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魔術師涼平の明日はどっちだ!  作者: 西門
第八章 魔術師達の闘争
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第76話 魔術師のバザール 拡大

 バザール会場はようやく無秩序状態から抜け出しつつある。転移魔法陣が陥没した時、人々は皆大地震が発生したのだと誤解した。それほどの振動が会場全体を襲ったのだ。


 最初は低周波に近い音が聞こえた様な気がしただけだった。あたりを見回す人々も多かったが、その時点で地表に現れる変化は皆無だった。


「地下空洞の地属性強化は幾重にもなっておった。解除するのも時間が必要だったのじゃよ」


 だれかが指を上げ驚きの声を発した。その指のさす端には、外部からの侵入を防ぐ高い砂嵐の壁があるはずだった。

 それが消えていた。そこからはドミノ倒しの様に、何もかも一変していく。


 微細な振動が会場全体に伝わり出し、地面の小石が鉄板で炙られた豆の様に跳ね回る。そして人々が立っていられない程のうねりが地表に現れた。

 焼く前のピザ生地を裏から指で押すみたいに目に見えない何かが砂漠の会場全体を波立たせる。


 万単位の人々はどうしていいのか分からず、露店の支柱へしがみ付く商人、恐怖にその場で腰を抜かす老人など混乱の坩堝に叩き込まれた。


 ついには火山でも噴火しそうな轟音とともに会場の中心付近で大規模な砂塵が巻き上がる。何かが落ちていく重い崩落音が長く続き、ようやくそれが止まった時、会場の皆は落ちてきた砂粒で区別無く茶色になっていた。


 茫然とした状態の中、主催結社S&Eのアナウンスによって状況説明が開始されて、会場の人々はこれが地震で無い事はわかった。しかし代わりにもたらされた事実は決して愉快とはいえない。

 転移魔法陣が崩壊し、自分達は砂漠の真ん中に取り残されたのだから。


「だが、さすがは大手のS&E。秘密で避難用の小規模魔法陣を用意してあるはずじゃ」


 ギリアムは髯をしごきながら楽しそうに解説をする。

 三人は一旦森林の祠まで戻った。その場で老人から違うコインと交換され、ギリアムの天幕奥の魔法陣に転移した。


 到着した途端の騒々しい外の様子に、俺と美雨が天幕の外に出ると、バザール会場はすでに恐慌状態の真っ只中だったのだ。

 砂埃と狂騒の声でかき混ぜられ、走る抜ける人に話を聞こうにも乱暴に振り払われる。皆どうすればいいのかもわからず右往左往している。


 そんな人々の狂態に呆れた様子の俺を横目に、美雨はバザール会場に残しておいた式神から情報を集め、自分の主に状況説明をした。そこで俺は確信と嫌悪感を持ちながら老商人に尋ねた。


「あいつらは、どうなったんだ?」 


「敏い魔術師や商人は地属性の変化に気づき天幕に付与された魔術防御を強化したはずじゃ」


 韜晦するギリアムに、渇いた唇に砂が当たるのか顔をしかめ、俺は強い口調で繰り返す。


「どうなったんだ?」


「焚書とくれば坑儒がセットじゃろう?」


 東洋史にも詳しい魔術職人は、事もなげに生き埋めの事実を告げる。


「爺さん!あんた千人見殺しにしたんだぞ」


 眉毛を立てて詰め寄ると、ギリアムはそれがどうした、と切り返す。


「闇市場やそこに関わった一般結社含め、焚書部隊の犠牲になったのはその百倍以上じゃ」


 予想以上の数に硬直した相手に向かって、ギリアムの表情はいっそ明るい。だがその眼は刃を宿している。他人が口を出すなとはっきり宣言していた。


「ティン、仕掛けてきたのは向こう。我らは敵から身を守っておるだけじゃ。それでも敵を殺すなというなら、お前が奴らの無差別攻撃を止めるんじゃ。まあ、手を汚した事のない者には無理な話じゃがな」


 幼い頃から魔術師として人間の裏側も見てきた俺は、さらにその奥の深淵を覗いたであろう人生の先達に返す言葉が無かった。


「ギリアム、避難用魔法陣って?」


 それまで口数の少なかった美雨が、乖離した二人の間を取り持つように話を転ずる。ギリアムも先ほどの視線の厳しさが嘘の様に好々爺にもどり、嬉々として美雨に語った。


「転移魔法陣の使用条件はまだランダムという事になっておるが、実際はお前さん達も利用した様に、条件付きながら目的地設定が可能になっておる。S&Eもこの国の空港がある都市へ繋げてあるはずじゃ。目が飛び出るほどの金額でな」


