってさらに伸びる。

 そして寸前まで俺が居た場所を貫いた。

 騎馬は勢いのまま駆け抜け、しばらく進んでから馬首を返すと、俺の位置を確認している。


「ま、そんな感じかなあとは思ったけどさ」


 自分が銀の指輪で〔多聞〕の戦槍を使うため、槍の特性を強化する付与魔術は予測がたやすい。

 だからと言って、魔法兵の強靭さに攻撃範囲拡大を付与されると、やっかいな事この上なかった。


「アイツ、案外金持ちなんだな」


 俺は、リラックスするためにアスレイの懐具合をネタにしながら、出来る限り姿勢を低くし、弓兵に近づかない方向へ駆け出す。槍騎兵は俺の背を追いかける様に動き出した。その差はどんどん詰まっていく。


 アスレイの姿が芥子粒ほどになった時、俺は振り返り、右の指輪に魔力を通す。

 すぐに現れたミスリルの短剣をにぎり、怒涛の勢いで迫る騎馬に向かって構えた。

 意地悪い顔で舌をだし、ざらついた唇をなめる。


「合戦剣術の門下生をなめんなよ」




 


 





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