第5話 小公園
少女と別れたあと、俺は地上に降り敷地の隅の小公園まで来た。
正直、これ以上ここに長居したくなかったが、やはり確認する事にしたのだ。
右目が光り、「〔賽〕」と声に出すと、敷地のある範囲に見えない結界が張られた。
その影響範囲の外へ音が伝わらない程度の緩いものだ。その上で俺は前の植え込みに潜む気配に話しかける。
「出てこいよ」
俺は歩道からここを見てすぐこの存在に気づいたが、最初は無視して家に帰ろうと考えていた。
だが、少女の姿を見つけて関わってしまった。
その後もこの気配が一向に去る様子がないので、どんな用なのか聞いてみてもいいかと思っただけだ。だが、特に反応は無い。
「こないなら帰るけど」
俺が背中を向けた瞬間、風の唸る音がした、しかも3つ。
自ら体を前に倒す様に飛び出し、真空の刃を避ける。振り返るとそこには魔術師の使い魔がいた。
カマイタチ。魔術的な強化もされている。
「俺何かやったか?」
尋ねる俺に、問答無用で使い魔の見えない刃が次々に襲いかかってくる。どうやら、結界を張ったことで、宣戦布告したと誤解された様だ。
だから魔術師ってヤツは思い込みが激しくて困る、と俺は苦々しい。
魔術師界隈の話題だと話しづらいかと、気を利かせて周囲に聞こえないようにしたってのに。
ぼやきつつ迫る風の刃を避け、さてどうするかと対応を考える俺。
音は遮断したけど雷や炎とか使うと騒ぎになるよなー、風には抵抗力ありそうだし。
「よし、これで行くか」
白天馬の魔法具で体重を軽減したまま、使い魔に突進していく。
「〔韋駄天〕っ」
相手の攻撃姿勢を確認しつつ、魔法で敏捷性を強化する。
今までと比べ物にならない程のスピードになった俺は、3体のカマイタチの刃を難なく避けて一番近い使い魔へ突っ込むと、向こうはいきなりの急襲に対抗できない。
「俺は逃げ足だけは速いって言われててね」
カマイタチの懐に入り込みながら独白した俺は、右手人指し指のシルバーリングに魔力を通す。
その瞬間右手に小太刀ほどの銀剣が現れた。
その柄をしっかり握ると、俺はカマイタチの脇をめがけ振り抜く。
カマイタチは悲鳴の様な鳴き声を上げると消失した。
俺は、そのまま走り抜けると距離をとった。そして次の行動に移らず立ち止まり、残った使い魔に向かって静かに告げる。
「どこのヤツかは知らないが、俺が何かやって怒らせたなら謝るから、勘弁してくれ」
その声が聞こえたのかはわからないが、残りの二体は、身を翻すと逃げて行った。
しばらくその場に留まった俺だったが、今夜はこれ以上何も起こらないと判断し結界を解いた。
「あーまずった。帰りの予定時刻、超絶オーバーだぜ」
はあ、と深いため息をつく。
「……帰ったら鬼コーチに色々言われそうだなあ」
三日月の光の下で、俺はがっくりとした表情で呟いた。