第38話 早朝の勝負
北神一刀流は実践剣術である。
「もっとあからさまに言えば、なんでもありの剣術なんだ」
道場に通い出した子供の頃、俺は龍真からそう聞いた事がある。
それは古流剣術と合戦剣術の組合せである稽古から読み取れる。
また一刀流の名が付いているからには、その一派となんらかの関わりがあるはずだが、現在その正統な系譜は存在しない。
現在の北神流宗家である佐藤家には、代々の口伝といくらかの遺稿集が残っている程度らしい。
それによると北神一刀流は、伊藤一刀斎景久を元祖に小野次郎右衛門忠明が流派の正統を継いだ、小野派一刀流の分派とされている。
だが正確には、小野派が興る前に北神派として一刀流の支流に成ったらしく、小野派からすればなんの関係も無い。
稽古で汗だくになって中庭の井戸に水を飲む小学生の俺に、龍真は休憩しながら一刀流の隠された由来を教えてくれた。
「むしろ北神流が、後世、徳川秀忠の指南役になった小野派一刀流の名声に乗っかったというのが本当の所だと宗家も考えてるんだ。
つまり小野派にとっては迷惑至極な話であるし、北神流にとっても名誉な昔話ではないので、その口伝が世間に明らかにされる事はなく、系譜が散逸したので真偽不明というのが公式な見解というわけさ」
龍真の口調は、彼の父親の説明をそのまま棒読みしたようだった。
「なんか、めちゃあやしい流派なんだけど」とすこしがっかりする俺。
「ただ、北神流の元祖とされる天内薬長斎弘墨は津軽出身だという事で、津軽に縁の深い小野派一刀流と切れ切れながらの交流はあったらしいよ」
「じゃあ、元祖はやっぱり小野派なんだ」と、自分の習う剣術に見直しかけた俺に、龍真はいたずら小僧のような顔で続けた。
「まあ、天内も後年は蝦夷地から露西亜まで密航を繰り返していたんだって。
酒に目が無くて《酒は百薬の長》をもじり、自らを《薬長斎》と名乗り欧州酒を密売していたと、佐藤家は伝えているけどね」
そんな流祖が、結局剣術家か商売人なのかは判然としないのだが、怪しげな経歴も、口伝を公にできない理由となっているそうだ。
それからも龍真の話は続いた。龍真も佐藤家が登場するくだりは誰かに話したかったらしい。
不思議なもので、当時の剣術家としては破天荒な流祖にも、何人かは弟子がいた。
その中の一人が佐藤家の先祖、佐藤三郎真盛である。
天内弘墨を支え、北神流が細々と現代まで命脈を繋いでこれたのは、この謹厳な弟子のおかげだと言える。
真盛の剣術家としての才能、技量は他の弟子に一歩譲るものであったが、その分実直な性格と理論的な考え方に優れていた。
彼の今で言う科学的な分析力の鋭さが、後世への技の継承にとって大きな役割を果たすのだった。
なにしろ、流祖の天内は感覚派で「見て覚えろ」式指導しか出来なかった様だ。
その指導方法が間違いとは言い切れないが、あまりに極端すぎたためか、その高弟のほとんども同じ類になってしまった。
唯一の例外が真盛で、他の弟子からは「頭でっかち」と揶揄されながら、技の理論化に努めたと佐藤家の遺稿に残っている。
ある意味、彼がこの一派最大の異分子なのだが、彼は最後まで北神流を去ることはなかった。
遺稿集に「俺が居なければこいつ等は、師も含めて駄目になる。いや今も駄目だが、どうしようも無い程駄目になる」という諦念めいた一文があったらしい。
……きっと相当の苦労性だったんだなあ。
道場に通う高位の門弟すらも知らない、佐藤家の秘密を教えてくれた龍真には感謝しつつ、さらに北神一刀流をうさん臭く感じた子供の頃の俺だった。
◆ ◆ ◆
