距離
中学生になってから、
私とあの人の間には、
目に見えない線が引かれた。
目が合えば、挨拶もするし、
会話だってする。
だけど、
昔みたいな気安さはない。
彼は、
私を妹として扱った。
声の距離も、
立つ位置も、
全部、きちんと計算されたみたいに。
「奈々、遅くなるなよ」
「寒いから、ちゃんと上着着ろ」
言葉は優しい。
でも、
そこに迷いはなかった。
私をどう扱えばいいか、
彼はもう決めてしまっていた。
頭を撫でることは、
なくなった。
代わりに、
少し離れた場所から、
様子を見る。
隣に座ることもない。
テレビを見るときは、
必ず一つ、
席を空けた。
それが「配慮」だと、
分かってしまうのが、
いちばんつらかった。
彼は、
何も間違っていない。
正しい大人の距離で、
正しい関係を選んだだけ。
私は、
かこ姉ちゃんと過ごす時間が増えた。
「奈々、ほんと大きくなったね」
そう言って笑う彼女は、
私の失恋を知らない。
もしくは、
そんなに重いものだとは、
思っていない。
台所で並んで、
どうでもいい話をする。
部活のこと、
友達のこと。
あの人の名前だけ、
出さずに。
彼は、
私を妹として扱う。
私は、
それを拒む理由を、
もう持っていなかった。
——それでも。
妹という場所は、
安全で、
遠くて、
少しだけ、
残酷だった。
それが、
私の初恋の、
続き方だった




