はじめての彼
中学に入って、
私は彼氏ができた。
バレーボール部の先輩だった。
背が高くて、
真面目で、
笑うと少し照れる。
「付き合ってください」と言われたとき、
私は一瞬だけ、
しょう兄ちゃんの顔を思い浮かべた。
すぐに、
首を振った。
比べちゃいけない、と思った。
放課後、
一緒に帰った。
部活終わりの道は、
夕方の匂いがしていた。
初めて手を繋いだ日、
彼の手は、
少しだけ湿っていた。
私の手も、
同じだった。
繋いだ瞬間、
胸が高鳴った。
これが恋なんだと、
思った。
家にも遊びに行った。
ソファに並んで座って、
テレビを見た。
距離が近くて、
それだけで、
少し緊張した。
何も起きなかった。
それが、
正しい気がした。
彼は、
私を「女の子」として見てくれた。
名前を呼ぶ声も、
目を合わせる時間も、
ちゃんと、
恋人だった。
それなのに。
夜、布団に入ると、
思い出してしまう。
頭を撫でる手。
大きくて、
迷いのなかった、
あの手。
比べるつもりはなかった。
でも、
心は勝手だった。
彼と話しているとき、
私はよく笑った。
安心もしていた。
でも、
どこかで、
「守られている」感じが
足りなかった。
それに気づいてしまったとき、
私は怖くなった。
——私は、
まだ初恋の中にいる。
彼とは、
長く続かなかった。
理由は、
はっきり言えなかった。
「嫌いになったわけじゃない」
それだけは、
本当だった。
彼は、
最後まで優しかった。
それが、
少しだけ、
胸に残った。
中学一年の春。
私は、
はじめての彼氏と、
はじめての別れを経験した。
そして、
気づかないふりをして、
また一つ、
しょう兄ちゃんとの距離を
思い知った。