朝もやの中、道場の格子から、日の出前のうっすらとした外の明るさが入り込んでいる。
俺は神棚に一礼してから道場の中に入る。
檜の一枚板で張られた床の上に裸足であがり、長年の稽古のすり足で鉋をかけた様に磨かれた鈍いつやとその感触を確かめていると、後ろから声がかかった。
「おはよう、涼平。早いな」
「おはよう。まあ、久しぶりだし、最初からつきあおうかなってさ」
「そうか」
龍真は手のバケツを道場の縁に置くと、俺と同じ様に神棚に礼をして竹刀や防具を置いた脇部屋から箒を二本持ってきて片方を手渡す。
俺達は誰もいない道場の床を、手早くだが丁寧に掃いていく。そして、続けてバケツの水で雑巾を固く絞ると広い床を端から拭く。その間はお互い無言だ。
すでにここから稽古は始まっているし、身体をほぐす準備運動も兼ねている。
しっかりとした雑巾掛けは、もちろん足腰の鍛錬にも、もってこいだ。俺は稽古着が汗を吸っているのを感じながら床を磨いていった。
午前八時からの朝稽古では子供達も同じように掃除から始める。
それから竹刀と防具による剣道の指導を受けるのだ。彼らはこの朝稽古に夏の間中通ってきて、自らを鍛えている。
佐藤道場は地元警察で指南する道場の一つとしてしっかりと根を張っていた。
ただ、俺と龍真が今から始める稽古はそれではない。
「よし、そろそろ始めるか」
掃除道具を片付け、念のため少し屈伸運動などを行っていると、龍真が聞いてきた。
「袋竹刀から始めるか?」
「いや、木刀で頼む」
「じゃあ、鬼篭手をはめるか?」
「いらねえ、といいたいが、お前にやられたら即骨折だからな」
龍真は「そうか」とそのまま壁の方に行き、赤樫の木刀を何本か持ってきた。
俺はその中で、小太刀を選んだ。手に持つとずっしり重い。
中に鉄心が入っていて一キログラムはあるので、真剣とほぼ同じ重さになる。普通素振り用だと二キロぐらいが多いが、龍真の選んだ木刀は三キロ以上あるな。
まあ、コイツと一緒にはされたくないけどさ。
俺は鬼篭手をはめて龍真と神前に向かって正座し、それぞれの得物を膝の前に置くと、拝礼する。
そして顔を挙げ、相対すると表四十七組、裏三十組をなぞる。
当然、実力の劣る俺が仕太刀で、高位の龍真が打太刀だ。
本来、小太刀は別に小太刀術なるものがあるのだが、俺はあえて常寸の木刀として構えて組手を行う。
寸の不足する分は足の踏み込みで対処するという鍛錬をしたかったからだ。そんな変則的な俺の希望に龍真は何もいわず、いつも稽古に付き合ってくれる。
何度か組手を繰り返し、体中から肉体以上に緊張の汗を噴き出しながら、俺は「一休みしようぜ」と龍真に言った。
コイツも軽く汗をかき「おお」との返事だが、そのまま素振りを始めやがった。
基礎体力の差がひどすぎるよなあ。
「それで、もう奥伝三十一組の目録はもらったのかよ」と俺が相伝の話をすると、「いや、それは兄貴の話だ」と龍真はにべもなく答え、そのまま素振りを続ける。
「別に真俊さんだけじゃなくてもいいのに。お前だって佐藤家の次男坊なんだろ」
「相伝は長子のみだからな」
俺は昔からその考え方が良く理解できない。
「だって皆、真俊さんより、お前の方が強いっていってるぞ。家を継ぐのは長男でも、剣術家として強いお前に奥伝を教えない理由はないだろうになあ」
北神一刀流道場としても、宗家の一族が実力を持つ事は悪くはないはずだ。
嫌な話だけど、長男に何かあったら継承はどうすんだよ。
だが、龍真の中では何の疑問もないらしい。
「涼平、心技体っていうだろ」
彼は素振りの手を止めて、俺に向き直る。
