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魔術師涼平の明日はどっちだ!  作者: 西門
第四章 願いと覚悟
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第40話    幕間:桜と月夜の夢 夢中

 私は、昨晩の涼平の慌てた様子を思い出して噴き出しそうになる。


 ごめんね、無理にダンスに誘って。でも、踊りたかったんだ。


 昔、母様(かあさま)が男の子と文化祭のパーティ企画で踊った曲だったから。

 母様が人が居ない時、神社の神殿で教えてくれたスローワルツ。


 「これしか踊れないんだけどね」


 そうおどけて曲を口ずさみながら、母様は丁寧に教えてくれた。

 

 その男の子は素敵な人だったみたい。

「手ひどく振られちゃったんだよ」って言いながら、母様は全然悲しそうじゃなかった。


「失恋したのに辛くないの」って聞いたら、


「そりゃあ落ち込んだわよー。村の滝に負けないぐらい泣いたしね。でも恋した時間だって私の宝物だから」だって。


 母様ってやっぱりロマンチストだよね。


「そうよ、だから歴史の影に隠れたあやしげな人間関係にも大いに浪漫を感じるのよ」って、いきなり何故そこに繋がるのかはよくわからないけど。

 

 それで「よくわからない」って言ったら「桜もわかる日がくるわよ」と笑われた。

 ただその時の私は、恋と歴史の関係についてよりも、ダンスの話をする母様がとても幸せそうな顔が印象に残った。


 だから、私も踊りたかったんだ。


 涼平は、とても心の細やかな人だ。

 花火を持ってきてくれたからじゃないけど、私が寂しがっていないか気にしてくれている。 


 別に一人には慣れているから、大丈夫なんだけどな。


 家人はあくまで父親に雇われているだけだから、私の指示を聞いたりはしないけど、必要な事はきちんとしてくれるし。

 この服の好みだけは父親に談判したかったけど、会うことがないから文句の言い様もないしね。


 彼は知らないから「ここから出たら父親と一緒に住め」なんて言うしねー。


 私の自由にして良いって言われた日に、すぐそんな嫌がらせを思いつけば良かった。

 いや、無反応で頷かれたら腹立つから、それは絶対無かったな。

 父親も私の性格から、そんな事は言わないと結論付けているはず。


 でも、ふふ。

 ここから去る前にこんなに楽しい毎日が来るなんて思わなかったよ。

 涼平、ありがとう。


 おかげで、死にたいなんて二度と思わなくなった。自殺を考えていた少し前の自分がウソみたいだ。

 もっと、涼平と話したい。少しでも、涼平の笑顔が見たい。


 ううん。

 怒った顔でも困った顔でもふざけた顔でも、彼が隣にいてくれたら、何でもいいんだ。

 

 でも彼はエッチだ。

 普通最初に教えてくれるよね。


 私は家族以外に寝間着で男の人と会った事なんて初めてだよ。もちろん家人達は数に入れずにだけど。

 あの夜は身体がだるくて、少し熱っぽかったので、一応薬を飲んで早い時間に眠っていた。

 涼平が来る予定も無かったしね。

 

 なのに来るんだもん。

 その時には体調も戻っていたけど、ぼんやりしてたのは失敗だった。


 なんか夢か現実かはっきりしない暗闇に涼平の声が聞こえて、嬉しいなあって思ってたら、「寝てたんなら帰る」なんて言うから。思わず窓を開けちゃうよね。


 その結果彼にしっかり見られたと思う。

 きっと胸が薄いからびっくりしたんじゃないかな。ちょっとはあるけど、歳からしたら全然だめだよね。


 それで、寝巻着姿を見られた事と子供体形の両方がめちゃくちゃ恥ずかしかったので、洗面台の水道で赤くなった顔を冷やそうとして鏡を見たら……


 髪がぴょんぴょんだった。起きぬけで顔もむくんでるし。

 こんな寝癖だらけでぼけっとした姿を見られたかと思うと。

 もうもうっ。どうしようもないぐらい恥ずかしい。

 

 ああ、昨日の事とはいえ、今も顔が火照ってきちゃう。

 涼平のあほ。

 気持ちを落ち着けてあなたの顔を見るのに半時間はかかったんだから。


 なのに、彼は全く冷静なので、ちょっと不満だった。

 年頃の女の子のネグリジェ姿にまったく平然としてるなんて。


「桜、待たせすぎ。その歳で何照れてんだよ」だって。

 涼平って実は女性の裸に慣れてる?幼馴染の話題からはそうも思えないけどなあ。


 だけど、その後屋上まで抱き上げて運んでくれたんだよね。

 その時はお姫様だっこだよ、お姫様だっこ。


「しっかりつかまってろよ」っていうから首にしがみついたんだけど、心臓の音がばくばく鳴ってたのはばれてないかなあ。

 

 あーゆー事をさらりと出来る所はなんか悔しいよね。

 他の女の子にもきっと優しいんだって思っちゃうもん。


 そうやって抱き上げられた時、彼の右目が金色に輝くのを間近で見た。

 角膜自体も光っていたけど、虹彩には呪文の様な模様が廻っていたし、中心の水晶体は、宝石以上に煌いていた。


 とても綺麗で、何故かとても懐かしい様な、幸せな気分になったんだ。きっと涼平の隣はすごく居心地がいいからだと思う。

 そして彼が「〔迦楼羅(かるら)〕」って呟くと、身体全体がふわっと軽くなって、ゆっくりと浮上しだしたんだよ。


 私は、彼が九階まで来たように、私を抱えて壁面を走って行くのかと思っていて、こんなエレベーターっぽく上がるとは思わなかったので、「これは快適な魔法だな」ってほめると、


「うん、短時間しか魔法効果が維持できない代わりに、もっと速度は上げられるんだぜ」って涼平もちょっと自慢げだ。

 

 でもわたしはもっとゆっくりと上昇してほしかったぐらい。

 だってそうすれば、涼平の体温が感じられる距離に長く居られるから。

 だけど、直ぐに屋上まで到着しちゃった。

 

 その後、屋上で二人っきりで花火大会をした。ピンクのウサギも、小人の楽団も素敵だった。

 そして彼の笑った顔が一番素敵だった。


 私にとっては、その夜に開催された街の大きな花火大会より、この小さな幻の花火の方が、ずっとずっと記憶に残ると思う。


 あなたにも憶えていて欲しいな。

 私だけが憶えているってのもちょっとしゃくだしさ。

 そして私はここから出て行く前に、あなたに伝えなきゃ。 


 おかげで楽しかった。ありがとうって。







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