表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔術師涼平の明日はどっちだ!  作者: 西門
第一章 少女との出会い
3/88

第3話 白天馬と黒天馬の糸

 俺は正直走り疲れていた。


 毎日の鍛錬とはいえ、バイト先と自宅をランニングで通うのは楽じゃない。

 結構な距離があるし、一応時間も計測されているので、長い時間休憩することも出来ないしな。


「なんつー使い魔だよ、むしろ鬼コーチだろ。ご主人様を何だと思ってるんだ」


 まあ文句言いながらも、俺の為を思っている事はわかっているので続けてしまうわけだが。

 

「こっちも手抜きしながら走っているのでおあいこか」


 優秀な使い魔には多分ばれていると思いつつ、俺は苦笑いだ。

 

「でも魔法具による四十キログラムのウエイト増加は勘弁してほしいよなあ」


 げんなりしつつ両手首を見る。


 右にリストバンド、左には皮のブレスレット。

 共に白黒のデザインで、リストバンドには色違いの天馬が2頭刺繍され、ブレスレットは、白黒の市松模様を糸が縫い込んである。


 まあ、このデザインにはたいして意味は無いんだけどな。


 意味があるのは刺繍に使われている、黒と白の糸のほう。

 この糸はある異世界の玄曜天馬(ブラックペガサス)白銀天馬(シルバーペガサス)(たてがみ)を束ね、よりあげた糸。


 この世界ではそこそこ価値のある素材だ。

 俺はめんどくせーから黒天馬、白天馬と呼んでいるけど。


 魔術師の市場で売れば、メーター単位で純金一キログラムになる。貴金属相場で言えば約三五〇万円。

 このリストバンド一つで、純金二十キログラム分、七千万の価値だ。


 俺は自力でこの材料を手に入れた。本来なら大金持ちだ。

 ただ、この材料を知人の魔術師商人に渡して魔法具を作るにも、同じくらいの費用、つまり職人への手間賃がかかるがそれは全額借金だ。


「人生は甘くないよな」


 俺は走りながらぼやき続ける。

 少し先にある目印代わりの背の高い建物まではもう少しかかる。


 しかも借金返済は金塊でと指定された。

 魔術師は紙やデータの貨幣に価値を認めないヤツも少なく無い。それで重要な取引は貴金属や宝石などで行う場合もある。


「普通の生活するのに紙やデータの貨幣で困らないってのに」


 だが老魔術師の商人が力説する意見は違う。

 その爺さんの主張はこうだ。


「錬金術分野を自らの独壇場として誇ってきた魔術師の文化的な価値観では、純金、プラチナなどの希少金属やダイヤモンド等の希少石こそがより高級な貨幣であるべきじゃ」


「ああそうですか」と適当に頷いているが。

 魔術師ってなんでこう自己主張の激しいヤツが多いんだよ。


 俺はその辺こだわりもない。

 だから魔術師の「こうあるべき論」てモンからはなるべく離れるようにしているし、近寄って議論したそうなヤツからは即効で逃げる事に決めている。


 俺の逃げ足の速さは、幼馴染公認記録を持ってるから、追いついてこれるのはそれこそ天馬レベルだろう。


 ……すまん。

 話盛りました。本気の天馬には勝てません。


 俺は一人でボケ突っ込みをする。

 とにかく貴重な糸を材料にした魔法具には、それなりの魔法効果がある。


 「簡単に言うと白天馬の糸は重力効果を軽減力します。つまりこの糸を使った物を身に付けると体重が軽くなるのです」


 ランナーズハイな俺の頭に、使い魔による講義地獄の昔が甦った。




  ◆ ◆ ◆




「もちろん、本当に減るわけではありません。重力による負荷を、相殺する魔法効果です。

 本人の肉体、身にまとう物全ての重さを軽減できますよ」


 俺の使い魔のくせに、主人の魔法の師匠。

 俺としては大変情けないわけだが、実際そうなんだから仕方が無い。

  

「体力無いくせに貴金属で作成された魔術品を好む魔術師には、喉から手が出るぐらいほしい魔法具だと思うけどさ」

 

「通常、希少金属で高純度な程、単純な魔力付与力は増します」


「でも、純金は重いからなあ」


 俺は使い魔が持ってきた輝く魔法具を眺める。


 付けてみた純金の首飾りは、マジ肩こりになるレベルの物だった。

 宝石がごてごてついた魔法の純金杓杖なんて、野球のマスコットバット並みの重さだ。

 

「重さを軽減する魔法はありますが、効果持続時間は有限です。定期的に呪文を詠唱するのはそれなりに手間なのです」


 使い魔の説明は分かりやすかった。


 確かに連続使用のために、何度も詠唱するのは億劫になるんだよな。


「それに比べてこれはいいよな」


 俺は手首の魔法具に視線を送る。

 この魔法具は装着した魔術師の魔力を一瞬流すだけで、スイッチの様に効果を入り切りできる。

 その利便性はランプと懐中電灯の違いといってもいい。


 使い魔は首肯して、反復学習で俺の頭に叩き込むため、説明を続ける。


「一方、玄曜天馬の黒い糸は重力の負荷を強化します。これは一見マイナス効果の様に思えます」

 