「確かに俺は兄貴より、技量では上回っていると言われる事もある。それを強い、と評価する人もいる。 だが、北神流組手の表が体つまり形で、裏が技だとすると、奥伝は心に当たる」
龍真は珍しく長口舌をふるう。
俺が真俊さんを龍真より下に見た発言が気になったらしい。
「道場での木刀による稽古は北神流に限らず、運が悪ければ命に関わる。それでも真剣とは違う。
俺は真剣勝負で兄貴に勝てる気がしない。そんな気持ちの内は、俺が奥伝をと考えるのは、ただの傲慢なのさ」
「わかったよ。お前がそれならかまわねーし」
俺は龍真の馬鹿の付くほどまっすぐな所が嫌いじゃないので、それ以上話を続けるつもりはなかった。
そんな俺に、今度は龍真が尋ねてくる。
「涼平、なにか心配事があるなら話せ」
「真っ白な宿題かなあ」
「おい龍真、奇襲攻撃とは卑怯じゃねえか」と思いつつ俺はあえて話題をずらす。
コイツは俺が稽古に来た理由を考えているのだろう。
魔術師関連は幼馴染にも秘密だし、理由は前にも言ったが危険だから巻き込まれてほしくないからだ。
龍真が剣の腕が凄いのは確かだが、それでも魔術師の遠隔攻撃には分が悪い。
「最近、また一人で何かやってるな?」
「別になんもねーけど」
「いつも騒がしいお前だが、最近特に騒がし過ぎるのは変だ」
「でも俺よりにぎやかな奴がお前の隣にひっついてると思うんだがなあ」
俺はもう一人の幼馴染を引き合いにだして、話を逸らそうと努力する。
「俺は、夏休みが楽しくてハイになってるだけだよ」
「涼平」
俺は龍真を見て、これは引くつもりねーなと心の中でため息を吐く。
「はしゃぎ過ぎて夏バテになったら、保健室の先生にでも相談するさ」
稽古再開しようぜと言い掛けた俺に、親友はまたもや不意打ちときた。
「……里緒のことか?」
俺は頭をくしゃっとかいて苦笑いをする。この腹黒剣士め、一番痛い所をばっさりと斬りつけてきやがる。
「どうしてそうなる?」
俺としては、そっちへ話を持っていくつもりは無かったんだがな。
「俺の頭の中も筋肉ばっかじゃないってことさ」
俺は龍真のことをそんな風に思ったことがなかったので、驚いた。その表情から、俺が言いたい事を悟ったのだろう。
「すまん、卑怯な言い方だった」と珍しく恥ずかしそうにうつむく。
「おまえはいつでもまっすぐだよなあ」
俺は、親友の率直さがまぶしくて笑い出した。
「そんな事はない。すまん」
「いや、いいんだ。あやまんなよ」と手をひらひらする。
そして俺は意地悪い顔で挑戦する。
「龍真、試合しようぜ」
◆ ◆ ◆
すでに朝日が昇り、充分明るくなった道場の中央で、龍真は正眼に構えている。
丹田を通じ腰の入った構えは堂々としながら鈍重さは微塵もない。
普通なら俺が放った攻撃を悠揚と受け、切り落としが一筋の斬撃になって返って来た瞬間、勝負は終わるだろう。
俺は明々白々の実力差にも関わらず、嬉しくなって小太刀を斜めに構える。
組手とは違い、逆手に柄を握る姿は、武士というよりむしろ、影働きの者に近いかもしれない。一応切り落としをさせないために工夫したつもりだが、所詮は付け焼刃だとわかっている。
そこで、心理戦をしかける事にした。
「龍真」と呼びかける。
「なんだ」
コイツも俺のつぶやき作戦には慣れているので、そう簡単には引っかからない。
それで、俺は正直に言ってみた。
「勝ちを譲ってくれないか?」
「なんだと?」と彼の視線は訝しげになる。
「勝ち目の無い勝負って嫌なもんだしさ」
龍真は何言ってるんだといった顔だ。
そりゃそうだ、練習試合で「負けてくれ」じゃ稽古にならいからな。
それでも俺は繰り返す。