「貴方達闇市場が、その魔法陣を売ったのね」


 美雨の推察に老獪なギリアムは口角を上げるながらつぶやく。


「S&Eは売り手がワシらだとは知らん。まあ今に、その件についてアナウンスがあるはずじゃ」


 ギリアムの言葉通り、主催結社から避難用転移魔法陣の説明がなされ、人々は少し落ちつきを取り戻した。

 飛行機で帰るのは苦痛だったが、砂漠に取り残されるよりはマシだ。


 魔術師が大半をしめる参加者は、自然現象や精霊力が完全に制御できない事を、魔法学舎や所属結社で充分身を持って学んでいる。なのでまずは生き残る事を優先にしており、一般参加の不満もその考え方に流されて暴発にいたる事は無かった。


「じゃが、この宝島に上陸したいと長年よだれを垂らしておった賊共には、今のバザールは格好の標的じゃな」


 ギリアム言う賊がこの砂漠を哨戒する犯罪組織なのは明らかだ。


「だけど、大した数じゃないだろう?」


 俺の推測を裏書する如く、バザールの生き字引は首肯した。


「そうじゃな。バザールを囲む砂嵐の突破諦めて、大抵のハイエナは少数の監視がうろつくだけじゃ」


 ここでギリアムは裏取引に慣れた顔に変じた。俺は今回知った老商人の裏顔にまだ慣れる事ができない。


「ところが、今回焚書部隊と闇市場による暗闘のとばっちりで、鉄壁の砂嵐が一時的に無くなるかもしれないという情報が犯罪組織に流れていたりするわけじゃ。

 今回は無頼者達も、相当に規模を大きくして準備しているかもしれんのう。この状況をみれば、時を置かず攻め込んでくるじゃろうな」


「なんでそんな事」


 俺はその情報自体を闇市場が流した事に気づき、逆に理由が理解できなくなる。会場ではS&Eが「避難用魔法陣の準備には地精霊の安定まで少々時間が必要」とアナウンスで繰り返し流している。


「最初に言ったろう。闇市場は、今回敵を罠にはめると同時に、その協力者へお灸をすえるつもりじゃと」


 ギリアムは指をおりまげて話を続けた。


「何故、ブラックマーケットの隠蔽された入口がああも簡単に敵にばれた? 千人を越える戦闘集団をバザールに受け入れる許可を出したのは? 

 しかも奴らは直前まで会場に姿形も無かったぞ? もちろん大規模魔法陣で来たら目立ってしまうの。では避難用の転移魔法陣という裏口ならどうじゃ?」


 ギリアムは嗤いながら結論を言う。


「バザールの主催結社S&Eが敵の協力者じゃよ」


「だからお灸の意味でバザールの大規模魔法陣を壊し、犯罪組織を引き込むわけね」


 美雨の冷静な態度に俺も我に返る。


「爺さん、それじゃあ、無関係な参加者も巻きこまれるだろっ」


「地属性の変化を察知してS&Eが魔法陣の一時停止をする時間はあったはずじゃ。それでも間に合わなかったならもとから危機管理能力不足じゃな」


 非難にも老人は悪びれない。それどころか開き直る。


「魔術師なら、危険と背中合わせな事は卵の殻がついたひな鳥でも覚悟しとるはずじゃろ」


 それが嫌ならこっち側に踏み込むな。それは魔法学舎の入学式に新入生へ訓辞として送られる言葉だ。もっと丸めた表現だが意味は変わらない。

 黙ってしまった俺に少しだけ表情を緩め、ギリアムは言葉を継ぐ。


「文句があるなら皆を犯罪者共から守ってはどうじゃ? S&Eが参加者の避難完了まで臨時の傭兵を募集するじゃろうから、ワシはそこへ参加するがの」


 俺はその台詞に誘いを感じて口ごもる。


「ギリアム、弟子の行動は師匠である私の権限です」


 美雨は俺が自らの有言実行への誘惑と、犯罪組織とはいえ殺人を犯すことへのためらいを感じていると考えているらしい。


「もちろんじゃ」


 ギリアムは予想どうりに聞こえてきた傭兵募集のアナウンスにニヤ付きながら俺にダメを押した。

 その声が砂の風に乗って耳に届く。


「そうそう、犯罪組織は魔術師を恐れて、高知能AI搭載の無人機械化部隊で戦うらしい」








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