はじめての人
高校生になって、
私は恋をした。
それは、
これまでとは少し違う始まりだった。
同じクラスでもなく、
特別に目立つ人でもない。
ただ、
一緒にいると落ち着く人だった。
放課後、
二人で帰ることが増えた。
駅までの道。
夕焼けの色が、
日によって違うことを、
私は初めて知った。
彼は、
私の話を遮らなかった。
黙って聞いて、
必要なときだけ、
言葉をくれた。
その沈黙が、
心地よかった。
付き合うようになったのは、
高二の夏だった。
告白は、
私からだった。
「私ね、
逃げないって、決めたの」
そう言った声は、
少しだけ震えていた。
「だから……
よかったら、
付き合ってほしい」
彼は、
少し驚いた顔をして、
それから、
ゆっくり頷いた。
初めて、
彼の家に行った日。
ドアが閉まる音が、
やけに大きく聞こえた。
触れる指先も、
近づく距離も、
すべてが、
初めてだった。
怖くなかったわけじゃない。
でも、
逃げたいとも思わなかった。
私は、
初めて、
自分から
一歩、踏み出した。
夜、
彼の腕の中で、
目を閉じたとき、
ふと、
あの人の顔が浮かんだ。
——ごめんね。
そう思った自分に、
少しだけ驚いた。
私はもう、
子どもじゃない。
誰かを選ぶことも、
選ばれなかった過去も、
全部、
自分のものだった。
それでも。
彼の背中に
顔をうずめながら、
私は思った。
私は今、
前に進んでいる。
——それでいい。