「それでも譲ってくれないか、といってるんだけどな?」
龍真は俺の例えに気がついたのかしばらく黙り、俺を真っ直ぐ見ながら言い放った。
「そのつもりはない」
いっそ清清しいその態度に、俺はこいつが親友で本当によかったと思う。
「なら、結果は決まってるだろ。おれは勝てない勝負はしないんだよ」
俺の言葉による回避行動に、さくっと突きを入れる親友。
「だが、男なら負けると分かっていても戦わねばならない時がある」
……おーい、龍真。あんまり真っ直ぐすぎるのも人生いき辛いもんだぞ。
「今までお前に言われた台詞で一番腹立つなっ」と龍真の左側に回りこみながら文句を言った後、「とにかく勝負はしねー」と木刀をさらに寝かして水平近くにする。
「逃げるのか?」
俺の動きに合わせて位置をずらしながら、龍真は変わらず正眼だ。こいつは後の先と決めているのか、仕掛けてくるつもりは無いらしい。
「ああ。おれは逃げ足だけは速いんだよ。知ってるだろ?」
俺はいつもの常套句で返す。
「……あの時。里緒がいじめっ子の彼につかまった時。涼平だって里緒を助けられたよな」
龍真の言葉は質問ですらない。
「彼は口だけの臆病者で手は出さないってことも知っていた」
たわいもない昔話をまたコイツは。
あれは小学3年生の春頃だ。
その頃まだ俺は、里緒の家で暮らしていた。
ある日里緒が「新しい服を買ってもらった」と二階の部屋にいた俺の所までやって来たのだ。
ふわっと広がったスカートと白いレース。可愛いピンクの服。
里緒は「お姫さまごっこをする」と宣言した。配役は龍真が騎士で涼平が家来。
「家来でも、もったいないけどねー」
悪役じゃないだけ感謝しろと言うことらしい。里緒の中では、騎士はかっこいい役で、家来は脇役扱いのようだ。
間違いではない。
「劇で例えなおすと騎士は主人公、家来は舞台の端っこにいる木の役って感じ」と里緒はわざわざ説明してくれた。
……やっぱちょっと酷いかもな。
まあ要するに、龍真に見せたいのだが一人だと恥かしいので、俺に一緒に来いという事らしい。
そしてわがまま姫に引っ張られ龍真の家に向かう途中、いじめっ子の彼に会った。
それだけのことだ。
「悪者から姫を助けるのは騎士の仕事だろ」
あれ以上は付き合いきれなかったという顔で返事をする。
「じゃあ、涼平はどうするんだ」
「姫の望みを叶えるのがパシリの仕事だよ」
里緒にとって俺よりも助けに来てほしい相手がいるから、呼びに行っただけだ。
だが、俺はそんな事を言ったりはしない。
そして二人の会話が途切れる。じりじりと優位な位置を取り合っていた足が止まる。
お互い、剣気が満ちた事は分かった。
俺は覚悟を決めて踏み込み、龍真の斜め左足元に飛び込む。檜の床がギュっと音を立てた。
身体を限界まで屈めて相手から得物の位置を隠す。
そして俺は、超下段から滝を切り上げる如く木刀をいきなり伸ばす。拳闘でいうアッパーカットの様な軌道を描いた切っ先。
しかし俺の狙いははずれ、龍真の篭手を下側から打つことはなかった。逆に俺が背中で防ぐつもりだった赤樫の木刀は、その勢いを止めない。
浮身で下がった龍真にとって、俺の刃筋などお見通しだ。
剛速で落下してきた棒状の木塊は、その圧力だけで俺を圧倒する。そして防御にかざした俺の小太刀を殴りつけ、身体ごと床に叩きつけた。
俺は蛙の様に道場の板張りに張り付いて、荒い息を整える。
ごろんと仰向けになると、北神一刀流の次男坊が明るく笑っていやがった。
相手への悔しさと頼もしさが半分ずつの俺は、苦笑いを返す。
「痛えな、おい。」
俺は手に残った痺れるような痛みに顔をしかめながら膝をつき、龍真を見上げてぼやいた。
