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魔術師涼平の明日はどっちだ!  作者: 西門
第二章 魔術師の世界
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第21話 はじまりの日

 俺の右目に魔法の力が宿ったのは両親の飛行機事故と同時刻だった。いや、そんな証拠はどこにもないが、俺はそう思っている。


 その日は流星群が日本上空を通過するというので、テレビでは午前二時頃が見頃だという流星を観測する、各地の様子が何度も放送されていた。 


「もうすぐかなあ」


 屋敷の縁側で深夜、一人で流れ星を探している六歳の俺も、そんな人間の一人だった。

 両親は今日の夕方から二人して出張。父は写真家で母は薬局を営んでおり、たまたま海外の仕事が重なったので、一緒に行くことにしたのだ。


 わりと家を空ける事の多い両親は、自分達が留守の際は、薬局の女性従業員に泊り込んで息子の世話をお願いしていた。この女性は四十代の口数の少ないおとなしい人で、俺も懐いていたので、特に問題はない。


 しかし一人で薬局と家政婦の仕事をこなすので疲れたのか、女性は今夜、早い時間に離れの客間へ引っ込んでぐっすりと就寝している。

 そこで、寝たふりをしていた俺は、こっそり縁側まで出ると、星空の中、その瞬間が始まるのをのんびり待つことにしたのだ。


 やがて、流れ星がすいっと流れた。


「見えたっ」


 俺は喜んで手を合わせるが、直ぐに光は消えてしまう。


「今度こそー」


 願い事が間に合わず、俺は次の流れ星をまっている。

 そしてどんどんと流星が夜空を横切りだすと、その美しい景色に、俺は祈るはずの手を空に向かって広げて、嬉しそうに微笑む。


「す、すごいや。お星様で空がいっぱいだ」


 突然、夜空の星のひとつが大きくなっていく。


「えっ」


 俺が驚いて見ている内に視界いっぱいに金色の光が溢れる。


 次の瞬間、俺は頭を貫くような衝撃とともに、右目が燃え上がったと感じた。

 左目はその視界を完全に失い、全てが隻眼の灼熱の炎に染まる中、瞳の中心に釘を打ちつけられるような激痛が電磁パルスの如く脳の神経を駆け巡る。


 俺は声にならないまま叫んで、呻いて、この熱さと痛みに耐えられずふらつき、転げまわる。


「い、痛い、痛い、あ、う、う」


 いつのまにか部屋から縁側を横切り、中庭の泉の前まできていた。無意識に泉の水で冷やそうとしたのかもしれない。


 顔ごと池の中に突っ込むと少し楽になった気がしたが、すぐに激痛が再発し、そのショックで手足が突っ張る。バランスを崩した体は池の中へ落ちていく。


 普段であればなんの問題もない。直ぐに立ち上がれは、俺の胸程度の泉の水深なのだ。

 しかし体が痙攣し、自由がきかない状態では、溺れるには十分な深さだった。

 水を飲み込んでしまい、俺は一気に苦しくなってしまう。


 助けて、助けてと心の中で繰り返す。


 しかし誰も気づかないまま、幼い命が尽きようとしたとき、俺は水の中にもかかわらず(ささや)くような声が聞こえた。


「大丈夫、安心してください。あなたを、傷つけたりはしませんから」


 その声に理由もなく、穏やかな気持ちになった俺は、ゆっくりと意識を失っていった。


 朝になり、泉のほとりでぐったりとなっていた俺を見つけた女性従業員は、死んでしまったと誤解して真っ青になったらしい。

 抱き上げて息があることに気づくと、救急車を呼ぶために震えながら電話のボタンを押したと、後になって語ってくれた。




  ◆ ◆ ◆




 そして俺は三日ほど入院した後、自分の家に戻った。

 そこには、いつもの屋敷が保つ落ち着いた雰囲気は欠片もない。見た事もないぐらい沢山の親戚が集まっていたのだ。


 俺は中庭の見える部屋で縁側近くの端っこに寝かされた。

 風が良く通るからすごしやすいだろうという話だったが、本当は離れの部屋に布団を敷いたり、世話に行くのが面倒だったのだろう。


 俺は、隣の仏壇のある部屋から抑えた声で交わされる、親戚連中の話を聞いていた。

 両目に包帯をされており、今の俺は音や声には敏感になっていた。

 だからだろうか、離れた部屋の小声での会話まではっきり聞こえたのは。


「二人が乗った飛行機が事故で……」


「全員が行方不明だとさ……」


「……生存は絶望的」


 それから一週間、俺は微熱が続き、意識のはっきりしない状態が続いた。

 夢の中で、いろんな幻があらわれては消えた。特に多かったのは両親が涼平に向ける顔だ。


 笑っていたり、怒っていたり、困っていたり。

 どんな表情だとしても、伝わってくるのは涼平への限りない愛情だった。


 よくわからない幻もあった。透き通った姿のひと。

 顔ははっきりわからないが、とても優しい眼差しを感じた。


 目はやがて両目とも見えるようになったが、時折、右目が熱くなって痛みのためにうなされる事があった。

 そんな時、ひんやりとした手が額の上に当てられることを感じる。そうすると熱や痛みも治まり、いつのまにかすやすやと眠りに落ちるのだった。


 ようやく体のダルさもとれた頃には、俺を取り囲む世界は以前とは全く違ったものへと変容していた。


 テレビでは飛行機事故の事で大騒ぎが続いていた。


 飛行機の欠陥?それとも某国のミサイル攻撃か?はたまた自爆テロか?もしかして流星群がぶつかったのか?

 だが墜落した機体が見つからない。搭乗者はもちろん、ライフジャケットや部品の一部さえも。


 しばらくはマスコミも事故を起こした海外の航空会社を取材するなど総力をあげてこの事故を追っており、世間もこの件でもちきりだった。


 しかし新しい情報がないため、やがてこの事故の件は下火になっていく。

 なにしろ、皆最新の話題にこそ遅れまいと必死なのだ。


 大きな政治汚職のスキャンダル。3度目の日本への五輪開催誘致。季節外れの大型台風による、全国規模の被害とボランティアによる支援。青少年による無差別殺傷犯罪。


 悲喜こもごもなニュースの中で、長い時が過ぎていく。

 そしてそれにつれ、俺の両親が乗った飛行機の行方への興味も、砂漠に埋没する街の様に失われていった。









やっと主人公のメイン

の話です。

読んでくれてありがとう。


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