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初恋  作者: りな


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9/11

現実

正直に言えば、

 最初から分かっていた。


 ——触れてはいけない、と。


 


 奈々が助手席に座った瞬間、

 昔のままじゃいられないことに、

 もう気づいていた。


 


 大人になった横顔。

 言葉を選ぶ沈黙。

 視線を逸らさずに見てくる目。


 


 妹じゃない。


 それは、

 はっきりしていた。


 


 海辺でキスされたとき、

 一瞬、頭が真っ白になった。


 止めるべきだった。

 距離を取るべきだった。


 


 でも——

 引き寄せてしまったのは、俺だ。


 


 軽い衝動なんかじゃない。


 分かっていて、

 越えた。


 


 だからこそ、

 苦しかった。


 


 俺には、

 結婚を考えている相手がいる。


 長く付き合ってきた人で、

 式の話も、

 少しずつ現実になってきていた。


 


 裏切るつもりはなかった。


 奈々を傷つけるつもりも、

 なかった。


 


 でも、

 「何もしなかったふり」は、

 もうできなかった。


 


 車の中で、

 奈々が震える声で言った。


 


 「好き」

 「一度だけでいい……」


 


 ——その言葉は、

 あまりにも無防備だった。


 俺なんかには

 向けてはいけないものだった。


 


 ずるいのは、最低なのは、

 紛れもなく俺で。


 


 欲しがってしまった。


 彼女の覚悟に、

 応えてしまった。


 


 一度だけなんて、

 触れてしまえば止められやしないのに。


 


 奈々には、

 ちゃんと選ばれる恋をしてほしい。


 曖昧な影に、

 閉じ込めてはいけない。


 


 ——そう思っているのに。


 


 彼女と別れる選択も、できない。


 こんな最低な俺を、

 どうして奈々は、

 あんなにもまっすぐに好きだと言うんだろう。


 


 もう、

 妹にも兄にも戻れない。


 


 触れた肌の感触が、

 体温が、

 呼吸が、

 まだ残っている。


 


 忘れられない。


 


 ——それが、

 俺が背負うべき現実だった。


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