「そりゃそうだ、普通重くなって嬉しい人は相撲取りぐらじゃないのかなあ」


 そんな俺の突っ込みに使い魔は恐ろしい例え話を持ち出してきた。


「特に女性に対し、体重増えて良かったですねえと言えるなら、(あるじ)は勇者確定です」


 使い魔の視線にはニヤニヤとしたからかいが混ざっていると感じた。

 本当に言ったらフルボッコのくせに。


「俺はそんな勇者になるのは辞退します」


「さて、物体の総重量が増加するという事は、慣性の法則によって同じ速度で物体が対象へ衝突した場合、より重い方が対象への破壊力も増大するという事です」


 つまり、体当たりした時の攻撃力が向上すると考えられるわけだ。


「でも魔術師が頻繁に肉弾戦をするかな?」


 当時魔術師の卵レベルの俺の疑問に、使い魔は答える。


「正直しないと思います。ですが魔法と剣術等を使い分ける魔法剣士なら話は別です」


 使い魔の説明はこうだ。


 この世界にもまだまだ隠された遺跡はあるし、その奥には貴重な魔法具も眠っているらしい。

 当然、そこに辿り着くための障害は多く楽じゃない。魔法を無効果するような生物だっている。


 未だに銃火器類の魔法付与に成功していない以上、そんな場所から生還するには、魔術師だけでは無理がある。だからこそ、剣や斧、弓の専門家は、魔術師の世界では今も需要が高いんだ。


「魔法剣士は魔術の才は専門家である魔術師に劣りますが、その格闘センスや肉体の能力の高さによって、直接的な攻撃力は魔術師よりもよっぽど高いのです」

 

 使い魔は手に持ったスタッフを軽々と振り切る。

 

「俺には重くて勘弁してほしかったヤツですけど」などと、余計な事を俺は言わない。

 ただその純金のマスコットバットを、片手でひょいと扱う相手とのガチ喧嘩は止めようと肝に銘じた。

 

「そんな魔法戦士も身軽になれる、白天馬の糸の価値は認めています。

 ですがそれ以上に、彼等にとって攻撃力の向上は必須の課題なのです。

 それが黒天馬の糸の方が人気がある理由ですね」


 やっぱ戦士は殴ってナンボだよ、うんうんと俺はうなずいた。


「でも、破壊力増加の方法は他にもあるよね?」


 俺の質問に講義好きの使い魔センセイはまってましたとばかりに返答した。


「そうですね。武器の破壊力増加の近道は武器を重くする事です。しかし重い武器を扱うには筋力が必要です。

 もっとも皆が筋肉隆々になれるわけじゃありません。

 その対処に魔法を使って短時間筋力を上げても、連続使用すれば魔力不足の上体力減退まで起こします。あと筋力以上の武器を存分に振るうには、卓越した技術が必須です。」


「それじゃあ本末転倒だね」


 俺のコメントにうなずきながら、使い魔は話を続ける。


「逆に一撃の破壊力より攻撃速度を優先する考えもあります。そして手数を増やす場合に魔法で武器を軽くすれば、今度は破壊力が減少してしまいます」


 そりゃ軽い武器が当たっても痛くないのは当たり前だ。


「猫ぱんちみたいなモノ?、いや違うか。あれは可愛いよな。爪出してくると怖いけど」


「一番確実なのは、魔法紋を武器に意匠として刻んで、魔術的に攻撃力を増す方法です」


 脱線しかけた俺を華麗にスルーして、使い魔の講義は続く。


 ……お願いだから突っ込んでください。


「これなら、慣性法則とは違うダメージが与えられますから。恒久的な効果なのも、魔力の低い戦士にはありがたいでしょう」


 例えば、簡単なのでは炎や氷とか、電撃とか。

 切れ味を高めるとか、麻痺効果なんてのもあるか。


「だけどうまい話には裏があるってのは世の常だよね」


 俺は話の先が読めて、がっかりした顔をしてしまう。


「そうです。魔法武器の値段は刻まれた紋の効果に応じて高くなります」


 ドンだけ高いかというと、レベルの低い魔法紋一つ増えるごとに、「戸建住宅が五件建つぐらいじゃな。東京都二十三区内土地付きでのう」と、魔術師商人の爺さんなら言いそうだ。


「じゃあ結局は単純に武器を重くするのがいいけど、そうすると最初の筋力の問題に戻るということだね……」


 そこで俺は白黒天馬の魔法具作成を依頼した理由を思い出した。


 軽い糸を使うだけで攻撃力が増し、それ以上に瞬間的に効果が入り切りできる機能は、一瞬の判断で戦いの生死を分ける魔法剣士にとって大きな意味がある。


 しかもこの重力負荷範囲は、ある程度なら術者の自由が利く。

 つまり、全身を平均的に重くするんじゃなく、装備した長剣だけにその重さを加える事も可能ってことになる。


 殴りつける動作の瞬間だけ剣の重さが2倍になるなら、自分の付与魔法を併用すれば、色々出来ることも増える。

 これこそが黒天馬の糸を出来た魔法具を魔法剣士の垂涎の的にしちゃう理由なんだ。




  ◆ ◆ ◆




「でも、こんな風に使われるとは思わんかった」


 俺はぐだぐだ言い続けながら足を速める。

 なにしろ疲れてる理由が、まさに黒天馬魔法具のせいだからだ。


 俺は両手以外に、両足の靴紐にも白黒天馬の糸を編みこんでいる。

 糸の使用量からいくと、各十キログラムの重力操作が可能だ。


 そして使い魔に言われた俺は、黒天馬の効果で、合計四十キロのウエイトを増やした形で走っている。

 一時間以上、休みなしで。


「やっぱ鬼コーチだーっ」


 使い魔に今は聞こえない事を知りつつ、俺は声を上げて文句を言った。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