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魔術師涼平の明日はどっちだ!  作者: 西門
第二章 魔術師の世界
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第12話 魔術師商人との交渉

「どうだい?」


 俺はギリアムの表情を伺うが、彼の目は魔法具や素材から一時も離れない。煩わしそうに両手だけを俺に向かって広げる。


「待て待て、ティン。ゆっくり鑑定させんか」


「師匠が魔法効果は説明するし、どうせ全部買い上げてくれるんだろ」


 俺は美雨を見るが、マグに口を付けたまま、目を閉じている姿からは、もう少し休憩させた方がいいと思えた。


「まあそうじゃがな。こんな貴重品をこれほどの量見る事ができるとは真に眼福の至りじゃ。しかも初めて見る品も結構あるぞい。だからまずはわしの目利きでどこまで探れるかやってみたいのじゃよ。正解はその後、ラベール嬢から教えてもらうとするかのう」


 笑みがこぼれてしかたない様子で、自分の懐にはいる膨大な財を知るためその品々の価値をはかっている。


「これだから、夏のバザールへ参加するのを止められんのじゃ」


「夏バザって天幕で店を出店するには、いろいろ規則があるよな?」


 俺はギリアムの鑑定が終わるまで、話が進みそうにないので、美雨が回復するまでと思いつつ、雑談を続ける事にする。


「そうじゃ。市場にブースを取って販売するには、事前申込の上三日前までに売物を搬入し、検査を受ける事が必要じゃ」


「結構面倒くさいな」


「じゃが、当日買い物に参加する分には、出発地の場所に魔法陣を描き、S&Eが公開している転移呪文を唱えればいいだけじゃ」


 俺は、今日自分達も行った転移魔法で、バザールのオアシス中央に記された巨大な魔法陣の上に、世界各地から転移してくる人々の姿を思い出した。ちなみに帰りはその逆で、呪文でオアシスの魔法陣から出発地へ転移する。


「転移魔法って便利だよな。いい加減魔法の術式を自由に構築できてもいいと思わねえ?」


 からかいぎみにギリアムに質問する。


「ティン甘いぞ。そんな事は皆わかっておる。転移魔法は、大きな有効性からあらゆる魔法結社、魔術師が日々研究しておるのじゃが、未だに自由自在に操れるようになったとは聞いておらん。

 遺跡などで転移魔法の魔法陣が描かれた呪文が発見される事はあるのじゃが、どこにでも行けるわけじゃないしのう。

 研究によって、魔法陣に予め設定されている場所へ行く事が可能になっただけで、魔術師自らは行き先設定もできんままじゃ」


 ギリアムは紫李の実(アメジナ)をつまみながら、首を捻っている。


「その上下手すると発動時期が限定されていたりするんだろ?」


 知っている事もあるが、ギリアムと話すこと自体も楽しいので、そのまま俺は質問を重ねた。


「そうじゃ。もともとこの夏のバザールが、こんな灼熱の大地で開催される理由のひとつでもあるんじゃよ。

 昔、S&Eに所属していた魔術師がある転移魔法の呪文を入手したんじゃが、それを苦労して発動してみると行き先は砂漠のど真ん中。

 その上夏の二週間しか発動しないという、大手の魔法結社からすればはずれの転移魔法陣だったそうじゃ」


 ここでギリアムはその魔術師の失望を想像し、苦笑いをする。


「そしてどうやら使い道に困ったあげく、結局主催する夏のバザールの開催地として活用する事にしたというのが魔術師界隈のもっぱらの噂じゃよ。もっともS&Eはそんな理由は認めておらんがな。

 あいつらは警備面で、一般社会と隔絶している場所である点を評価したとうそぶいておるわ」


 俺としては、S&Eの言い訳を一応理解はできる。

 なにしろ普通の魔法品コレクター以外でも魔法具を大量に欲しがるヤツはいるしな、金銭目的の犯罪集団とか。


 だがここなら砂漠を渡って普通来るまでに、大抵のヤツは見つかっちまうよなあ。転移魔法陣は常時出入りをチェックされてるしな。結果的に、S&Eの選択は悪いものではなかったんじゃないかな。

 そう考えながら老人を見ると、ようやく鑑定が終わろうとしていた。


「これはまったくもってひと財産だわい」


 ギリアムは獲らぬ狸の皮算用を繰り返しては、にやけてくる表情を真顔にもどそうと苦労していた。だが、俺の次の一言でその笑みが石の如く固まる。


「でも、今回は別のところに売ろうかなと思ってたり」


「な、なんじゃとっ」


 ひきつった顔であわてて俺の顔を見あげる。


「なにか取引に問題があったか? そうか買取価格じゃな! それなら交渉に応じるぞい」


「いやあ、どうしようかな」


「ティン、ここまで見せておいて、それはないじゃろ。わしを落胆で死なせる気か」


 本当に失望して死にそうな顔になり、弟子では話にならんとばかりに師匠の美雨へと懇願する。


「ラベール嬢、どうしても売ってくれんのか?」


「ひとつお願いしたい事があるの、ギリアム」


 美雨はのんびりした声で、ギリアムに条件を示す。

 それを聞いた彼は、交渉の余地があると思い俄然勢いが良くなった。


「なんじゃ、早う言え」


「夏のバザールの老舗の店主である、ギリアムにしかお願いできない事なのよ」


「だからはっきり言えというに」


 美雨は具体的な内容を語りだした。彼女が頷きながら、俺を見る様子から、先ほど迷惑を掛けたので、お詫びに交渉を引き受けてくれるという事らしい。

 そこで、役割を交代し、俺は弟子として発言を控えた。


「薬がほしいの」


「なんじゃ、そんな事か、この夏バザールは有名な魔法結社から隠れた高位魔術師までが一同に会する市場じゃ。ここに無い物はないぞ」


 どんな無理難題を突きつけられるかと身構えていたギリアムは拍子抜けした。


「でも見つけるには3日間は短いから」


 悲しそうな表情で顔を伏せる美雨の演技に、内心おれは可笑しかったが、表情は変えない。


「なるほど、そこで夏バザの常連でもはや生き字引とも呼ばれる、わしの出番というわけじゃな」


 ギリアムは自分である理由に納得し、胸を叩いて自慢する。


「まかせておくんじゃ。調査は無料で良いわい。ただし、目的の物の購入代金はそっち持ちじゃぞ」


「わかったわ」


 ちゃっかりと交渉をするギリアムに微笑みながら、美雨はマグの果汁水で口を湿らせる。


「で、どんな薬がほしいんじゃ? 夏バテ防止の精力剤か?」


 がはははと、老人とは思えない白い歯を見せて笑う。


「皆が知ってるとても有名な薬よ」


 そして美雨が薬の名を口にすると、ギリアムの顔はあっけに取られた表情となった。







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