「今度はなかなか危なかった」
全然危なげない表情で、俺の奇手についてコメントする龍真に「顔がそう言ってねえぞ」と突っ込みながら立ち上がる。
俺は、神前に再度拝してから篭手と木刀を返し、汗を持ってきたタオルでぬぐうと、「ちょっと水飲んでくるわ」と俺は庭の井戸に向かった。
ここの井戸水もなかなか上手いんだ、美雨さんの泉にはかわないけどな。
◆ ◆ ◆
龍真は道場から井戸へ向かう涼平を見ながら素振りを再開した。
木刀の風切る音を聞いていると、平常心が戻ってくる。
涼平はあの奇手では効果が無かったと思っているようだ。
確かに、技としての完成度はまだまだだが、精進すれば一つの戦術として有効なものに昇華できると思う。
まあ、揺らされたのは、例によって涼平の心理戦のせいもあるが、と龍真は反省する。
だから、いつもより強く彼を打ち付けてしまった。
「俺も修行が足らんな」
そして、さっきの会話を思い出す。
龍真は里緒が大切だ。女性として好きだと断言できる。
そして皆は、里緒が龍真を好きだと言う。涼平も当たり前の様にそう思っている。
本当だろうか?
里緒に好意を持たれているという自覚は、龍真にもちろんある。
あの素直な気持ちは嬉しくて、剣術しか無い龍真に向けてくれるその感情を大切にしたい。
だが、同時に龍真はこう思わずにいられない。
本当に異性として好意を持たれているのだろうか?
もしそうだとしても、里緒はもう一人の想いについて気づいているのだろうか?
涼平は急に両親がいなくなった事が原因か、親しい人間が離れていく事に対して、恐れがあるようだ。
だから、今の関係を壊す気が無い。
必要以上に人との関わりを増やさないのも、別れに対する恐怖が先立つからではないだろうか。
そして里緒に対する気持ちも、誰にも知られない様にしている。
龍真も中学生の時、あの事件が無ければ永遠に気づかなかっただろう。
昔から三人で一緒にいたくせにな。
自嘲の思い出に心の中が苦くなる。
その点では脳みそが筋肉並みの鈍さというのは龍真の正直な気持ちだ。
しかしあの夜、隣の街の廃墟で、涼平が里緒を守るためならどれだけ冷酷になれるかを見た。
あの場にいた龍真は、全てを塗りつぶした闇の中で光る眼が忘れられない。
街灯の下に出てきたあいつはいつもと変わらない表情だったが、だからこそ俺は寒気を感じずにいられなかった。
しかも、あいつはその容赦の無い行動に、今でも全く後悔がない。
同じ状況になった時、涼平と同じ事ができるだろうか……
里緒と涼平と龍真。
今の関係を壊したくないのは、龍真も同じだ。
もし涼平が里緒に自分の気持ちを伝えたら、彼女はどう答えるのだろう。
それでも、その時は龍真も堂々と告白するつもりだ。
涼平は「勝てない勝負はしない」と言ったが、結果はわからない。
あいつが思い込んでいるほど、龍真に勝ち目があるわけじゃない。そこまでうぬぼれていない。
だが、男なら負けると分かっていても戦わねばならない時がある。
そういうことだと腹を決めている。実際、今は五分五分ぐらいだろう。
「だけど涼平、俺は敵に塩を送るほどお人よしじゃないからな」
想いを告げるのは自分でしろよ。
そう思いながら、龍真は己の素振りに乱れが無いかと確認する。やはり心が図太いらしく、木刀が切り分ける空気の流れは常と変わらない。
性格悪いな、確かにあいつに腹黒と呼ばれるわけだ、と龍真は口元を上げながら、涼平が戻ってくるまでいつもと同じ様に素振りを続けた。
各流派については、実在の団体とは関係ないって
事でお願いします。